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9.学校へ行こう

ここから第2部です。

第2部は妹が日常に戻って行って、ちょっと行き過ぎてしまう予定です。

何の事かは後のお楽しみということで。

~~ 妹Side ~~


暗い暗い闇の中に私は立っていました。

ぼぅっと視界に映るのはお父さんとお母さん。

毎日見る夢。変わらない悪夢。もうこの後どうなるかなんて分かりきっている筈なのに、それでも私は大声で呼びかけずにはいられません。


「お父さん。お母さん!」


私は慌てて追いかけて声を掛けましたが、やはり近づくことが出来ず、そしていつものようにお父さんもお母さんも振り返ることはなく……えっ!?

ふとお父さんとお母さんが立ち止まって私の方を見ました。

その顔はどこか微笑んでいるように思えたのは気のせいでしょうか。

そう思ったのもつかの間。

再び向こうを向いた父さんとお母さんは今度こそ立ち止まることは無く消えてしまいました。

その後にやってくるのは私を飲み込もうとする深い闇。


「嫌。誰か助けて!」


慌てて助けを求める私の手がそっと何かに包まれました。

これはエルちゃんでしょうか。

エルちゃんが優しく光り私を包みこんで闇から守ってくれます。

それに安心した私は今日もゆっくりと目を閉じるのでした。


####



おはようございます。坂本 万里です。

あの事故から約1週間が経って、ようやく立ち直り始めた私は今日から学校に行くことにしました。

昨夜あの人にその相談をしたとき、あの人は少しだけ考え込んでから首を縦に振りました。

何を悩んだのかと思ったらその後に30分くらい注意や約束事の話が続きました。

いやいや、どう考えてもそれ、ほとんど妄想ですよ?


「じゃあ行ってきます」

「ああ。気を付けて楽しんでおいで」

「……はい」


そんな微妙な言葉を背中に受けながら私は家を出ました。

さて、家を出たのは良いのですが、駅はどっちでしたっけ。

ここに住むようになってからまだ1回しか外出したことがないのでこの辺りの地理は頭に入っていません。

こういう時に頼りになるのが左腕に身に付けている防犯グッズのTZM(タズム)に備わっている人工知能のエルちゃんです。


「エルちゃん、愛謝(あいしゃ)高校までの道案内をお願い出来る?」

『お任せください、マイシスター。まずはマンションを出ましたら右手に進み……』


エルちゃんの的確なナビゲートのお陰で特に何事もなくいつも通学に使っていた学校最寄の駅に辿り着きました。

ここまで来ると同じ制服に身を包んだ人たちをちらほら見かけます。

うーん。知り合いは居ないみたいですが、でもこういう光景を見ていると日常に帰って来たんだなって思ってしまいますね。

やっぱりあの人が言っていたような心配は杞憂だったんじゃないでしょうか。

そのまま無事に学校に到着。下駄箱で上靴に履き替えて教室へと向かいました。


ガラガラガラッ

「ん?(おい、あれ)」

「「(うわっ)……!!」」


え、な、なに!?

さっきまで賑やかだった教室は一瞬にして静かになりました。

そして全員の視線が私に向けられ、男子も女子もヒソヒソと近くの友達と話し始めました。

私が自分の席に向かうと途中に居た人たちは腫れ物に触るのを恐れるように離れていきます。

……まさかあの人が言っていた事がもう当たるとかどうなっているんでしょう。


『いいか。恐らく最初に感じる違和感は教室に入った時になるだろう。

事故の事はニュースで知れ渡っているから、特別仲が良かった訳じゃないクラスメイトからは距離を取られることになると思う。

場合によっては陰口や根も葉もない噂話が飛び交うかもしれない』


あの人はそう言っていました。予期せずその場に居合わせると驚くと思うから覚悟はしておきなさいと。

これを聞いた時は前半は無くは無いと思ったけど、陰口や噂話は心配し過ぎだろうと思っていました。

でもあっちにいる女子グループを見るとあながち間違いじゃないのかもしれません。

あと、その状況になった時に私はどうすれば良いんですかと聞くとあの人はこう言いました。


『空元気で良いから何ともないように振る舞うと良い。

弱っているところを見せるとハイエナみたいな奴らが近づいてくるからな。

当分の間は弱みを見せるのは俺か親友と呼べる友達の前だけにしておきなさい』


私にとって親友と言えば、ゆっこ達ですね。

昨夜携帯を開いてみたら幾つもメールが届いていたしだいぶ心配をかけていたようです。

と噂をすれば3人が集まってきました。


「おはよう。万里っち。もう学校に来て大丈夫なの?」

「ニュース見たわ。辛いと思うけど元気出してね」

「住んでいた家も無くなってしまったんでしょ?今はどこに住んでるの?ご飯はちゃんと食べられてる?」


口々に声を掛けてくれる、ゆっこ、千歳、恵里香ちゃん。

そんな3人に私は何とか笑顔を作って挨拶を返した。


「おはよう、みんな。心配してくれてありがとう。

今は親戚の人に引き取られて、その人の家で生活してるの。

ご飯もちゃんと食べてるから大丈夫よ」

「「……(ほっ)」」


私の様子を見てみんなはほっと安心したようです。

ずっと音信不通になってましたからね。


「ところで私が居ない間に何か変わったことはあった?」

「うーん、特にはないかなぁ」

「そうね。ニュースを聞いて去年のクラスメイトが何人か様子を見に来たくらいかしら」

「授業は普通に行われてましたし。あ、ノートは取ってますから後でお見せしますね」

「うん、ありがとう。恵里香ちゃん」


こうして話していると本当に以前と変わらない。

まぁ当然ですよね。私一人の為に世界が回っている訳ではないですから。

それはほっとするような寂しいような、不思議な感覚。

きっと私が居なくなって悲しんでくれる人もごく僅かなんだろうなぁ……。


『……』

「?」


ほわっと左腕のエルちゃんが熱を持った気がしました。

それはネガティブになりそうだった私を励ましてくれているようです。

まぁ流石に気のせいですよね。

いくらエルちゃんが高性能だと言っても私の気持ちを感じ取れるわけないですから。


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