表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第十章 欧州遠征

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/177

10-5.欧州へ

 飛行機は欧州に直行はせず、いったん米国本土に立ち寄り、一晩を過ごした。

 異変の影響を受けた者を一時的にでも留め置くことで通信障害を心配しないのだろうか?一日程度なら問題ないと踏んだのだろうか?とマコは思ったが、彼女と自衛官が泊められたのは、異変の初期に日本の米軍基地から帰国した人々が集められた地区と言うことだった。つまり、元々通信障害の発生している地区だから、四人が一晩宿泊したところで大差はない、と判断したと言うことらしい。


 実際、すでに通信障害が広がっているのならば、その原因が四人程度増えたとしても劇的に悪化することはないだろう。マコが意識的に魔力を大量放出すればその限りではないが、マコには魔力を無駄使いする意図はない。


 四人には、まとめて一つの部屋が割り当てられた。それは自衛官たちも望んだことだった。守る対象はマコ一人なので、可能な限り全員が護衛対象の近くにいた方がいい。男が混じっていることも、隊の訓練で良くあることだし、海辺のコミュニティを訪れた時に、マコとマモルは同室で休んだ経験があるので、問題にはならなかった。


 海辺で宿泊していた時のように、マコは眠っている間もマモルを魔力で包んでいた。マンションにいる間もずっと魔力を伸ばしているが、夜、就寝中はいつの間にか離れてしまう。意識が完全に堕ちている時に持続できるのは、せいぜい数メートルが限界のようだ。目覚めている時なら、魔力を伸ばせる限界の一キロメートル前後は持続できる自信がマコにはあるのだが。


 米国で一泊した翌日、食事の後で再び会議が行われ、マコの案を正式に採用することが伝えられた。ただし、少し変更が加えられ、その影響について、マコは質問された。

 変更は、マコが『土管』と表現したパイプを、並行に二列作ること。なお、パイプの太さは直径三メートル、長さ五メートルとなる。

《一日四十回が限度と言っていたが、二列になった分、時間が掛かるかね》

「パイプが小さくなった分、回数を増やせると思います。所要日数は前後すると思いますが、初日の調子を見て何日かかるか判断します。でも、二列になったことも合わせて、十日あれば二キロは進めると思います」

《解った。よろしく頼む。作戦の詳細だが……》


 パイプは既に現地への空輸を始めている。二本のトンネルはそれぞれ行きと帰りに使い、トラックでの輸送を円滑に行う。本当は三列のトンネルを作って徒歩での脱出も並行して行うことも考えたが、パイプの調達が間に合わないためにトラックでの輸送のみに絞った。

 マコがパイプを土中に移動した後、パイプ内に鉄板を敷く。そのための資材もパイプと一緒に空輸中だ。

 照明や送風機も用意され、工兵がトンネル内の視界と空調を確保する。


 また、地中から瞬間移動で移動できない生物が現れる可能性も考慮し、自衛官には小銃が貸し出され、他に米兵の護衛も同行する。

 有毒ガスの発生も考えられるので、ガスマスクも用意される。

 その他、考え得るあらゆる事態に備えて取られる対策について、伝えられた。マコはほとんど、スエノの訳してくれる言葉を聞くだけだった。


 会議の後は、再び機上の人となり、ベルギーの米軍基地へと移動した。ここでも一日宿泊し、次の日にヘリコプターでドイツへと移動する。

 米国とベルギーのそれぞれで休憩を入れたのは、民間人のマコの時差ボケを懸念してのことと、マコが現地に到着する前に、必要な資材を出来るだけ運んでおくためだった。


「まだ暗くて良く見えませんでしたけど、街が思ったより荒れていた感じがしましたね……」

 用意された部屋に室内で四人だけになってから、飛行機の窓から見えた光景についてマコは自衛官たちに話した。

「そうですね。ビルが結構崩れているように見えました。それに何箇所かで煙が上っているようでしたし」

 マモルが部屋を確認しながら、マコに答えた。

「建物によっては、ちょっと不自然なほどに壊れていましたね。光の加減かも知れませんが」

 スエノが言った。

「暴動の数も規模も日本とは比べ物にならないようだから、それででしょうね」

 シュリも同意した。


「ここは大丈夫だったんですかね。軍事基地って言ったら食糧の備蓄もたくさんありそうだし、襲撃されてもおかしくなさそうだけど」

「どうでしょう。武器も、使えなくなったものはありますが完全に無くなったわけではありませんし、襲われても防衛は可能でしょう」

「むしろ供出したのでは? 駐屯地でもやっていましたが」

「それはどうかしら。ここは米軍基地だから、他国民のために何かするかは怪しいわよ。補給もままならないとなれば、基地内の自国民を優先するのは当然だもの」


 シュリの言葉を聞きながら、そうなっちゃうだろうなぁ、とマコは思う。レイコにしろ、マンションの復興にこそ力を注いでいるものの、それ以外は気にしていられない。周辺のコミュニティの復興にも協力しているが、取引先としてその地域が機能していた方がマンションにとって有益だからだ。

 マコも、今回は米軍だけではどうにもならないと言うことで欧州くんだりまで連れて来られたが、本当なら現地で解決してくれればいいと思う。多数の人命がかかっていなければ、断っていたところだ。


 そう言えば、今回の報酬のことは話していなかったな、とマコは思った。レイコがマコにタダ働きをさせるはずがないから、マコの知らない間に米軍に無茶な要求をしているのかも知れない。何しろ、この話が最初にもたらされた時、マコはマンションにいなかったのだから、その時に何かを要求していた可能性はある。それとも、何か困ったことができた時のために貸しを作っておくつもりか。

 しかし、マコはそのことについて考えるのをやめた。レイコに任せておけば、悪いようにも損をすることもないはずだ。自分はこれからのことに注力しよう、とマコは思った。


「そう言えば、なんか家を建ててましたね。プレハブの」

 マコは飛行機が降り立った後に、この建物に案内されるまでに見た敷地内の光景を思い出して言った。

「ええ。今回の作戦で救出した人々の新居でしょうね。こことイタリアの基地で受け入れるそうですから」

 スエノが答えた。

「そう言えば、そんなことを言ってましたね。でもどうするんでしょうね、これからの生活」

「これからの生活って?」

 シュリが聞いた。


「ここに住むのはいいですけど、食糧とかどうするのかなって。日本の米軍基地も同じですけど。今は本国から空輸した食糧で生活しているみたいですけど、いつまでもそれじゃ、その内に限界が来ますよね。通信の問題があるから本国にも連れて行けないし。そもそも(アメリカ)大陸でも異変が起きたらどうするんだろ?」

 半ば独り言のようにマコは言った。

「判りませんね。異変に巻き込まれた国々への支援は捨てて、国外にいる自国民を守ることだけに注力しているのでしょうが、確かにこのままではジリ貧でしょうし」

 マモルが頷いた。


「あたしが心配することでもないですけど。あたしもあたしで、マンションの生活の復興に協力するだけで一杯一杯ですし」

「あら? 海辺に行って漁船の修理もしたじゃない」

 シュリが言った。

「あれだってマンションの生活のためですよ。お魚があった方が食生活が豊かになりますから」

 それがなければ、レイコもわざわざ十キロ以上離れたコミュニティと交流を持とうとは思わなかっただろう。少なくとも現時点では。


「マコさん、眠くはありませんか?」

 部屋をあらためたマモルが、話題を変えてマコに聞いた。

「はい、飛行機の中でも寝ていたし、今は大丈夫です」

「出発は明朝なので、途中眠くなるかも知れませんが、夜まではなるべく起きていてください。昼寝をするにしても、三十分程度で」

「はい、頑張ります」


「マコさん、この後どうします? 基地内もあまり歩き回って欲しくないようでしたし」

 スエノが聞いた。異変に呑まれた今も、機密事項はあるのだろう。協力関係にあるとは言え、他国人に自由に行動されたくはないようだ。

「うーん、小説でも持って来れば良かったですね。マモルさん、身体浄化の練習します? するなら付き合いますよ」

 シュリとスエノと違い、マモルはまだ身体浄化の魔法に慣れていない。米国の基地ではシャワーを使えたが、今日から作戦終了まではタオルで身体を拭くくらいしかできないだろう。


「いえ、自分は身体を拭ければ充分ですので。練習は帰国してからゆっくりやります」

 遠慮するマモルを、シュリがにやにやと見た。

「四季嶋くん、そんなことじゃ女の子にモテないわよ。女の子は清潔な男性が好きなんだから。ねえ、マコちゃんもそうでしょ?」

「え? え、ええ、まぁ、不潔な人よりは清潔な方がいいです……」

 マコは頬を赤くしながら答えた。マモルも少し、頬が染まっている。そんな二人を、女性自衛官たちは面白そうに見た。

「そうですよ、身体浄化ができれば、身体はいつでも清潔でいられます。これからの世の中では、大切な女の子のいる男性には絶対に必要な魔法になりますよ」

 スエノも煽った。


「二人とも揶揄わないでください。マコさんが困っているじゃありませんか。……では、練習しようと思います。他にやることもありませんし。その、マコさん、コツとか、教えていただけますか?」

「……はい、喜んで」

「お願いします。二人は周囲の警戒をお願いします」

「はいはい」

 二人の女性自衛官は面白そうに返事して、マコとマモルから少し離れた。マモルは同僚の視線を意識して振り払い、差し出した手の甲に神経を集中させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ