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死と再生のヴァルプルギス(リバース編)

 聖レーン暦2681年、5月1日。


 毎年恒例の魔女の祭典、『ヴァルプルギスの夜』の翌日。




 ──何と驚いたことにも、『九条の障壁カベ』によって完全に封鎖されている列島国家『ブロッケン皇国』において、『世界の敵』たる最強にして最凶の魔女たちが、一人残らず自ら命を絶ったとの情報が舞い込んできたのであった。




 これには、エイジア大陸東部最大の人間ヒューマン族の国家、神聖帝国『ёシェーカーёワルド』の国防軍の上層部が、大慌てとなるのも無理は無かろう。




「……本当に、全員死んでしまったのか、あの魔女たちが?」


「島内に赴いた特殊潜入部隊の報告では、皇国には生存者が一人もいないとのことでした」


「争った跡なんかは、無かったのか?」


「屍体のほとんどは、毎年恒例の『ヴァルプルギスの夜』のサバトが行われる、各主要都市の大規模集会場に集中していましたが、外傷どころか衣服の乱れも見られず、一斉に服毒自殺等を敢行したものと思われます」


「……やはり、『覚悟の自殺』だったわけか」


「──わからん! なぜ魔女がいきなり、それも『ヴァルプルギスの夜』に、自殺する必要があると言うのだ⁉」


「やはり我々他種族には、魔女の考えていることなぞ、わからないと言うことか……」




「──いや、待てよ。これって別に、我々が問題にする必要は無いのではないか?」




「「「は?」」」




「さ、参謀総長、何を言い出されるのですか?」


「あの魔女どもが、突然何の前触れも無く自殺したのですよ!」


「帝国の軍事を担う我々が、その原因を究明しないでどうするのです⁉」


「そうは言っても、その生態がまったく不明で、何よりも気まぐれな魔女たちによる、今回のような突飛極まる行動を、我々人間(ヒューマン)族が理解しようとしたところで、無駄な徒労に終わるだけではないのか?」


「「「──うっ」」」


「そんなことよりも重要なのは、我々人間(ヒューマン)族にとって『目の上のたんこぶ』以外の何物でも無かった魔女たちが、名実共にこの世からいなくなったということのほうだろうが」


「「「そ、そういえば⁉」」」




「──さあ、今こそ我が帝国の威光を、周辺諸国に知らしめて、東エイジア大陸の統一をはかる時だ! まず最初に、旧ブロッケン領である、タイヴァーン島とサンカク諸島への侵攻を開始しよう!」




「おお!」


「ついに、ですか!」


「ええ、やりましょう!」




「「「半島のエルフ族を始めとする下等種族どもに、我が白色人間(ヒューマン)族の真の力を、存分に思い知らせてやろうぞ!」」」




「──そしてそのためにも、『彼女』たちの育成こそ、急務でありましょう!」


「何せ『彼女』たちこそが、我が帝国の最大の希望なのだからな!」


「ここ数年でとみに目立ち始めた、これまでに無い強力な魔力を秘めた、白色人間(ヒューマン)族の新生児たち」


「しかも物心がつくや否や、何も指導していないというのに、自然と魔法を使い始めるとは」


「更には何と一人一人が、将来の『戦略魔術師』の素質を有しているという有り様」


「『彼女』たちは必ずや、我が帝国のこれからの大陸制覇に、大いに貢献してくれることでしょう!」




「そうだ、諸君、前途は明るい! 我々『人間ヒューマン族解放軍』こそが先頭に立って、この東エイジア大陸全域において、人間ヒューマン族の栄光を取り戻そうではないか!」




「「「うおおおおおおおおお! 参謀総長、ワンニョオー! 人間ヒューマン族解放軍、ワンニョオー! 神聖帝国『ёシェーカーёワルド』、ワンニョオオオオオオオ!」」」




 国防省最高会議室にて響き渡る、幹部たちの怒濤のごとき鬨の声と拍手の嵐。


 しかし彼らは、知らなかったのである。




 ──まさにその、強大なる魔力を秘めた白色人間(ヒューマン)族の女児たちが生まれ始めたのと、ブロッケン皇国において魔女たちの集団自殺が始まったのが、ほぼ同時期であったことを。




『九条の障壁カベ』に閉じ込められている魔女たちが、外の世界で魔法の行使やその他の行動を行うのは、原則的に不可能なはずだが、何事にも例外と言うものがあった。


 まず一つには、ブロッケン皇国以外の地で出生すれば、当然『九条の障壁カベ』の拘束を受けず、自由自在に魔法を使えるであろう。


 しかし、現在この世界においては、魔女と言うだけで『最高レベルの警戒対象』としてマークされており、見つけ次第特定の地域や施設に強制的に収容されるので、現時点でブロッケン皇国以外に存在している魔女たちは、生まれながらにして『強制収容区ゲットー内の住民』以外にあり得ず、厳格なる監視体制にさらされ続けており、何の自由も望めなかった。




 ──そしてもう一つの、『例外中の例外』のケースこそは、現在魔女である者が、『魔女では無くなること』であった。




 魔女では無くなると言っても、一族から破門されたり、魔法が使えなくなったりするだけで、『九条の障壁カベ』の拘束対象では無くなることは無かった。


 言うまでも無く、魔女とは種族であり、そもそも種族をやめることなぞ不可能であろう。


 それに、魔女の使う魔法は独特なもので、仮に人間ヒューマン族の魔術師が魔女と同等の強力な魔法が使えようとも、超常現象としての種類はまったく別物で、極論すれば魔法の力で人間ヒューマン等の他種族の肉体を得ようとも、使う魔法が魔女特有なものである限りは、魔女として『九条の障壁カベ』の拘束を免れないのだ。


 ……それでは、どうすればいいのかと言うと、


 答えは至極、簡潔明瞭であった。




 ブロッケン皇国以外の地で、魔女以外の種族として、魔女同等の強大なる異能の力を有して、()()()()()()()いいのだ。




『生まれ変わり』──そう、我らが『なろう系』お馴染みの、『転生』である。




 この世界における最強の魔法種族である魔女ともなると、他の世界から何者かをこの世界に転生させる『召喚術』はもちろん、自分自身をこの世界やよその世界に『転生』させることさえも、余裕で実現可能であったのだ。


 ──それも、魔女と同等の別の種類の魔法の力を、生まれつき身に着けさせるという、『破格のサービス仕様』で。




 そうなのである、魔女たちは何の意味も無く自殺したわけでは無く、『九条の障壁カベ』の拘束を逃れるための最終手段として、別の種族に生まれ変わることを選んだのだ。




 現在世界各地で、魔女の生まれ変わりにして、魔女同然の強大なる魔法力を有した、人間ヒューマン族等の少女たちが生を受けているが、


 実は彼女たちは、自分が魔女の生まれ変わりであることを自覚しており、密かに連絡を取り合って、再び世界そのものを、自分たち『転生魔女』の支配下に置こうと、策動し始めているのだ。




 ……そうとも知らずに、まるで神から与えられた恩恵の具現とばかりに、彼女たちのことを大切に育成しようとしている、他種族の親や軍部等の支配層の、何とも哀れなことよ。




 ──そう、世界は今まさに、1年365日を通して、『ヴァルプルギスの夜』に覆い尽くされそうとしているのであった。

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