64.似た者親子
~~ 兄Side ~~
12月24日。
世の中はクリスマスで朝から賑わっている。
うちでも万里はいつものメンバー+αでパーティーをするということでついさっき家を出て行った。
かく言う俺も色々荷物を持って出発するか、な
ふらっ
「おっと」
危ない危ない。
やはりここ数日は休む間もなく仕事をしてたせいで足に来てるな。
幸い万里が一緒の時は平静を装ったけど、弱っているところを見せて心配させるわけにもいかない。
もちろん、今から会いに行くあの子にも。
俺は途中で栄養ドリンクを飲みつつ、とあるアパートの前にやってきた。
周囲に人影は、ないな。よし。
持ってきたボストンバッグを開けて中の衣装に着替える。
念のため携帯のカメラで自分の見た目をチェック。
「よし、どこから見てもサンタだな」
この歳でサンタのコスプレはちょっと恥ずかしいが、クリスマスだし今日くらいは許されるだろう。
後はあの子が喜んでくれたら良いのだが「うわ、ダサっ」とか言われたら泣いて帰ろう。
ピンポーン♪
『はーい!』
インターホンを鳴らすと元気な声が聞こえてきた。
『どちらさまですか?』
「サンタです」
『そんな人に知り合いはいません』
ぶつっ。
……え?
唐突に通話が切られたんだけど。
あ、いや。これはよく教育が行き届いていると言うべきか。
俺だって万里には変な人が家に来たら即座に通話を切って警察に通報しろって教え込むだろうし。
ということは今頃俺も警察に通報されてる!?
そんな馬鹿なことを考えていた所で玄関が開き、中から女の子、みもりちゃんが出てきた。
「えへへ、うそだよおじちゃん。おどろいた?」
にかっと笑うみもりちゃん。うーん、かわいい。
でもやられっぱなしは良くないしお返ししてあげよう。
「ああ、驚いた。驚きすぎて泣いて家に帰るところだったよ」
「それはダメ!今日はわたしとあそんでくれるやくそく!
それにまだプレゼントもらってないし」
イタズラが成功して喜んだ顔が一転、慌て出すみもりちゃん。
うんうん。やっぱり子供は素直でいいな。
と、そこで家の奥から声が届いた。
「美護ちゃん。お友達が遊びに来たんでしょう?
玄関で話してないで中に上がって貰いなさい」
「はーい。さ、入って入って」
「あ、ああ」
みもりちゃんに手を引かれて中に入る。
でもちょっと待って。
さっきの声ってもしかして……
「ママ~。今日はサンタのおじちゃんが遊びにきてくれたんだよ」
「そうなの。良かったわね。……って」
「……よお」
お互いが誰かが分かって固まる俺と玲奈。
どうやらみもりちゃんは玲奈の娘だったらしい。
世の中は広いようで狭いとは言うけど、まさかここで玲奈が出てくるなんてどんな偶然だよ。
その玲奈は俺の姿を見てジト目だ。
「……また随分懐かしい服を持ち出してきたわね」
「あ、分かる?」
「分かるわよ。ここの染み、私がワインを溢した時のでしょ」
「よく覚えてるなぁ」
付き合ってた時にやったクリスマスパーティー。
若気の至りでお互いにコスプレして来ようって着てきたのが今俺が着てるやつだ。
玲奈は確かミニワンピのサンタだったな。
「ちなみにあの時玲奈が着てたのは?」
「も、もう捨てたわよっ!」
「そうかそうか。大事にタンスの奥にしまってあると」
「っ!!」
真っ赤になって視線を反らす玲奈。
その首もとにチラリと見えたのはもしかして。
「俺があの時プレゼントしたネックレス?まだ着けてたんだ」
「ほ、他に気に入ったのが見付からなかっただけよ。
というか、クリスマスプレゼントに磁気ネックレスを贈る馬鹿が他にどこにいるのよ!」
「いやほら、いつも肩がこって大変だって言ってたし。
でもそれを言ったら玲奈のプレゼントなんて……」
「あーあーあー。聞こえませーん」
慌てて耳を塞ぐ玲奈。
(サンタコスを脱いだら裸に赤いリボンを巻き付けてて『私がプレゼントよ』って抱きついて来たんだよな)
若気の至りというかなんというか。
流石にみもりちゃんの前でこの話は不味いか。
そのみもりちゃんはというと不思議そうに俺と玲奈を見比べている。
「ねーねー、ママとおじちゃんは知り合いなの?」
「そうよ。このおじちゃん、賢護とはママもお友達なのよ」
「そうなんだぁ。なら今日は3人であそぼうね」
「ええそうね」
一転してコロッと笑顔になる玲奈。
うんうん、こうして見ると玲奈もすっかりお母さんしてるな。
みもりちゃんは今4歳で可愛い盛りだし。
ん、んん?4歳?……あぁ、そうか。俺達が付き合ってたのは5年くらい前だから。
それで俺はみもりちゃんとこんなに気があってるんだな。
玲奈の様子からして、みもりちゃんの父親については触れない方が良さそうだ。
女手ひとつでここまで育ててきたのに、今更って話でもあるよな。
「遊ぶと言えば、みもりちゃんにプレゼントがあるぞ」
「わーい、なになに?」
「これだよ」
「……うでどけい?」
俺が持ってきた箱から出てきたのは子供向けデザインの腕時計。
ただ女の子としては嬉しさ半分って感じだ。
「それは付属品。フリーサイズだから自分の腕に着けておいて」
「うん」
「で、メインはこっち」
「あ、ぬいぐるみ!えっと、ハムスター?」
「ハリネズミだな」
「ハリネズミ!!」
やっぱり女の子と言えば可愛いものが嬉しいようだ。
大人の手のひらサイズのハリネズミを、差し出されたみもりちゃんの両手にそっと乗せる。
すると。
「きゅきゅっ」
「わっ、うごいた~」
小さな鳴き声と共に顔を持ち上げるハリネズミ。
それと同時にみもりちゃんが着けた腕時計にメッセージが表示された。
『こんにちは』
「ほえ?」
「きゅっきゅっ」
『僕だよ、僕』
短い足を振って自己主張するハリネズミに合わせてメッセージが追加される。
それを見てもまだ首を傾げているみもりちゃんの為に補足を入れる。
「この子は人の言葉を理解出来るけど喋れないから、その腕時計を通じてメッセージを送ってくれるんだよ」
「おおー、かしこ~い」
「あとまだ名前が付いてないから良い名前を考えてあげて」
「んと、じゃあケンちゃん!
ケンちゃん。わたしはみもりだよ。よろしくね♪」
「きゅ~」
みもりちゃんが差し出した指を両足で掴んで握手をするハリネズミのケンちゃん。
それを受けたみもりちゃんも満面の笑顔でにっこり。
良かった。無事に気に入ってくれたみたいだな。
ちなみにこのハリネズミが昨日まで俺が開発をしていたうちの新製品だ。
ベースのバージョン2.0はもっと前から出来ていたんだけど、今回AI部分に手を加えてバージョン2.1となった。
可愛い見た目と会話機能の他に、TZM程ではないけれど各種機能が盛り込まれているし、何より自立行動と犯罪者撃退システムが搭載されている。
なんと緊急時には全身の毛を逆立てて電流を流すことが出来るのだ。
ま、その辺りは後で玲奈にでも伝えておけば……いい……か
「……?…………っ!?ちょっと!」
ばしっ
……え?
いつの間にか玲奈が俺のすぐ目の前に来ていた。
更に俺のおでこに手を当ててまるで熱でも測っているようだ。
「ひんやりしてて気持ちいいな」
「バカ。あなた熱があるのよ」
「そりゃ生きてるんだから」
「そんなボケはいらないのっ」
深刻そうな顔をしている玲奈を宥めようと思ったんだけど失敗した様だ。
あ、でもそうか。
それで今日はいつもより寒いのに汗をかいてて足に力が入らなかったのか。
さっきも意識が朦朧としてたんだな。
「良いから今日はさっさと帰って寝なさい。
あなたが人前で平静を装えてないなんて相当なんだから」
「でもみもりちゃんと遊ぶ約束してるし」
「つべこべ言ってるとうちのベッドに縛り付けるわよ!」
玲奈が凄い剣幕で怒っている。
こうなると昔から引かないんだよなぁ。
玲奈は俺の肩をグッと掴むと回れ右させて玄関へと俺を押し始めた。
でもみもりちゃんとの約束も守ってあげたいし、これくらいの熱なら何とかなると思うんだけど。
そう考えてたらみもりちゃんが心配そうに声をかけてきた。
「おじちゃん、かぜひいたの?」
「うん、どうやらそうらしい」
俺がそう答えると、今度はみもりちゃんまで玲奈と同じようにムッとしてしまった。
「ダメだよおじちゃん。かぜの時はおうちかえってゆっくりねるの!
むりしてママみたいに倒れたらどうするの!!」
怒ったみもりちゃんも玲奈と一緒に俺の背中を押しだした。
どうやら玲奈も以前無理して風邪を拗らせてしまった事があるようだ。
仕方ない。
今日のところはお言葉に甘えて帰って寝るか。




