68.新年の占い
~~ 妹Side ~~
暗い暗い闇の中に私は立っていました。
ぼぅっと視界に映るのはお父さんとお母さん。
(あぁ。これは知っています。最近はもうすっかり見なくなったあの夢です)
分かっています。
幾ら走って追いかけても追いつくことは出来ないし、いくら声を掛けても振り向いてもくれな、え?
お父さん達が立ち止まって私の方を見ました。
その表情は暗くて分かりませんでしたが、必死に私に何かを呼び掛けているようです。
きっと私の事を心配して大丈夫かって言ってくれてるんだと思います。
私は大丈夫です。
今は頼りになるお兄さんも居ますし、日々を笑って過ごせてます。
だから安心してください。
そう言ってお父さん達に笑いかけました。
でも次の瞬間、首を横に振るお父さん達。なに?違うの?
すぅっとお父さんが腕を持ち上げて私を指さしました。
私がなに?それも違う?後ろ?
慌てて振り返った先には、お兄さんが居ました。
お兄さんは何故か私に背を向けてどこかへ歩いていくところでした。
(待ってお兄さん!!)
追いかけようにも私の足は足元に出来た沼に沈んでいきます。
段々と遠くなるお兄さんの背中。
それはまるでお父さん達と同じように見えて、恐ろしくなった私は大声でお兄さんの名前を呼び続けるのでした。
……
…………
………………
がばっ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
目が覚めればいつもの寝室。
隣を見れば当然のようにお兄さんの姿は無く、でも居間の方から人の気配はするのでちゃんとお兄さんが居てくれるのが分かります。
それにしても酷い夢でした。
まさか初夢があれとか今年の運勢はどうなってるんでしょうか。
ま、気にしてても仕方ないですね。
あ、寝汗が酷いから着替えてから朝食の支度に取り掛かりましょう。
「お兄さん。明けましておめでとうございます」
「ああ。おめでとう。今年もよろしく」
「はい。よろしくお願いします」
お兄さんと新年の挨拶を交わしてキッチンに向かいます。
お正月と言えばおせち料理というご家庭も多いと思いますが、昨夜聞いたところお兄さんの家にはおせちを食べる習慣は無いそうでした。
まぁ、私もおせち料理を作れと言われても無理なんですけどね。
なので作るのはお雑煮、お汁粉、焼き餅。つまりお餅尽くしです。
「お兄さんは焼き餅は味付け何が良いですか?」
「砂糖醤油かな。先日湯浅の良い醤油が手に入ったからそれで頼む」
「はーい」
キッチンに立つようになって分かったのですが、お兄さんって料理の味には無頓着なのに素材や調味料は拘るみたいです。
特にお米、味噌、醤油、梅干しなどのザ・日本の味は良いところのを取り寄せています。
きっと今料理してるお餅もそうでしょう。
一通り配膳が終った私はお兄さんと向かい合わせに食卓を囲むと、お餅を食べながら今朝のゆめを思い出してお兄さんの様子を伺いました。
「ん?あぁ」
私の視線に気付いたお兄さんは席を立つと自分の作業机から何かを取り出してきました。
「ほい。これが気になってたんだろ?」
「え?」
差し出されたのは小さな封筒。
ってお年玉袋ですね。
受け取ってみるとずっしりとした重みが伝わってきます。
……ずっしり?
袋の中身を取り出してみるとじゃらじゃらと500円玉が10枚出てきました。
「えっと、何で500円玉?」
「お年玉って言うんだからお札じゃ味気ないかなって思ってな」
なんとなくそうじゃないかなって思ってましたけど予想通りの答えが帰ってきました。
「ちなみに、お兄さんが子供の頃はいくら貰っていたんですか?」
「500円。それも、10円玉を50枚な」
10円玉を50枚って。
それで沢山貰えてラッキーって考えるのは小学校低学年までじゃないでしょうか。
まぁお年玉はしまっておきましょう。
「ところで万里は初詣は友達と行くのか?」
「いえ、みんな家族と行くみたいです」
「そっか。なら食べ終えたら近場の神社に行くか。
ついでに帰りに寄り道に付き合ってくれ」
「はい、分かりました」
寄り道……これはもしかしてお墓参りの時と同じパターンでしょうか。
お兄さんの知られざる過去。なんていうと大げさですけど、きっとお兄さんの新たな一面を知れるチャンスな気がします。
「寄り道は何処に行くんですか?」
「伯父の家だ。こういう時じゃないと中々家に居ない人だからな。
万里はまだ会ったことなかっただろ?
折角だからお礼も兼ねて新年の挨拶に行ってこよう」
お兄さんの伯父さん。
以前聞いた話では確かお祖父さんが亡くなってからの唯一の親戚と呼べる人で、そして私とお兄さんを引き合わせてくれた人でもあったはずです。
つまり私の恩人と言っても間違いないでしょう。
ただ気になるのは今まで一度として会ったり話をしたりする機会が無かった事です。
「伯父さんってどんな方なんですか?」
「一言で言えば自由人、もしくは変人だな」
「お兄さんが変人って言うって事は相当ですね」
「それはどういう意味かな~?」
「あはははは」
とまあ冗談はさておき。
お兄さんの話からして特別厳しい人では無さそうですのでちょっと安心です。
朝食を終えた私達は身支度を済ませて家を出ると近所の神社へと向かいました。
そこは特別有名って訳でも大きい訳でもないですけど、やっぱりお正月は人でいっぱいでした。
お賽銭を投げた後は定番のおみくじ。
さて今年の運勢は……『中凶』でした。
凶と大凶は聞きますけど中凶なんてものもあるんですね。初めて知りました。
それで内容は、
『身近な人に不幸あり』
み、身近な人って。やっぱりお兄さんの事でしょうか。
今朝の夢と相まってただのおみくじとは思えないんですけど。
と、そうだ。
お兄さんの方はどうだったんでしょう。
「お、お兄さんはおみくじどうでした?」
「うん。ある意味レア?」
レア?また何ともおみくじに結びつかない単語が聞こえてきました。
気になって見せてもらうと何とそこに書いてあったのは『だいちき』
……だ、だいちき?
大吉の間違い、でしょうか。
たどたどしい筆跡で書かれたそれは、まるで小さい子供が書いたようにも見えます。
更に内容はと言えば、
『らいねんもあおうね』
……来年も会おうね?
いやもうそれって占いでも何でもないですよね。
「これ、神社の人に苦情を言ってきた方が良いんじゃないですか?」
「どうして?こんなに縁起のいい内容なのに」
「縁起がいい、ですか?」
「そう。だって来年も会おうってことは今年一年、元気で居られるってことなんだから」
「なるほど。そうとも取れますね」
流石お兄さん。他人に対しては心配性なのに、自分の事は楽観的でポジティブです。
なら私も見習ってこの中凶の内容をプラスに考えてみましょう。
むむむ、よし。
身近な人っていうのがお兄さんだとして、お兄さんの事だから多少の不幸なんて軽く突破できるから問題ない。とか。
お兄さんなんて車に轢かれたってピンピンしてそうですもんね。
うん、大丈夫。
そうやって何とか自分を納得させた私はお兄さんの手を引いて神社を後にするのでした。
めっきり投稿ペースが乱れてしまい申し訳ございません。
そして予告しておきますと、近いうちに第1部として区切りを設ける予定です。
予定している区切り方がどう頑張ってもバッサリ断ち切る感じになってしまうので驚かれないように一応。




