6.ハロー、マイシスター
予約投稿忘れて遅くなりました。
今回はちょっとした説明回というかネタ仕込み回です。
~~ 妹Side ~~
夕食を食べ終えた後、あの人は私に、
「そうそう、頼みたいことがあるんだ」
そう告げて今日持って帰ってきていた荷物の中から箱を1つ取り出しました。
開けてみると出てきたのは綿毛のような柔らかい白色の……機械?
長さ10センチ、幅3センチくらいの涙滴型で表面を金属で覆われた何か。
取り出してみると思ったよりずっと軽くて驚きました。
でも何かがさっぱり分かりません。
「あの、これは?」
「俺が務めている会社で取り扱っている商品の試作モデル。
万里にはそのモニターをしてほしい」
「モニター?」
「要は着け心地や使ってみて不快なことや不便なことがあったら教えてくれれば良いんだ」
「あ、身に付けるものなんですね」
よく見れば一部が円筒状になっています。
大きさから言って手首に着けるものみたいですね。
「まずは着けてみてもらえるかい?」
「はい。左腕で良いですか?」
「ああ。その左側のボタンを押すと手を通せるようになっているから」
言われた通り横に付いていたボタンを押すと「プシュッ」という音と共に筒の穴が広がりました。
恐る恐る左手を通してもう一度ボタンを押すと、左腕が柔らかい綿に包まれたような感じです。
「着け心地はどう?締め付けがきつかったり、重かったりはしないか?」
「はい、大丈夫です。流石に腕時計やブレスレットほど軽くは無いですけど、気になるほどでは無いと思います」
「良かった。これで第1段階はクリアだな」
「あの、それで結局これは何なのですか?」
「一言で言えば防犯グッズだ。『TZM』って聞いたことないか?」
「あ」
『TZM』。
最先端技術をふんだんに盛り込んだ画期的なシステムだって最近よくニュースで取り上げられていました。
その時見たのはこれよりもっと武骨というか、持ち歩くにはちょっと邪魔かなって思えるデザインでした。
それに対して今私の左腕に着いているのは、お洒落アイテムと言っても通じるくらい可愛くて、それでいて軽くていい感じです。
でもこれってかなり高いんじゃないでしょうか。
「あの、これ幾らくらいしたんですか?」
「ん?ああ。値段は気にしなくていいよ。本体代はゼロに近い。その為のモニターでもあるしな」
「はぁ」
「それよりもだ。ユーザ登録を済ませてしまおう。
それには高度な人工知能、もっと言えば疑似人格が搭載されているんだ。
だからまずは彼女の名前を決めてあげて欲しい」
「彼女ってことは女の子ですか?」
「そうなる。女性向けのグッズだからな。肌身離さず一緒に居るのが機械とはいえ男性なのは嫌だろう?」
「まぁ。そう、ですね」
名前って突然言われてもパッとは思いつかないんですけど。
機械の女の子……英語にするとロボガール?とかエレクトリックガール?
あ、なら最初と最後を取って。
「『エル』ちゃんでどうでしょう」
「良いんじゃないか?ならそれで呼びかけてみてくれ」
「はい。えっと……こんばんは。エルちゃん」
『はい。固有名【エル】で登録しました。こんばんは。マイシスター』
「わっ、しゃべった!!」
私が話しかけると表面に薄っすらと光のラインを描きながら返事を返す防犯グッズ改めエルちゃん。
声の雰囲気は落ち着いた大人の女性って感じです。
ぱっと見、スピーカーなんて付いてないのに音声が聞こえてくるのは不思議な感じです。
「マイシスターって私の事?」
『はい。他の人に聞かれても大丈夫なように個人名を出すことは避けています』
「あ、そうなんだ。それでこの後はどうすれば良いんですか?」
『声紋パターン、静脈パターンなど、既にマイシスターを特定する情報は登録できました。
なおこれらの個人情報はいかなる理由があろうとも外部に公開することはありませんので安心してください』
「はぁ」
いつの間に。というか、そんなセンサーがあるようには見えないんですけど。
最先端どころか猫型ロボットのポケットから出てきたと言われても信じれそうなくらい凄いです。
「さて注意事項とかも説明しよう」
「お願いします」
「まず基本的には『TZM』は寝る時とお風呂に入る時以外はずっと身に付けておいて欲しい。
特に外出中は不用意に外すと大変なことになるから気を付けて欲しい」
「え……大変なことって?」
「簡単に言うと、警備会社と警察と保護者に連絡が行き、係員がパトカー並みの速度で現場に急行することになっている」
「外しただけで、ですか?」
「そうだ。どうしても外さないといけない時は、エルに相談して、保護者、つまり俺に報告する必要がある」
「どうしてそこまで厳しいんですか?」
『それは外されると私がマイシスターを守れなくなるからです。
幾ら私にすごい能力があったとしても外された後に守れるのは精々半径1メートル以内に居てくださる時のみです』
私のその疑問にはエルちゃんが答えてくれた。
どうやら必要に応じて通常の会話にも混ざれるみたい。
機械音声とは思えない程、流暢で聞きやすい声です。
「過去の事例で保護対象を守れなかったほとんどが、カバンの中に仕舞うなどして手元に無かった時なんだ。
それを受けて研究をした結果、常時腕に着けても問題の無い今のデザインになったんだよ」
「なるほど。あ、プールの時とかは?」
「着けたまま泳いでくれ。耐水性の面でも水深10メートルにも洗濯機で洗っても耐えられることは検証済みだ。
他にも熱や衝撃にも強いから壊れる心配はしなくて大丈夫だ。
あとはエルはググールサーチから情報を収集することも出来るから聞けば大抵の事は教えてくれるが試験中にカンニングに使うことは出来ないようになっているから」
「カンニングなんてしません」
「うん、そっちは心配してないよ。代わりに試験官に外せと言われても外す必要はないってことだ」
「あ、はい」
「後はそうだな。時計、GPS、電話、ライト、アラームとしても使えるし、カメラと接続すれば動画撮影も可能だ」
「本当に何でも出来るんですね」
「そうだな。開発スタッフの一人は『これで自爆機能が付けば完璧ですね』なんて言ってたが残念だがそれだけは盛り込めなかった」
「いやいらないでしょう」
その人はいったい何を目指しているんでしょうか。
まあそれはともかく。
「エルちゃん。これからよろしくね」
『はい、よろしくお願い致します。マイシスター。
あ、それと。私の第1守護対象はマイシスターです。
例え万が一、保護者であってもマイシスターに危害を加えようとするなら警察への通報を始め、あらゆる手段でお守りしますのでご安心ください』
「ま、そんな事にはならないから安心しろ」
「あはは……」
どうやら心強いお友達が出来たみたいです。
でもちょっぴりその、この人に似て心配性なのかもしれません。
防犯の面では大切な事なのかもしれないですけど。