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60.お兄さんとの話し合い

~~ 兄Side ~~


家に帰ると万里は出かけているらしく部屋の中は静まり返っていた。

今日は友達に会ってくるって朝食の時に言ってたから、多分話が盛り上がっているんだろう。

時刻も17時だし特別遅いという訳でもない。

よし、じゃあ夕飯の仕込みでもするかな。

今からやれば味をしみこませる系の料理も作れるだろう。

平日だとどうしても簡単に出来る料理になりがちだからな。

俺は冷蔵庫の中身を確認しながら買い出しリストを作っていく。


「最近はだいぶ冷えてきたらお鍋もいいなぁ」


しっかし、我ながらしっかり主夫だな。

去年の今頃なんて自分用の食事なんて、面倒でほとんど作って無かったのに、今では家に帰ってきて真っ先に考えるのが夕飯のレシピなんだから。

それもこれも万里のお陰か。

やっぱり一緒に食卓を囲む人が居てくれるっていうのは有難いものだ。


がちゃ

「ただいま~」

「あぁ、お帰り」


万里が帰って来たな。

こうしてお帰りを言うのも随分なれたものだ。

最初の頃なんて万里が家を出たまま帰って来ないんじゃないかって内心不安だったけど、今では帰ってきてくれるのが当たり前だ。

そう思えるようになったのも家族として成長した証なのかもしれないな。

……ん?なんだろう。

いつもなら夕飯の準備をしていたら今日は何かと覗き込んでくるのに、なぜか玄関で靴を脱いだところで俺をじっと見ている。


「俺の顔に何か付いてるか?」

「あ、いえ。何でもないです」


なんだ?出会った頃までは行かないけど夏休みよりもっと前の距離感に感じるんだが。

今朝はいつも通りだったはずだけど、何か怒らせることでもしただろうか。

万里はそそくさと寝室に行ってしまった。

もしかしたら疲れていただけなのかもしれない。

夕飯の時にでもそれとなく聞いてみるかな。



~~ 妹Side ~~


寝室に逃げ込んだ私はベッドに倒れ込みました。


「う~どうしよう」


玲奈さんは今まで通り接してあげてって言ってましたけど、本当にそれで良いんでしょうか。

私の中でまだ結論は出ていません。

というかどういう顔して良いか分からなかったから逃げてきてしまいましたけど、お兄さん絶対変に思いましたよね?

今日玲奈さんと会って来たことは言わない方が良いですよね。

もしうっかり玲奈さんに子供が居る事を伝えてしまったらお兄さんショックでしょうし。

かと言って変に誤魔化しても怪しまれますよねぇ。


「ご飯出来たぞ~」


あ、時間切れですか。

流石にここで食べたくないって言ったら余計な心配を掛けるだけなので行きましょう。

えっとお兄さんは……別にいつも通りですね。

食事中も特にさっきの事には触れては来ないです。

気を遣ってもらった、ということなのかな?


「そう言えば今日、公園に散歩に行って来たら一人で遊んでる子が居たから一緒に遊んできたんだけど、やっぱ子供は凄いな。

あんな小さな体のどこにそんなエネルギーがあるんだってくらい元気なんだから。

お陰で俺は明日は筋肉痛になりそうだ」


お兄さんと子供が遊ぶ姿は想像すると楽しそうですね。

まだ25歳になってないくらいだったと思いますけど、早い人だと18歳くらいで結婚して子供作ってる人も居るので、お兄さんだって小さな子供が居てもおかしくはない年齢です。


「傍から見ると親子っぽいですね。

休日に公園に子供と遊びに行くお父さんなんて今時レアですし、好感度高いかもしれないですよ。

まぁ一歩間違えるとアブナイおじさんに見られるかもしれないですけど」

「あ、そこは大丈夫だ。一応近くに保護者の老夫婦も居たしな」

「そうだったんですね。

でも意外とと言ったら失礼ですけど、お兄さんは子供好きなんですか?」

「まぁ人並みにはな」

「じゃあ何歳までに結婚して子供は何人欲しいとかあるんですか?」

「そこまで具体的なのはないし、結婚するとしてもまだ当分先だろう」

「どうして先なんですか?」

「ひとまず万里が独り立ちするまではな。これ以上家族を増やしたいとも思わないし」

「……」


それは喜んでいいのでしょうか。それとも怒るべきところ?

それ程までにお兄さんに大切にしてもらえてるって事なんですけど、やっぱり私はお兄さんの足枷になってしまっているのかもしれません。

私が居ない方がお兄さんが幸せになれると言うのであれば、多少大変でも距離を置いた方が良いでしょう。

幸いここ最近、家事を手伝って来たから一人暮らしを始めても何とかなると思います。

経済面ではまだ援助が必要でしょうから、そこはお兄さんに頼ることになりますが、それでも私がそばに居なければお兄さんを自由にして上げれますし。


「あの、お兄さん」

「ん?」

「私この家を出て行こうと思うんですけど、良いですか?」

「ふむ……今の暮らしが嫌になったのか?」


私の言葉に淡々と質問を返してくるお兄さん。

あれ、でも、なんでしょう。空気が重いというか、ちょっと息苦しい感じです。


「いえその、嫌になったとかではなく、その方がお兄さんの為なんじゃないかなって思って」


本当ならここで「そうです、嫌になったんです」って言った方がお兄さんは納得してくれると思いますけど、それは少なからずお兄さんを傷付けることになります。

それでは本末転倒になってしまいます。

お兄さんはじっと私を見ながら考えたあと口を開きました。


「俺の好きな言葉にこんなのがあるんだ。とある僧侶の言葉でな。

『他人を不幸にして自分を幸せにする人を3流の詐欺師という。

他人を幸せにして自分を不幸にする人を2流の偽善者という。

他人を幸せにして自分を幸せにする人を1流の道徳者という』

俺は万里に偽善者にはなってほしくはない」

「道徳者になれ、ですか?」

「いいや。この言葉には続きがあってな。

それを聞いた相手がこう返したんだ。

『他人と自分を隔てている時点で愚者でしかない。

私と君の間にどんな違いがあると言うのだ』

ってな。つまり」

「つまり?」


お兄さんは席を立って私のそばに来るとポンっと私の頭に手を置きました。

その瞬間さっきまでの息苦しさは無くなりました。


「幸せになりなさい。

万里が幸せになってくれれば俺も嬉しいし、きっと恵里香達だって喜ぶさ。

自分が幸せになることで、自分を大好きな人達も幸せになる。

そんな人間に成長してくれると俺は嬉しいぞ」


ポンポンと撫でてくれるお兄さんの手は優しくて安心します。

ふわぁ。なるほど、お兄さんの幸せになれっていうのはこういうのなんですね。

さっきまでの悩みが溶けていってくれる気がします。

でもそんな至福の時間はパッと終わってしまいました。


「で、突然こんな話を持ち出してきたこととか、帰ってきてからの変な態度の原因は何なのかな?」

「あ……」


忘れてました。

そうですよね。こんな意味深な質問すれば気にして当然ですよね。

さっきみたいに空気が重いってことはないですけど。

うーん、ここは素直に言った方がいいかな。


「実は今日、玲奈さんに会って来たんです」

「玲奈に?そうか。それで?」

「玲奈さんがお兄さんから離れた理由を教えてもらったんです。

それを聞いたら私もお兄さんのそばに居ない方が良いんじゃないかって思ってしまって」

「なるほどね」


お兄さんは短く答えるとお茶を淹れながら椅子に座り直しました。

そして湯呑を指で触りながら私の方を笑いかけてくれます。


「さっきも言った通り、万里が自分の幸せを考えてそうするなら反対はしないさ。

でもそうだな。俺の幸せを考えてくれるなら少なくとも中学卒業までは一緒に暮らしてくれると助かる。

万里も知っての通り俺は心配性だからな。

いま万里に一人暮らしをされると気になって毎日様子を見に行ってしまいそうだ」

「なんかありありと想像できますね。

でも中学卒業までなんですか?」

「まあな。俺も中学を卒業した後は一人暮らしだったし。

もちろん万里が居たいだけ一緒に居てくれて良いけど、今のままだと彼氏のひとりも呼べないだろう?」

「そうかもしれませんけど」


私が彼氏を家に招待する未来は全然想像できないですけど。

でも未来は分からないですから、もしかしたらそんな事もあるかもしれないですね。


「でもま。そう言う事なら今後の家事は一切を万里に任せよう」

「えっ」

「俺もちょうど万里くらいの時に祖父からそうやって家事を仕込まれたしな。

よし、じゃあ明日の朝からな。俺はもう朝食も夕食もお弁当も作らないし、掃除もしなければ洗濯も自分の分しかしないから」

「ええ~」


まさかお兄さんと距離を空けた方が良いかどうかの話からそんな話になるなんて。

ま、まぁ何とかなる、かな。

それにお兄さんの事ですから本当にピンチになったら助けてくれるでしょう。







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