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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第十章 欧州遠征

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10-3.旅立ちの前に

 マコが、米軍の協力依頼に応じて欧州へ旅立つことになり、マコもレイコもその対応に追われた。レイコと同じく、マコもマンション内で重要な役割を担っているので、長期間の不在が予定される今回は、マンション内で色々と調整する必要があった。

 海辺のコミュニティに行った時には、長期になっても週に一日は戻る予定だったし、精々十数キロメートルの距離なので、いざとなれば人を走らせれば良かった。しかし今度は、地球を半周近く移動することになるので、おいそれと連絡を取ることもできない。そもそも移動すら、米軍に依存するしかないのだから。


 まず、米軍基地から再度士官が訪れて、一週間後の出立が決まった。


 魔法教室の初回で行なっている魔力を知覚させることは、それまではマコとジロウの二人で行なっていたが、出立までの一週間はジロウだけで行なってもらい、マコはそれを見守ってジロウだけで問題がないか確認した。


 魔道具の生産は、今はほとんど自衛隊の依頼分だけだ。自衛隊が訪れた時に、最初は作れる人に任せ、時間的に余裕が無くなると残りをマコが纏めて作っていた。この作業を、最初から最後まで他人に任せることになる。

 ミツヨとヨシエもそれぞれ一人で作れるようになり、他にも四人が作れるようになったから、総勢六人。これだけいれば、対応できるだろう。多少時間がかかってしまうことは、自衛官にも断っておいた。

 他に、街灯用の魔力灯の作製もあるが、これは大した数ではないので問題ない。


 魔力機関も作って、それを使う自動車の設計と、可能なら試作もマコの不在時にしておいてもらうことにした。大きな金属の塊がマンションには無かったが、マコが作った模型のような小型の試作品を元にして、自衛隊が二基の魔力機関(の元)を作製・提供してくれた。一基は自衛隊が持ち帰り、駐屯地でも自動車の開発を試みる。


 製材や重量物の運搬など、マコの瞬間移動で行なっていた一部の作業も、すべて人力で行なってもらうことになる。それを大工や、マンションの各棟の代表者に伝えた。


「こうしてみると、あたしって結構いろいろなことをやってたんだね」

 他の棟にレイコと挨拶に行った帰り道、マコはしみじみと言った。

「そうよ。やっと自覚した? 米軍にも協力しているし、海辺に漁船の改造にも行ってもらったし」

 レイコは娘に優しく言った。

「でもさ、レイコちゃんの方がもっと色々やってるでしょ? それも面倒くさいことばっかり」

 マンション内の人々の取り仕切りと、周辺コミュニティとの交渉。レイコの果たしている役割は、まとめてしまえばその二つに集約できるし、交渉は他の住民と分担しているが、取り仕切るための過程はいくつもあるし、交渉の方法についても指示しているから、レイコの労力は他の住民の比ではない。


「確かに面倒ではあるけれどね、それを疎かにすると人々の間で生きていくのが難しくなるから。特に、こんな世の中ではね」

 レイコはマコに諭すように言った。要するに、人間関係を大切にしろ、と言うことだ。これからしばらく、知らない人々と共に欧州で過ごすことに対する助言だろう。少なくとも、マコはそう捉えた。

「まあ、関係を拗らせないようには気をつけるよ。仲良くしておけばが、今後も何かと力を貸してくれるだろうし」

 逆に関係を拗らせたら、魔法使いの研究のために、今度は米軍がマコを誘拐しかねない。逃亡を防ぐ手段も、いくらでもあるだろう。簡単なのは、薬で眠らせておくことだ。意識がなければ、魔法も使い様がない。

 米軍に変な気を起こさせないためにも、良好な関係を続けるべきだ。


「お土産を買ってこれそうにないのが、残念だなぁ」

 マコは言った。

「なに莫迦なことを言ってるの。マコが無事に帰って来てくれることが一番のお土産よ。とにかく気を付けて、無事に帰って来るのよ」

「うん。解ってる。大丈夫、自衛隊の人もいるし、米軍の人も守ってくれるだろうから、危険はほとんどないよ」

 あるとしたら、移動中の飛行機かな? 万一落ちたりした時にどうやって身を守るかシミュレーションしておこう、とマコは思った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「マコちゃん、また米軍と一緒に行動するって本当?」

 今日あたりフミコにも挨拶しておこう、と思いながら荷物をまとめていたマコの元に、当のフミコが訪ねて来た。

「こんにちは。はい、そうなんです。それでしばらく留守にするから、今日、挨拶に行こうと思ってた所です」

「挨拶じゃなくてっ。行くならどうしてもっと早く言ってくれないのっ? わたしだって準備があるんだからっ」

「はい?」

 普段のおっとりした様子と同一人物とは思えないほどの勢いで詰め寄るフミコに、マコは後退りしながら首を傾げた。


「あの、今回行くのはあたし一人ですよ? あ、自衛隊の人が何人か護衛についてくれますけど」

「そうじゃなくてっ。米軍と協力する時にはわたしが付き添うことになってたじゃないっ。どうして今度はマコちゃん一人で行くのよっ」

「えっと、フミコさん、取り敢えず、落ち着きましょう。えっと、取り敢えず上がってください」

 家の玄関でいつまでも言い合っているわけにもいかない。マコはフミコを自分の部屋に招いた。ヨシエは小学生の授業中、他の大人たちも仕事があって留守にしている。いるのはキヨミだけだが、呼ばない限りは部屋から出て来ることはない。


「えっとですね、米軍との協力関係は、軍艦に行ったあの時で一旦終わりました」

 冷やした水を出してフミコを落ち着かせてから、マコは話した。

「だから、前回のフミコさんの付き添いをお願いした時の米軍との契約はもう終わっていて、つまりフミコさんの付き添いも終わっているんですよ。それで、今度はそれとは別に協力契約を求められたので、フミコさんに付き添い義務は無いんです」

 マコは、噛んで含めるように言った。


「義務とか言わないでよ。これまでずっと、一緒に行った仲なんだから、これからも、わたしも一緒に行くよ」

「フミコさん……でも、今度は多分一ヶ月とか、もっと長くなるかも。そんなに長く、ご両親と離すなんて忍びないです」

「それを言ったらマコちゃんも同じでしょ。本条さんも、付き添いがいた方が安心するよ」

「いや、でも、今度行くのはそもそも治安の悪い所なんです。危険だと判っている所に連れて行けません」

「だからそれもマコちゃんも同じじゃない。そんな危険な所にマコちゃん一人行かせられないよ」

「そのために、自衛隊も三人も人を出してくれるんです。三人では、あたし一人を護衛するのでいっぱいいっぱいって言ってました。それに、日本の復興もしないといけないから、それ以上の人数は出せないとも言われました」

「そ、そんな……」


 マコの理詰めの説得に、フミコは言葉を失った。ただ、マコは少し嘘を混ぜた。三人で護衛可能な人数の上限が一人かは聞いていない。尤も、異変前も要人一人の警護にSPが五人も六人も張り付いていることは、テレビのニュースやドキュメンタリー番組を見ていれば、一度ならず目にしたはずだ。だから、説得力もあるし、本当に護衛対象の上限は一人だけかも知れない。


 フミコはさらに何か言おうと視線を泳がせたが、護衛の人数を増やせない、とのマコの言葉に反論する言葉を思い付かず、結局、大きな溜息を吐いた。

「解ったわ。今回は諦める。でも、マコちゃん、何でも一人でやろうとしないで、わたしにも相談して。力にはなれない時も、心の支えくらいにはなるから。マコちゃんは、付き添いの義務はもうないって言ったけど、わたしはまだそのつもりだし、義務なんてなくても、いつだってマコちゃんの支えになるから」

「ありがとうございます。今はその言葉だけであたしは充分です。次からはフミコさんに最初にお知らせしますね」

「絶対よ」


 最初に付き添いをお願いした時には躊躇っていたのに、今はこんなに積極的になるなんて、人って変われば変わるんだなぁ、と自分のことは棚に上げて思ったマコは、(いとま)を告げたフミコを送り出した。同時に、もし次があった時、内緒にしていたら怒るだろうな、とも。

 しかし、米軍から協力を要請されることなど早々ないだろう、と軽く考えたマコは、荷物まとめに戻るのだった。

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