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10-9.竜巻

 マコは窓の外に信じられない物を見た。

 立ち昇る、三本の竜巻。

 それが、米軍基地を襲っている。それ程大きくはないが、破壊力はそれなりにあるだろう。実際、それによって吹き飛ばされたらしい仮設住宅の残骸が見える。

 空は晴天、雲一つないとは言えないが、白い雲がいくつか見えるだけだ。

「こんな天気の日に、竜巻なんて起きるんですか?」

「いや、聞いたことはありません。あったとしても、三つも同時にはありえません」

 マコの疑問にマモルが答える。


 竜巻の一つが滑走路を進み、駐機していた飛行機の主翼を破壊した。 別の一つは基地の建造物を通っているが、鉄筋コンクリート製の建物を破壊するだけのエネルギーは無いようだ。

 さらに一本の竜巻が、地面から立ち昇ってゆく。どう考えても自然現象ではない。


《一時退避します。着陸できる場所を探します》

 ヘリコプターが向きを変える。

「何て言ったんですか?」

 マコの質問に、パイロットの言葉をマモルが翻訳した。それを聞いたマコは、操縦席に身を乗り出た。兵士が肩を掴み、マコをシートに戻そうとするが、マモルがそれを止める。マコは兵士に肩を掴まれたまま、操縦席の女性士官に向けて声をあげた。

「戻ってくださいっ。竜巻の近くまでっ。あたしが抑えますっ」

 女性士官はマコを振り返り、戸惑いの表情を浮かべた。

「近付いタラ、マキコマれて墜落してシマイマすっ」

「大丈夫っ、あたしが抑えますっ。どう見ても自然現象じゃありませんっ。誰かの魔法ですっ。それならあたしが対抗しますっ」


 晴天の中、三本も竜巻ができていることで魔法の可能性を疑ったが、目の前で四本目が立ち昇る場面を見て、その疑惑は確信に変わった。魔法による攻撃、しかも目標が自分も関係している米軍基地となれば、自分が攻撃されたのに等しい、とマコは認識した。それなら、こちらも魔法で対抗するだけだ。

「早くっ。大きくなったら対処できませんっ」

 躊躇う女性士官にマコは叫んだ。今はまだ小さいから、なんとかなる。しかし、あのまま大きくなってしまったら、どうしようもなくなるだろう。


 女性士官は躊躇ったが、マコの駄目出しで心を決めた。

《基地に戻りなさい。竜巻の近くにまで》

《冗談でしょう? この機ではひとたまりもありません》

《いいから、命令に従いなさい》

《……了解》

 パイロットは諦めたように応じた。ヘリコプターが旋回する。


 パイロットに指示を出した士官はマコを振り返った。

「ドレだけ近付けバイイですか?」

「えっと、五百……ううん、六百メートルまで」

 マコは竜巻の高さとヘリコプターの飛行高度を目視でざっと確認し、頭の中に直角二等辺三角形を描き、ざっくりと計算して答えた。

 士官はパイロットに再び命じた。

《竜巻の前方、六百メートルに付けなさい。急いで》

《了解》

 パイロットは慎重に、竜巻の一つに近付いてゆく。


「マコさん、揺れますから座っていてください」

 マモルが、マコの肩を掴んでいる兵士越しに言った。

「でも、前が見えないと……」

「中央の席からなら大丈夫ですから」

 そう言われて、マコは仕方なしに後ろに下がって椅子に座った。マコの肩を掴んでいた兵士も椅子に掛ける。もう一人の兵士と女性士官は、操縦席の補助座席を使っている。


 マコは、椅子から身を乗り出して前方の竜巻を睨んだ。魔力を、ヘリコプターの正面のガラスを突き抜けて伸ばしてゆく。

(もうちょっと……あとちょっと……で届いた……後は上下に伸ばして……)

 竜巻の影響でヘリコプターに振動が加わる。マコの魔力が届いたばかりなので一キロメートル前後は離れているが、小さい割にここまで影響が出ているようだ。


 パイロットが慎重に距離を縮める中、マコも魔力を追加してゆく。魔力は物質を透過するから風の影響も受けないが、竜巻が一点で止まっていてくれないので、動きに合わせて魔力を操作する必要がある。位置を合わせながら魔力を上下に伸ばして竜巻の高さに合わせてゆく。

(これで良し……魔力を追加投入して、容積を合わせる……)

 竜巻全体に満たすように魔力を投入する。

(四つもあるから魔力を無駄にはできない……竜巻を治めるちょうどの濃度で……よしっ、ここっ)

 魔力を、竜巻の風を相殺するように力に変える。途端に、竜巻の勢いが落ちた。それだけで消えはしなかったものの、力を無くした竜巻はみるみる内に風力を弱め、消えていった。


「今ノは、マコサンが?」

 操縦席から女性士官が顔を出して聞いた。

「はい、そうです。早く残りの竜巻も片付けましょう」

 マコの言葉に女性士官は頷き、パイロットに指示すると、ヘリコプターは次々と竜巻の前に移動し、マコは機内から竜巻を消していった。


「あれは何かしら?」

 シュリが疑問を口にしたのは、三個の竜巻を消滅させ、四個目の対処をしようとしている時だった。マコは先に竜巻を消し飛ばしてから、まだ窓から外を見ているシュリに聞いた。

「何かありました?」

「ええ、どうも暴動らしいわね。もう鎮圧されそうだけれど」

「暴動?」

「ええ。ここには食糧の備蓄庫もあるし、米本国からの物資供給があることは輸送機が定期的に訪れていることを見れば判るから、それを狙ったのでしょう」

 シュリは厳しい表情でマコの疑問に答えた。


 シュリの考えていることが、マコにもなんとなく解った。不自然な大量の竜巻と、米軍基地への襲撃が同時に発生した。偶然のわけがない。

 日本に帰国する前に、もうひと騒動、巻き込まれそうな予感がした。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 基地に降りた後、マコはまたもや会議に参加させられた。議題は基地襲撃事件の報告と今後の対策だ。正直、マコは関わりたくはなかった。民間人にも怪我人が出たとは言え、ドイツの基地のようなある意味自然災害に対する支援ではなく、住民同士の諍いだ。そんなものにいちいち手を貸していたら、いくら時間があっても手が足りない。暴動は異変内の至る所で起きていると言うのだから。


 しかし、竜巻を治めたのがマコである事実は変えようがないし、今回の暴動と竜巻が関係していることも疑いようがない。それを考えればマコはすでに現地の諍いに手を出していることになり、無関係とは言い切れなくなってしまった。少し前、ドイツの基地を発つ時の『すべての情報を知ってから』と言う思いを早速破ってしまった形だ。


 それに、マコが乗って帰るはずだった飛行機が竜巻で破壊されてしまったことも、マコたちをここに足留めし、ひいてはこの会議に参加させられる一因となった。せめて飛行機が無事だったら、逃げられたかも知れない。


(だけど、あの時はああでもしないと被害が広がりそうだったし)

 マコが心の中で言い訳している内に、暴徒の数や指揮系統、被害状況などが報告される。例によって隣に座ったスエノが翻訳して教えてくれた。マモルとシュリは、マコの守護神のように後ろに立っている。


 報告でマコが気になったのは、住居への攻撃が陽動だったらしい、ということだ。暴徒の本隊は食糧の備蓄庫を狙ったらしい。狙う意味は解るが、どうしてピンポイントで備蓄庫の位置が判ったのだろう? 内通者がいるのでなければ……。


《ミス本条、竜巻について聞きたい。貴女があれを消したということだが、どうやったのだ》

 自分の名前が出て来てぴくっと身体を震わせたマコは、スエノの翻訳を聞いてから答えた。

「竜巻に重ねて、回転の逆向きに魔法で空気を動かしました。それで風を弱めて、消しました」

 マコの答えを、スエノが英訳して伝える。

《魔法で竜巻を消せると言うことは、君も竜巻を作ることもできるのかね?》

「やったことはありませんが、できると思います」


 しかし、竜巻の中には魔力がなかった。魔力で空気を攪拌してある程度の大きさの気流の流れを作ってしまえば、後は勝手に育っていくのだろう。

 魔力で空気をかき混ぜるなんて、何て非効率的なのだろう、と竜巻が魔法で作られたものだと考えた時にマコは思ったが、一度作れば後は勝手に成長してくれるなら、思ったほど非効率ではないのかも知れない。それでも、自然に成長するほどの竜巻を作るには、かなり大量の魔力を消費する必要があるだろうが。


《タイミングから考えて、備蓄庫襲撃と竜巻の発生は連動している、つまり、襲撃者の中に魔法使いがいると考えられる》

 まあそうだろうな、あたしもそう思うし、とマコは翻訳された言葉を聞いて思う。

《しかし、奴らに備蓄を放出してやるわけにはいかない。何しろドイツ基地から移動して来た人員もあり、我々もぎりぎりなのだ》

 軍人たちが一様に頷く。

《そこで対策として、警備の人数を倍に増やす。ドイツ基地からの兵士も含めれば無理ではないだろう。それからミス本条》

「はいっ」


 自分が呼ばれたことが解って、訳される前に返事していた。

《魔法使いには我々では対処できない。貴女にその義務がないことは承知しているし、我々も頼めた義理でないことも理解しているが、次の襲撃があった時に、防衛に協力して戴けないないだろうか?》

 マコは、スエノが訳した言葉を聞き、最後に「米軍将官にしては随分と丁寧にお願いしているわね」と付け加えられた言葉も加味して考えた。


 できれば関わりたくはない。しかし、飛行機を破壊された以上、しばらく足留めされることは確定事項だし、その上、次の飛行機がまた破壊されでもしたら、ますます帰国が遅れてしまう。万一、襲撃がないからと安心して帰国の途についたところで破壊されでもしたら、最悪だ。


「解りました。ただし、あたしが相手をするのは魔法使いだけです。ほかの人たちは米軍でなんとかして下さい」

《もちろんだ。魔法使いさえいなければ、我々で充分対処できる》

「それから、もう二つ」

《なんだね》

「一つは、今回あたしが欧州に来るに当たり、協力契約に無かったことなので、報酬をお願いします」

《ふむ。当然の要求だ。考慮しよう》

《報酬についてはこちらで引き取ります。民間人救出の報酬もこちらが担当しておりますので》

 女性士官が言い、将官も頷いた。


「それともう一つ、ゆっくり休ませて下さい。実は、さっきの竜巻を消すので魔力をほとんど使い切っちゃったので、今攻めてこられたら対応できるかも判らないです。少しでも休んで、魔力を回復しないと」

 使い切った、と言うのは言い過ぎだが、四個の竜巻を消し去るためにマコは魔力の六割ほどを消費していた。気力も結構使った。

《解った。すぐにも案内しよう》

 将官が頷くと、本当にすぐに、女性兵士が来てくれた。ここで会議から抜けていいらしい。マコはほっと息を吐いて、マモルと共に会議室から退室した。シュリとスエノは、会議の終わりまで参加し、内容に重要なことがあればマコにも教えてくれる。


「大変なことになりましたね」

 案内された部屋で、マモルが言った。

「そうですね。でも、帰る時に飛行機落とされたりしたらもっと大変だし、何とかします」

 マコは、会議室で考えたシチュエーションで、マモルに答えた。

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