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10-7.地竜退治

 ウゥウ~~~~ゥウゥゥ~~~~


 不吉を予感させるような音に、マコはぶるっと身体を震わせた。

「何ですか?」

「確認します」

 マコから念話の使い方を習っていたマモルとシュリが立ち上がり、護衛の当番を担当していたスエノがテントから出た。スエノはすぐに戻って来た。

「警備兵も状況が解らないそうです。すぐに確認するそうです」

 スエノが報告する。

「装備確認。マコさん、いつでも移動できるように荷物をまとめてください」

 シュリが指示を出す。マモルとスエノはすぐに装備を整えた。元々最小限の装備だし、トンネル敷設中に借りていた小銃は米軍に返却済みのため、時間はほとんどかからない。

 マコも、ヘルメットを被って鋼板を入れたウェストバッグを腰に巻き、着替えなどを詰め込んであるバッグに外に出ていた手荷物を押し込んで、いつでも背負えるように手に持った。いざという時には捨てることになるかも知れない。


 マコが準備を終えた時、テントの中にいたのはマモルだけだった。シュリとスエノはテントの外で警戒と情報収集に当たっているようだ。

「何があったんでしょう?」

 マコはマモルに聞いた。

「解りません。ですが、マコさんは自分が守ります」

「はい。頼りにしてます」

 マコが笑顔でマモルを見ると、彼は恥ずかしそうに微笑み、すぐに真顔に戻った。


 シュリがテントに入って来た。

「ちょっと面倒なことになったようね。状況を話すと、基地方面から約三十体のサラマンダー、地竜と、七体の飛竜がここに向かっている。現在、米軍が対戦車ライフルとロケットランチャーで応戦中。

 地竜は最初、五体が地下トンネルに沿ってこちらへ向かっていた。その場ではトンネルを傷めかねないのでランチャーは使用出来ず、ライフルで応戦して誘導を試みた。誘導には成功したものの、それに触発されたのか、地竜と飛竜が誘引されるように群がって来た。

 現在は引き続きトンネルから地竜を引き離すように側方からライフルで攻撃しつつ、飛竜およびトンネルから離れた地竜を、ランチャーで攻撃中。

 我々はここで待機。避難命令が出た場合は退避する。質問は?」


「あの……」

 マコが手を上げた。

「はい、何でしょう?」

「その、退避って、どこに? それと、基地から救助した人たちは?」

「彼らはトラックで避難します。我々は徒歩です。避難先は、後方のビル群です」

 基地と逆方向に行けば、都市のビル群が残っている。そこに逃げ込めば地竜と飛竜の攻撃を躱せるかも知れない。しかし、安全は保証されないだろう。

 それに、脱出してきた民間人は疲弊している。ヘリコプターに乗り切れない人たちがひとまず落ち着いたテントを、逃げるためだけにすぐに追われることは、彼らの疲労を倍加させることになるだろう。


「あの、ですね、澁皮(しぶかわ)さんは反対されるかもしれませんが、地竜と飛竜の討伐に協力したいのですが、無理、ですか?」

 マコは、恐る恐る聞いた。シュリは溜息を吐いた。

「海竜の時のことを思えば、マコさんのことだから、そう言うとは思ったけれどね、でも今度は地竜三十体に飛竜七体よ? 何かできると思う?」

 マコは少し考えてから口を開いた。

「判りません。でも、いまここにいる個人の中で、あたしが最大の戦力だと思います。民間人の危機に、最大戦力を遊ばせておくのは愚行じゃないですか?」


「そう言うとは思ったわ。だから今、矢樹原(やぎはら)二尉に、マコさんが戦闘参加できるよう、交渉してもらっている」

「ありがとうございますっ」

「お礼を言うのは私たち、いいえ、米軍よ。四季嶋(しきしま)二尉」

 シュリはマモルを振り返った。

「はっ」

「何があってもマコさんを守り、無事に日本へ連れ帰ること。この命令はマコさんが家に帰るまで有効です」

「はっ。元よりそのつもりです」

「よろしい。と言うわけで、私と矢樹原さんはあなたから離れざるを得ないことがあっても、四季嶋くんがあなたを警護するわ」

「はい。よろしくお願いします」

 マコはマモルに頭を下げ、マモルは生真面目に敬礼で応えた。


 しばらくして、スエノがここの兵士と共に戻って来た。

「報告します。マコさん協力の了解を取り付けました。すぐに移動をお願いします」

 マコは頷き、三人の自衛官と共に兵士に案内されて、複数建てられている監視塔の一つに向かった。遠くに飛竜が舞い、時々爆音が響く。微かに見える土煙は地竜が立てているのだろう。

 監視塔の登り口には、日本の米軍基地で異変に対する指揮をしている女性士官が、護衛の兵士と共に立っていた。


「またマコさんに頼ッテしまい、モウシ訳ありまセン」

「それは後にしましょう。すぐに登ります」

「少ショウお待ちクダサい。コレを」

 手渡されたのは双眼鏡だ。マモルにも兵士から渡される。

「監視兵もモッテいまスガ、別にアッタ方がイイでしょう」

「ありがとうございます」

 マコは礼を言うと、ストラップを首に掛けて監視塔の梯子を登って行った。シュリとスエノは、監視塔の下で警戒する。


 監視塔には三人の兵士がいた。すでに連絡は来ているらしく、マコが登ると、場所を空けてくれた。

 兵士たちに礼を言って、双眼鏡を目に当て、立ち上っている土煙を見る。煙の中に、巨大なトカゲのような姿が見える。

 こちらから見て右側方から銃弾が飛ぶ。対戦車ライフルだろう。地竜はトンネルからは離れて来ているが、外れた時にトンネルを破壊しかねないと、ロケットランチャーは使えないようだ。


 土煙の範囲からすると、地竜は割合まとまっているようだ。距離はおよそ一キロメートル。もう少し近付いてくれないと、魔力が届かない。

 マコは、自分のやろうとしていることを頭で反芻してから、マモルを振り返った。

「マモルさん、あの地竜をこっちに引き寄せるように伝えてください。飛竜はこのまま横手に」

 マモルは、聞き返すことなく兵士に言った。兵士は『とんでもない』と言うように言い返し、マモルと問答を始める。


 やがてマモルの熱意と剣幕に負けたのか、兵士が通信機のスイッチを入れてどこかと連絡を始めた。無線は使えないから、ここの司令部だろう。と言うより、この状況で、他の連絡先は考えられない。

 兵士がマコの要求を伝えたあと、しばらく雑音が聞こえていたが、再び声が聞こえた。兵士は了解の返事を返すと通信機を切り、他の二人に伝える。

 二人は対戦車ライフルを構え、一人は側方の部隊にフラッシュライトを向けて、モールス信号で交信する。すぐに応答が返って来た。


 それを確認した兵士はロケットランチャーを取り出して構える。マモルがマコの肩を抱いて監視塔の隅へと避けると、銃口と砲口が火を噴いた。やや遅れて、地上からも銃弾や砲弾が飛んで行く。


 マコは、双眼鏡で着弾地点の様子を観察した。横手からの攻撃が途絶えたことで地竜たちがこちらへ頭を向ける。続けて、第二弾の攻撃。地竜の一体が後足で立ち上がり、空中に向かって炎を吐いた。砲弾の二発が空中で爆発する。

「うわぁ。飛竜よりもまともに魔法を使ってる……」

 マコは独り言ちた。

 マコが日本で対峙した飛竜は、口の前に生み出した炎を(ブレス)で広げていた。しかし地竜は、口から魔力を吐き出して、それを炎を変えている。魔力の使い方としては、飛竜よりも巧みで海竜よりも拙い、と言うところか。

(口から吐くのはなんでかなぁ。口を開くと弱点を相手に見せることになるのに)


 しかし今は、それを詮索する時間はない。第二撃を耐え切った地竜たちがこちらに方角を変えて走って来たから。

「攻撃を一旦止めるように伝えて下さい」

 マモルに言って、マコは魔力を展開する。展開先は、監視塔から七百メートル離れた地中と、その上空。大量の魔力を放出し、罠を張る。地竜たちは、何も知らずに走ってくる。


「今だっ」

 地竜たちが罠を張った地点に来ると同時に、マコは魔法を発動させた。その途端、地竜が足元に突然空いた穴の中に、ずどどどどっと落ちて行く。走っている内に地竜の列は前後に伸びていたが、後続の地竜たちも急停止できず、突然目の前に現れた落とし穴に飛び込んで行く。

 そこへ、穴が開くのと同時に上空に出現した巨大な直方体の土の塊が、形を崩しながら、どごごごごごっと轟音を立てて降り注ぐ。

 数秒で、すべての土塊が穴を塞いだが、地竜の進撃よりも遥かに大量の土煙が舞い上がり、何も見えない。


 マコは更に、瞬間移動のために空中に展開していた魔力を地上に下ろし、下向きの力に変えて盛り上がった土を叩きつける。また、地響きが起こる。それを何回か繰り返し、落とし穴を完全に塞いだ。むしろ、めり込んでいる。

「地竜は退治しました。一応動いてはいませんけど、穴を掘って出てくる可能性もあるので注意してください。飛竜はお願いします」

 マコは、残った魔力を回収しながらマモルを通して兵士たちに伝えた。


 兵士たちは、目の前で起きた、自分たちの想像を絶する光景に呆気に取られていたが、マモルの訳したマコの言葉を聞くと、司令部に報告した。

 地竜と飛竜に分散していた米軍の攻撃は飛竜に集中した。その結果、七体中二体の飛竜をロケットランチャーで仕留めることに成功し、残りの飛竜は諦めたのか飽きたのか、やがて基地方面へと飛び去った。

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