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10-8.依頼達成

 飛竜を撃退し、地竜の埋まった地点を監視する手配が済んだ後、一時中断していた民間人の救助活動が再開された。

 同時に、マコはキャンプの司令部になっているテントへと呼び出された。地竜をどうやって殲滅したのか、聴取するためだ。ほとんどの兵士は地上にいたため、何が起きたのか解らなかった。何箇所かにある監視塔にいた兵士たち──とマッドサイエンティスト──はその光景を目にしたものの、噴き上がる土煙ですべてが見えたとは言えなかったし、見た者たちも自分の目を疑った。


 マコがやったことと言えば、地竜たちの足場になっている地面を、上空百五十メートルほどの地点に瞬間移動させただけだ。移動させた土は、五〇×五〇×一〇〇メートル。

 その結果、足場を失った地竜は百メートル下の地中に叩きつけられ、そこへ二百五十メートルの高さから落ちてきた大量の土砂に押し潰され、そのまま閉じ込められ、生き埋めとなり、生き絶えた。


 やったことはトンネルの造設と同じなのだが、米軍の士官たちにとって信じ難いことだった。いや、信じたくないことだった、と言った方がいい。トンネルの造設を始めてからマコの感じていた感謝の視線が、疑わしいようなものを見る目に変わった。


「あの、あたし、何かやっちゃ不味いことやっちゃいました?」

 会議から解放されて割り当てられたテントに戻ったマコは、自衛官たちに恐る恐る聞いた。

「いえ、マコさんの決断は間違っていません。ただ、彼らとしては、マコさんの今後の扱いに困っているのですよ。マコさんが気にする必要のないことです」

 マモルが優しく言った。

「扱いに困る?」

 マコは首を傾げた。


「つまりはこういうことです。基地の人々の救出や今回の地竜の撃退は、マコさんがいなければ簡単にはいかなかった。しかし、マコさんが地竜の殲滅で見せた力はあまりにも強大だった。マコさんとは協力関係を維持したいが、もしその力が敵に回ったら? それに備えるべきでは? と彼らは考えているのですよ」

澁皮(しぶかわ)一尉、そこまで言わなくても」

 マモルがシュリを咎めるような声で言った。

「いいえ、四季嶋(しきしま)二尉、このことはマコさんも正しく認識しておくべきよ。知っていれば、マコさんは自分で対処することもできるのだから」


「しかし、マコさんはまだ十六ですよ? 守るなら自分が身体を張ってでも守ります。マコさんが気にする必要はありません」

「……マモルさん」

 シュリに言い募るマモルの腕に、マコは手を置いた。

「心配してくれて、ありがとうございます。でも、大丈夫です。気にしないでください。これくらいのことを知ってもあたしは大丈夫です。それに、あたしが知っていた方がマモルさんも守りやすいと思いますし」

「マコさん、あまり無理はしないでください」

「大丈夫、ちゃんと頼りにしてますから」

 マコはマモルに微笑みかけた。その太陽のような笑顔に、マモルは赤くなる。


 そんな二人を微笑ましく思いながら、シュリは続けた。

「けれど、米軍がマコさんに対して具体的に何かする可能性は、ほぼないわね」

「どうして断言できるんですか?」

 マコは首を傾げた。

「断言とまでは言えないけれど、日本から一緒に来た例の女性士官、彼女がマコさんに友好的だからですよ。友好的と言っても、こんな時に協力して欲しい、悪く言えば上手く利用したい、と言うところですね。

 加えて、以前も言ったかと思いますが、彼女は階級の割に力、政治力を持っているようなので、自分が利用したいマコさんの不利益になるようなことは抑えてくれるでしょう。あくまで米軍、米国に限った話ですが」


「ってことは、日本の米軍基地と事を構えない限り、あの人が守ってくれるってことですよね」

「そうね。監視はしているでしょうけれど」

「それはそうでしょうね」

 シュリの言葉に、マコは頷いた。

「マコさん、米軍の監視に気付いていたんですか?」

 マモルが聞いた。

「想像していただけですけどね。でも、ここに来て、って言うか来る途中で、確信しました。見せてない瞬間移動のことを知っていましたから」


 他にも、念話や魔道具の作製など、マンション内で使ったことのある魔法は概ね知られているだろうと考えている。ただ、ここに来る時のマッド博士の話した感じでは、かなり過大評価していたようではあるが。

 本当なら過小評価して欲しいところだが、それは相手がどう思うかなので仕方がない。

(飛竜の時はともかく、今日も海竜の時も全力を出しちゃったからなぁ。力をセーブしていると思われたとしたら、過大評価にもなるよね。でも、加減してたら撃退できたか判らないし。仕方ないよね)


 すでにやってしまったのだから、考えても仕方がない。これからは自重して手を抜こうと思いつつも、実際に必要な場面に直面したらやっぱり全力を出してしまうだろうな、ともマコは思う。

 魔法の使用精度を高めて必要最小限の魔力で対応できるように精進していくしかない。


 そう気持ちを切り替えたマコは、自衛官たちを見て言った。

「しばらく暇ですよね。魔力を感じる練習の続き、します? あたしも魔力を正確に伸ばす練習して過ごします」

「まだ練習するんですか? あんなに凄い魔法を使えるのに」

 マモルが驚いたように言った。

「あたしだってまだまだですよ。何しろ魔法を使えるようになってから一年も経ってないんですから」

「あれだけ凄いことをできるマコさんでも、まだ練習するんですね」

 スエノも言った。


「それじゃ、四季嶋くんと矢樹原(やぎはら)さんは練習して。できれば日本に帰るまでに念話できるようになりたいし。警戒は私がするから」

 シュリが二人を階級で呼ばず、一人称も『私』なのは、魔法の練習が自衛隊の業務範囲外だからだろう。警備は仕事なのだから一人称は『自分』じゃないのかな?とマコは思ったが、深く考えないことにして、マモルとスエノと一緒に魔法の鍛錬に励んだ。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 以降は、地竜のスタンピード──と言うほど大袈裟なものではなかったが──が発生することもなく、軍人・民間人の全員を基地から脱出させることに成功した。その後、マコの作ったトンネルは、基地側キャンプ側共に分厚いコンクリートで塞がれた。キャンプ側に掘られた穴も埋められた。

 軍人の大部分はまだキャンプに留まっているが、民間人のベルギーの米軍基地への移動は終わり、そこからイタリアの基地への移送も始まっている。


 軍人の一部はここに残ってキャンプに基地を設営する検討も進んでいるようだ。何しろ、彼らを米本国へ帰国させるわけにはいかない。それならここで新たな任務を与えた方がいいと言う判断のようだ。

 もっとも、それはマコの関知することではない。ここへは民間人の救出要請に応じて来ただけで、軍人たちや救出された民間人が、ここでどのような新しい生活を送るのかは知ったことではない。マコも、自分の生活で精一杯なのだから。


 民間人を乗せた最後の大型ヘリコプターを追うように、マコと自衛官たちを乗せたヘリコプターも飛び立った。日本の米軍基地の女性士官も一緒だが、マッド博士はしばらく残って米軍が仕留めた二体の飛竜を調べている。

 また、マコが生き埋めにした地竜も、一体掘り起こし──マコが瞬間移動で取り出したのだが──ていて、一緒に調べるそうだ。


 これも、本国が異変に呑まれていない米軍だから、呑気に調べる余裕があるんだろうな、と冷めた気分で、マコは飛び立ったヘリコプターの窓から地上に横たえられた巨大生物を見た。

 いや、米国はともかく、あのマッドサイエンティストなら自分が異変に呑まれても、自分の生活よりも好奇心を満たすために動くかもしれない。それどころか、自分も魔法を使えるようになると、何もかもを放っぽって、その力を引き出すために嬉々としてマコの元を訪れそうだ。


「マコさん、疲れていませんか?」

「大丈夫です。ここのところ、睡眠時間をたっぷり取れてますから」

 気遣うマモルに笑みで答えるマコ。トンネルが開通した後は、地竜退治の時くらいしか大掛かりな魔法を使うことがなかったので、気力も充分満ちている。

「帰りは、ベルギーの基地には泊まらないんですよね?」

「はい。基地に着き次第、米国行きの飛行機に乗り換え、米国では一日休んでから日本に向かいます」

 マコが確認すると、マモルが予定を教えてくれた。


「一ヶ月くらい掛かっちゃったけど、無事に救出できて良かった」

 マコはやっと一仕事やり終えた気分で言った。返事は米軍女性士官からやって来た。

「本当にアリガとうございマス。マコさんのおかげで最小ゲンのギセイにオサえることができましタ」

 トンネルが開通してから、新たな死傷者は出なかった。これは、迎えに行くトラックが基地に向かう時の往路で食糧や医薬品などを運んだことによる。


 トンネルが開通するまでは、毎日少量の物資を飛行機から投下するしかできなかった。飛竜が飛び交っているので、高空からパラシュート無しで投下するしかなく、破損した物資も多い。また、地上には地竜が這い回っているので、回収時点で兵士が負傷することもあった。

 救出を目的にしたトンネル造設だったが、救出の間の物資の供給にもトンネルは大きな効果を上げていた。そのおかげで、開通後は栄養失調などで身体を壊す人も激減していた。


「食べ物を空中輸送していることを知ってたら、もっと協力できたんですけど」

 後から考えると、日に一度くらい、マコが補給物資を瞬間移動で届ける方法もあったのだが、物資の投下時間にはトンネルに入り込んでいたマコは、その事実を知らなかった。女性士官にしても、機上会議で基地までの瞬間移動は回数に制限があると聞いていたため、トンネル造設に支障が出ては不味いと考え、マコにそれを依頼することはなかった。


「ケッカ的に、五日デトンネルが出来タノですから、最善のホウホウでした」

 そうかも知れないが、トンネルが半分まで開通した後なら、瞬間移動一回で物資を送り届けることも可能だった。そうすれば、支援の手は三日早く始められたはずだ。

 しかし、過ぎたことを思い悩んでも仕方がない。次があるなら、すべての情報を予め教えてもらうようにしよう、と思うマコだった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


《何だあれはっ!?》

 まもなくベルギーの米軍基地に到着する頃、操縦席から強い声が出て聞こえた。

《何があった?》

 女性士官が立ち上がって操縦席に入って行く。一緒に乗った兵士の一人も続く。

 残った兵士と自衛官たちも、窓の外に目を向けた。


 ただならぬ声音と周りの人々の動きで、マコも異変を感じ取り、マモルの隣から窓の外を見る。

「え? 何で?」

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