70.いつだって終わりは突然やってくる
いつもお読みいただきありがとうございます。
以前1度予告したとおりの急転直下です。
~~ 妹Side ~~
冬休みは結局正月の一件を除けば特に問題らしい問題もなく過ぎていき早くも3学期。
進路については結局高校に進学することに決めたので来年度は受験生です。
特別難関校を受ける気はないと言っても2学期以降は受験勉強で忙しくなって遊ぶ暇もなくなるのでしょう。
「おはよ~」
教室に入って挨拶をすれば休み前と大きく変わらない皆の様子がうかがえます。
ま、ほんの2週間ほどでしたからね。
夏と違って日焼けしてるって事も無いですし。
「あ、万里っち。おはよ~」
ゆっこ達ももちろん変わらずです。
みんな元気そうで良かったです。
そうして1月は何事も無く過ぎていきました。
私の家事もだいぶ慣れてきましたし、お兄さんの仕事も年末でひと段落したらしく現在はほぼ毎日19時には帰ってきてくれます。
変な人が家に尋ねてくることもなければ近所で事故が起きたという話も聞きません。
やっぱりお兄さんの心配とか初夢とかおみくじなんて当てにはなりませんね。
そして2月と言えば節分とバレンタインデー。
節分は子供の頃に豆撒きをした記憶がありますが、小学校高学年になってからは専ら恵方巻を食べる日です。
今年の恵方は北東だそうです。
あれ?北東って確か鬼門って呼ばれて縁起が悪い印象がありますけど、問題ないんでしょうか。
その辺りは偉いお坊さんか神主さんが考えてるのでしょうから心配しても仕方ないですね。
それに私達の関心はほぼバレンタインです。
「万里はお兄さんにチョコあげるんでしょ?
市販ので済ませるの?それとも手作り?」
千歳が世間話のついでに聞いてきましたけど、やっぱりお兄さんもバレンタインのチョコは欲しいですよね。
でもお兄さんの場合、高価なものを渡してもあまり喜ばない気がします。
流石に板チョコを渡すとがっかりしそうですけど、チョコのブランドとか気にするとは思えないですから。
それに、こういうのは気持ちが大事ですからね。
「そういう皆は?」
「うちは無し。父ちゃんたちももうそんな年でもないしね」
「私も無しかな。というか毎年何かある度にうちの両親はラブラブ空間を作ってるから、今年も二人で楽しむんでしょう。
聞き分けの良い娘は部屋でのんびりしてるわ」
そう言えば千歳のご両親にはあった事ないですけど、そんな感じなんですね。
そして恵里香ちゃんはと言えば。
「私はチョコレートケーキを焼いてお母さんと一緒に食べる予定です。
万里さんには以前お伝えしたあのケーキですよ」
「あぁ」
以前料理を習いに行った時に教えてもらったホットケーキミックスをベースにしたケーキですね!
確かにあれなら私の家でも作れる気がします。
でも折角だからちょっと手の込んだものを作るのもありかな、なんて思ったりもしてます。
これでも家事スキルと一緒に料理スキルもアップしてますから。
家に帰る途中で夕飯の買い出しのついでにチョコレート売り場を覗いてみます。
……何というかこう、流石日本というか、先月までは無かった特設コーナーが設けられているのが凄いですよね。
12月はクリスマスコーナーでしたし、多分14日を過ぎたらあっという間にホワイトデーの特設コーナーになるんですよ、これ。
その次は新入生と花見のダブルですし、切り替わりの早さは日本ならではですよね。
と、それはともかくチョコレートです。
既製品だけでも300円~5000円と結構幅がありますね。
形もハート形が主ですけど、中には『ブランデー入り』と書かれているものも。
でもチョコレートの中に入る程度の量で酔っぱらう男性って滅多に居ないと思うんですけど。
そこはまぁ大人の味って事なんでしょうか。
また手作り用のも甘いのビターなのホワイトなのと幾つかあります。
お兄さんの好みで言えば、言えば……あれ?どうなんでしょう。
普段甘いものって余り食べてるイメージはありません。でもお盆に食べていたホットケーキは激甘でした。
つまり甘いのが苦手ということはないはずです。
でも好きなのかと考えると難しいところです。
ま、こういうのは直接本人に聞くのが一番ですね。
「で、どうなんですか?」
夕飯の席でお兄さんに確認してみました。
「うん。今日のサバの煮つけは上手いぞ。腕を上げたな」
「えへへ。ありがとうございます。
って、そうじゃなくて。チョコレートの話です」
「ん?ああ。そう言えばもうすぐそんな季節か」
カレンダーを見ながら考え込むお兄さん。
あ、もしかしてデートの約束があったり?玲奈さんは特に何も言ってませんでしたけど。
「いやまぁ、バレンタインはクリスマスと違って女性主体だから大丈夫だ」
「何が大丈夫なんですか?」
「振った振られたで暴走する男は少ないからな。俺としてもあまり警戒する必要が無くて楽だ」
ああ、なるほど。
確かにクリスマスの時はお兄さんバタバタしてましたもんね。
バレンタインの場合、基本的に本命が居る男性以外は女性からチョコレートを差し出されて断る人は滅多に居ません。
渡す側だってほとんどが義理、もしくは既に付き合っている人がほとんどで、チョコと一緒に告白する人なんてたいていはそれまでにある程度関係を築いている友達とかになります。
チョコを渡すってことは女性側もそれなりにその男性に好意を抱いているのですから、もし男性が想像以上に積極的に距離を詰めてきたとしても不可抗力で犯罪になることはほぼないって事なんですね。
「それで、万里はチョコレートを渡したい男子が居るのか?」
じっと私を見つめるお兄さん。
って、あれ?どことなくいつもより真剣?
もしかしてこれが嫉妬というものでしょうか。
「いえ、居ないですよ。お兄さん以外」
「ん、ああ、そうか。
もし好きな奴が出来たのなら、変な男かどうか早めに見ておこうかと思ったけど取り越し苦労だったな」
ふっと視線を緩めるお兄さん。
まあそんなところでしょうね。
お兄さんが私に嫉妬とかある訳ないですし。
「それで、お兄さんは甘いチョコとビターチョコ、どっちが好きなんですか?」
「そういう事ならビターかな。といってもカカオ90%とかそういうのは要らないから」
「あれ苦いですよね~」
76%とかは普通に美味しいですけど85%を超えるともう罰ゲームにしか思えません。
あれが好きって言う人も居るのですから人の味覚って凄いですよね。
そんな、本当にいつもの何気ない会話をした翌日。
午後1の物理の授業を受けていた時。
教室の扉がノックされたかと思うと山本先生が入ってきました。
「授業中失礼します!」
山本先生は教壇のところで2言3言物理の先生と言葉を交わすとサッと生徒の方を向きました。
「坂本」
「は、はい」
って、わたし!?
それにこの山本先生の感じは覚えがあります。
まるで両親が事故に遭った時に私を呼びに来た水元先生とにたヒリつく緊張感。
「貴重品だけ持ってすぐにきてくれ」
「わ、分かりました」
この時点で私を含めクラスの全員がただ事ではないと感じています。
急いで山本先生と共に廊下に出たところで事情を説明されました。
「君のお兄さんの高島さんが交通事故に遭われて病院に搬送されたそうだ」
それを聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になりました。




