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11-1.練度の差

 マコたちはさらに二日、米軍基地に留め置かれることになった。暴徒たちの一部は一旦は捕らえられたものの、翌日には解放された。一人を除いて。

 暴徒が解放されたのは、米軍に捕虜を養うだけの食糧を確保する余裕がないためだ。それに、彼らが基地を襲ったのは、魔法使いという強力な戦力を当てにしてのことだと事情聴取から判明していた。魔法使いを無力化した上で捕らえた今、再度襲う気力はないだろうと判断された。もちろん、武装解除されている。


 魔法使いは、マコの作った魔力錠を仕込んだチョーカーを首に巻かれ、牢に入れられた。暴動制圧中に作った魔力錠は米軍に提供し、いざという時──チョーカーを紛失した時──には切り取って使うように伝えた。


 その後、マコはマモルから、欧州の魔法使いの生い立ちを簡単に聞いた。

「異変と同時に両親を亡くし、一緒に生活していた兄を暴漢に殺されて、その時に彼も殺される寸前でつむじ風が発生し、相手をどこかへ吹き飛ばして、生き延びたそうです。

 その後は一人で他人から食糧を奪って生活していたそうですが、そのうち地元の無法者たちの集団を率いるようになったようです。敵対者をつむじ風で吹き飛ばしていた結果でしょうが。

 その後も食糧を奪って生活していたようですが、さすがに限界が来て米軍基地を襲うことを考えたようです」


 それを聞きながらマコは、自分は幸運だったな、と思う。異変が起きた直後から、変化は一過性のものではないと判断したレイコが即座にマンションをまとめ、それだけでなく、周囲のコミュニティも巻き込んで新しい生活基盤を構築してくれた。そのお陰で、多少不便になったとは言え、生死が危ぶまれるような状況にはならなかった。


「周りが落ち着いた環境だったら、彼もあたしみたいに理論的に魔法を覚えていったかも知れないですね。逆に言うと、あたしもここに生まれてたら、彼みたいになっちゃったかも」

「だからと言って、彼のしたことが正当化されるわけではありません」

 マモルは厳しい声で言った。

「うん、それはあたしもそう思います。ただ、ちょっと同情しただけで」

 彼が、あり得たかも知れない自分の姿だと思うと、マコは同情せずにはいられなかった。


「ところでマコさん、彼は理論的にでなく、本能的に魔法を使っていた、と考えているのですか?」

 少し前のマコの言葉が引っかかったのだろう、マモルはマコに聞いた。

「はい、多分ですけど。彼は多分、意識の上では、『風よ吹け』とか『炎よ燃え上がれ』とか思っているだけで、無意識で魔力を放出してエネルギーに変換しているんだと思うんです。具体的に魔力がどうとか、考えていないんじゃないかな。魔力自体は感知していたみたいですけど」


 魔法を使う時、彼は唇を動かしていた。呪文でも唱えるつもりで風や炎などの現象を口にしていたのだろうとマコは思う。魔力が魔力錠に触れて消失して行く時、放出した魔力と身体を繋ぐ魔力を切っていた。あの時には危険を察知して意識的に切ったと思ったのだが、あれも無意識だったと今なら思う。危険を察知したことに違いはないが、意識的に気付けるかどうか、と言う点に違いがある。


「危機回避には無意識に反応できた方がいいんでしょうけど、能動的に魔法を使うには意識して魔力を操作できないと、相手が魔法使いだったら勝負にならないですね」

「あの男とマコさんの対決のように?」

「そうですね。あたしも、魔法使いとの対決なんて三回目ですから、大層なことは言えませんけど」


「正直な話、相手もマコさんのように理論立てた魔法を実践していたら、どうなっていました?」

 マモルの質問に、マコは考えながら答えた。

「相手の練度次第ですけど、押されていたと思います。最初は、魔力量はあたしの方が多いと思いましたけど、実際に彼と対峙したらあたしより多かったみたいだし、あたしの魔法の使い方って生活のために磨いてきたから、戦闘向きじゃないから」

「マコさん以上の魔力を持っていたのですか?」

 マモルは目を見張った。


「はい。少なくとも、体表面の魔力、魔力(ホールド)はあたしより多かったです。魔力(ホールド)と体内の魔力(ストア)が完全に比例するわけじゃないけど、多少の目安にはなるから。魔力(ホールド)があたしの三割増くらいだったので、魔力(ストア)も少なく見積もって、あたしの一割増、多ければ五割増くらいはあると思います」

「そんなに? 今まで、マコさん以上に魔力を持っている人はいませんでしたよね?」

「はい。彼が初めてです。今までに、あたし以外で一番多かったのは、一月にマンションで産まれた赤ちゃんですね。あたしの三分の一くらいはあったんじゃないかと思います」

「赤ちゃん? ああ、あの時の()ですね。あの時は驚きました」

「あたしも。突然でしたもんね」


 あの時、マコはマモルと、マンションの前に腰掛けて話していたのだった。誕生と共にマンションの敷地全域に響き渡った産声は、近くにいた人々の意識を刈り取るほどの威力を持っていた。マコがいなければどうなっていたか、想像もつかない。想像したくない、と言うべきか。


「しかし、マコさんに匹敵する魔法使いはどれくらいいるのでしょう。こんなことがあるたびに呼び付けられたら堪らないでしょう」

「それはレイコちゃん、あ、母が突っぱねると思いますよ。魔法使いって言っても所詮は人間ですから、現地の人間で解決してくれって。直接関係するならともかく、縁もないのに、わざわざ遠くまで助けに行く義理はありませんから」


「……以前から思っていましたが、冷めていると言うか、はっきりしていますね」

「母もあたしも、スーパーマンじゃありませんから。できることには限界がありますし、自分を犠牲にしてまで他人を助けるなんてできません。冷たいかも知れませんけどね」

「いいえ、当然のことと思います。お二人とも、立派です」

「立派なのはマモルさんたち、自衛隊の人たちですよ。こんな世の中になっても、国民のために働いているんですから」

「それが自分たちの義務ですから」


 そこへ、米軍との会議に残っていたシュリとスエノが戻って来た。マモルが敬礼で迎える。

「出発は明日の朝になったわ」

 シュリが、予定を伝えた。

「やっと帰れますね」

「マコさんもお疲れでしょう。明日に備えてゆっくりして下さい」

「そんなでもないです。座ってただけですし」

 それでも、マコも何度も会議に参加させられたりして、それなりに疲労は溜まっていた。マモルに魔力を繋いでいる安心感で、かなり軽減されてはいたが。


「でもやっぱり、みんなにお土産を買って行けないのが残念です」

「それなら、暴動鎮圧に協力した報酬に、お土産を要求しましょうか」

 マコの言葉にシュリが笑みを浮かべて応じた。

「あ、その手がありましたね。でも、それなら……」

 マコは、うーんと腕を組んで考えた。その可愛らしい姿をマモルは慈しむように見つめ、女性自衛官たちは二人を微笑ましく見守った。

 そんな、大人たちの様子には気付かず、マコは頭を上げた。


「折角だから、報酬としてこういう要求はできませんか?」

 マコの提案を聞いたシュリは少し考えて頷き、米軍と掛け合うために、再び部屋を出て行った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 翌朝、マコと自衛官三人を乗せた飛行機は、欧州の米軍基地を飛び立った。往路と同じく、一度米国に立ち寄り、翌日に日本へと帰国する。

「マコさん、三、四時間したら、無理にでも眠って下さい。先ほど起きたばかりですが」

 マモルがマコを労わるように言った。

「はい、解っています。時間は限られてますもんね。皆さんも休んで下さいね。飛行中は護衛もいらないでしょうから」

「ええ。そうさせて戴きます」

 シュリはにっこりとマコに答えた。


 マコたちを乗せた飛行機は、米国へと向けて大西洋上空を飛んで行く。

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