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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第十章 欧州遠征

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10-10.暁の襲撃

「正直な話、勝算はありますか?」

 マモルが真剣な表情でマコに聞いた。マコは、先程の竜巻を思い出して分析する。

「魔力量では圧倒できそうな気がするんですよね。多分、あたしの半分くらい?」

 マコが竜巻四個を鎮めるのに六割の魔力を消費したが、作ってからの成長を考えると、作るのに使った魔力は半分程度だろう。それでマコの三割。余力を残していると見て、マコの五割ほどの魔力量と見積もった。


「でも、魔力量より使い方が重要なんですよね」

「使い方、ですか」

「はい。例えば地竜とか飛竜なんて、魔力は量で言えばあたしの何倍も持ってるはずです。それでもあたしが地竜を倒せたのは、地竜がおそらく本能で魔法を使うだけなのに対して、あたしは魔法について仮説を立て、実践して、間違っていたら仮説を考え直して、って試行錯誤しながら理論を組み上げて、できることを増やして来ました。その理論を持っているかいないか、って言うのが対地竜戦の勝因ですね」

「つまり、マコさんの理論と暴徒の魔法使いの理論のどちらが優れているか、と言うより、どちらがより深く掘り下げているか、が鍵と言うことですか」

「はい、そうです」


 マコはマモルが正しく理解してくれていることを知って、嬉しさに顔を綻ばせた。

「それでさっきの竜巻を見た感じなんですが、理論立てて魔法を使っていると言うより、本能的に使っている感じがしたんですよね。あたしの直感でしかないんですけど」

 強いて言うなら、竜巻を起こすと言う魔力の使い方が非効率的だと言うことだ。確かに一度作ってしまえば勝手に成長するかも知れないが、成長するほどに大きな竜巻を作るにはそれなりの魔力を使う必要がありそうだ。

 しかも、大きくなった竜巻の進行を制御することもできない。少なくとも、竜巻を治めるために魔力を纏わせた時、竜巻に魔力は混じっていなかったから、その時点で竜巻の制御をしていなかったことは確実だ。


 そもそも、食糧を奪うなら竜巻や暴動で陽動して食糧備蓄庫を襲うなどという無駄なことはせず、瞬間移動で持ち去ればいい。備蓄庫の場所を正確に知っていたらしいから、内通者がいないのならば、魔力を伸ばして基地内を探索したと考えられる。食糧が欲しいなら、探査のために伸ばした魔力で奪ってしまえばいい。

 それをせずに力技に出るということは、魔法を理論立てて考えていないのではないかとマコは思った。

 単に、瞬間移動の可能距離が短いのかも知れないが。マンションの住民、例えばジロウは、魔力を数十メートルまで伸ばせるが、瞬間移動距離は数メートル程度だから。


「それなら、勝機は充分にありますね」

「はい、そう思ってます。上手くいけば、一瞬で終わるでしょうね」

「一瞬、ですか?」

 マコの魔法を間近で見て来たマモルも、さすがに信じ難いと言う顔をした。

「はい、一瞬です。上手くいけば、ですけどね」

 マコは笑顔で応じた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 夜になるまで、次の襲撃は無かった。シュリとスエノも合流し、米軍兵士がマコや自衛隊員たちの装備を持って来て、マコは防弾ベストを手早く身につける練習をしたりした。

「それは実弾ですか?」

 支給された銃を確認する自衛官たちにマコは聞いた。

「実弾と言えば実弾ね。訓練や暴徒鎮圧に使う、ゴム弾頭よ」

 シュリが教えてくれた。


 そのまま何事もなく夜を迎え、マコはベッドに入った。自衛官たちも、一人を警戒に残して交代で就寝する。

 いつ襲われるか判らない状況で熟睡なんて無理ゲー、という夢を見ていたマコは、頬を叩かれて目を覚ました。

「あ、マモルさん、もう朝……じゃないですね」

「まもなく夜明けですが、襲撃です」

「解りました。うーん」

 目を擦ったマコはベッドから降りると、手早く防弾ベストを着用してその上から上衣を羽織り、ヘルメットを被った。腰に鋼板を入れたウェストバッグを巻く。自衛官は三人とも、すでに準備を終えていた。


 四人が部屋を出ると、扉の前で待機していた米軍女性兵士に案内されて、廊下を駆けてゆく。彼女も武装している。

《すぐに外に出て戴きます。敵も銃で武装していますので注意してください》

 翻訳してもらった兵士の言葉を聞いて、マコは緊張する。予め魔力を展開しておけば銃撃にも対応できる自信はあるが、無防備な状況で死角から撃たれたら対処できない。

「大丈夫、マコさんは自分が守ります」

 マコの気持ちを察したマモルに言われて、マコは頷いた。微笑もうとしたが、上手くいかなかった。


 外に出ると、銃声が聞こえた。腰を落として前方の建物の陰まで駆け、身を潜める。

「ちょっと待ってください。えっと、索敵します」

 魔力をいっぱいまで伸ばし、全周を探査する。その間にも別の兵士が、警戒しつつ横を駆けて行った。


「いた」

 見つけるのは簡単だった。放出した魔力に引っかかる相手の魔力(ホールド)の厚みを調べるだけだ。マコの半分ほどの魔力量があるなら、魔力(ホールド)もそれなりの厚みになっているだろうと見当を付けて探したところ、対象者が一人いた。魔力(ホールド)の厚みはマコを凌ぐ、およそ三十一ミリメートル。相手の魔力量の見積もりを誤ったかもしれない。目標までの距離は約百二十メートル。


「では、すぐに移動を。場所は?」

「ちょっと待って」

 行動に移ろうとするシュリをマコは遮る。魔法使い探知のついでに見つけた二個の竜巻を、魔法で同時に無力化した。四~五百メートルしか離れていなかったので、なんとかなった。

「竜巻を消しました。次が来る前に目標に近付きましょう。場所は、この建物を抜けて、次の建物の間も抜けてから百メートルくらい先。少しずつ近付いています」

 マコは半径百五十メートルの半球形に魔力を広げて言った。ただし、目標とマコの中央付近を球の中心にする。


「ただ……攻撃が激しいですね……」

《どこですか?》

 米軍兵士が小さな地図を出した。マコは、目標のいる場所と進行方向を指で示す。兵士は一瞬考えた後、指で自分たちの進路を指し示した。この建物の反対側を抜け、前方の建物の中を突っ切って近付くルートだ。

 シュリが頷くと、女性兵士は地図をしまって先に立って進んだ。その後ろにシュリ、マコと続き、マモルとスエノが殿を務める。


 東の空が白んで来る中、マコは、魔力で覆った範囲の人の動きに意識を払いつつ、遅れないようにシュリに続いた。マコが民間人であることを兵士も意識しているらしく、速度はあまり出ていない。

 建物を突っ切り、右手に曲がると、魔法使いと仲間たち数人の側方を取ることに成功した。そこでマコは魔法使いが前方に魔力を放出するのを感知、魔力が小さな竜巻を作るのとほとんど同時に消し去る。魔法使いが驚きの表情を浮かべたことが、この周辺に魔力を満たしているマコには判った。


 兵士と自衛官たちは、隠れた物陰から銃を出し、引金を絞る。銃声とともに飛翔したゴム弾が、襲撃者たちの数人に当たった。さらに銃撃は続き、何人かが地に伏した。残った襲撃者たちが物陰に隠れる。魔法使いには当たらなかったようだ。

 その間にマコは、ウェストバッグから瞬間移動で一枚の鋼板を取り出し、魔力(ネームド)を込めた。相手の魔法使いの魔力を良く良く感じ取り、魔力(コマンド)に変えて魔道具──魔力錠──を作る。


 兵士が拡声器を取り出し、前方へ向けた。襲撃者たちに向けて声を出す。マコには何を言っているのか解らない。ベルギー語かな? あ、ベルギーの公用語はフランス語とオランダ語とドイツ語だっけ、などと考える。言語が何にしろ、投降を呼び掛けているのだろう。


 魔法使いが立ち上がり、何か喋りながら無防備に歩いて来る。米兵とシュリが銃を構え、引金を絞った。しかし、ゴム弾は空中で不自然に跳ね、あらぬ方向へと飛んで行く。

 魔法使いはさらに近付きながら、唇を動かした。大量の魔力が放出される。

(ヤバい)

 マコは放出された魔力の前に瞬間移動し、魔力錠を持った手で前方の空間を払った。《特定の魔力を〇・一秒間に五〇パーセントの確率で魔力(ダスト)に変える》ように作った魔力錠が、相手の放出した魔力に接触し、みるみるうちに魔力(ダスト)に変えてゆく。


 相手の魔法使いが魔力の消失に気付かなければ、これだけでほぼ完全に相手の魔力を封じることができたはずだ。しかし、相手もそこまで莫迦ではないらしく、異常を感じてすぐに外部の魔力を切り離したようだ。


 魔法使いは足を止め、何か叫んでいるが、マコには解らない。さっさと終わらせようと思った時、物陰から銃弾が飛んで来た。マコの前に突然マモルが飛び込み、マコを抱きかかえて地面に押し倒した。マコの魔法により銃弾が空中で跳ね、地面に落ちる。

「マモルさん、大丈夫です。でもありがとう」

「余計なお世話でしたか」

 マモルは身体の横に落ちた銃弾を見て言い、注意深く、しかし素早く立ち上がる。

 物陰から飛び出した襲撃者が二人、ナイフを閃かせてマモルとマコに飛びかかるが、マモルと他の自衛官や兵士の銃からのゴム弾の連射を受けて倒れ伏した。


 マコが立ち上がるとほとんど同時に、魔法使いから放出された魔力がマモルとマコを包み込む。その外側が瞬間的に燃え上がったが、マコの持っている魔力錠に触れて内側から魔力(ダスト)に変わってゆき、マコたちに炎が燃え移ることなく消える。

 魔法使いは何か喋りながら、二歩、三歩と後退った。

(逃がさないよっ)

 マコは魔法使いの直前に瞬間移動、魔力錠で相手の身体に触れた。服の上からだったが、何しろ魔力(ホールド)が三センチメートルもある。服を突き抜けている魔力に魔力錠が触れて、あっと言う間に、魔法使いは無力化された。


 魔法使いは尻餅をついた。マコはそれを見届けることすらせず、マモルの元に瞬間移動で戻った。

 ここにいた襲撃者たちは、マコが何をしたのか解らなかったものの、魔法使いが敗北したことは感じ取ったようだ。分が悪いと判断した彼らのうち、動ける者たちは銃を構えて連射しつつ逃げ出そうとしたが、銃口から弾丸は発射されなかった。魔法使いを無力化するついでに、マコが瞬間移動で銃弾を奪っていた。


「これで終わりですね」

 まだ銃声は聞こえるが、マコが相手をすべきは魔法使いだけだ。そして彼は、もはや魔法使いとは言えない。マコによって魔力(コマンド)へと変えられた魔力(セルフ)を残らず体外に放出してしまえば回復するはずだが、彼がそれに思い至るかどうかは判らない。

「それにしても、マコさんが前に飛び出た時には息が止まるかと思いました。これからは事前に言ってください」

「はい、気を付けます」

 安堵したマモルに、マコは笑顔で答えた。


「すぐに戻りましょう。まだ全員が捕縛されたわけではありませんから」

 米兵による襲撃者の捕縛を手伝っていたシュリとスエノが戻って来た。

「あの人は?」

 マコは女性兵士を見た。

「彼女はまだ仕事があるそうです。魔法使いを捕縛した時点で我々の任務は終わりですから」

「そうですね。解りました」


 他の襲撃者たちも、すぐに鎮圧されるだろう。それを待たずに、マコは自衛官たちに守られて建物に戻った。



■ネタ

 眠れるわけがない、という夢を見ていた……「ダイアショック」(神林長平)から

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