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55.せっかく私が助けてあげようと思ってあげたのに

~~ 水元Side ~~


私が教師を目指し始めたのは、小学校の時です。

当時の担任の酒井先生はとても素晴らしい先生でした。

容姿端麗、公明正大。

授業は分かりやすく、それでいて面白くなるように、私達が勉強を好きになるようにと色々と工夫を凝らしてくれていたのが、同じ教師になった今ならよく分かります。

喧嘩が起こればすぐに駆け付け、泣いている生徒が居ればクラス関係なく親身になって相談に乗っては笑顔に変えていきました。

先生の周りには常に何人もの生徒が楽し気に話しかけており、先生も楽しそうに笑っていました。

そして私が卒業する直前に結婚。

結婚式の写真を見せてもらったのですが、それはもう天使か女神様かという程に美しかったのを覚えています。

私も将来は酒井先生のようになりたい。

その一心で勉強を頑張り教育学部のある大学へと進学。

ただタイミングが悪く小学校からの求人が無かったので中学校へ行くことになりました。

でも生徒を指導し幸せに導く事に変わりはありません。

頑張りましょう!

と気合をいれた1、2年目はただただ業務内容に翻弄されるばかり。

子供の時にはまるで花形のように格好良かった先生という職業は、苦労の連続でした。

生徒からは新任女教師として絡まれ、保護者達には見下され、先輩教師からはもっとしっかりしないから生徒から舐められるんだと叱責を受ける。

何度も自分には向いていないんじゃないか、辞めてしまおうかと思ったけれど、記憶に残る酒井先生の姿を心の支えに何とか耐え抜きました。

その頑張りが認められたのか3年目に遂に1年生の担任に抜擢されたんです。

担任と言えばそのクラス30人の親代わりも同然。

彼ら彼女らの将来は私の手腕にかかっていると言っても過言ではありません。


「さあ、私が皆さんを最高の未来へと導いてあげます!」


と意気込んでみたものの、私の生徒たちは優秀な子たちばかりで特に問題などは起こりませんでした。


「ねぇ、ほら。もっと先生を頼って良いのよ?」


試しにそう声を掛けてみても「いえ、大丈夫です」と返ってくるばかり。

友達の居なさそうな子に親身になろうと積極的に話しかけていたら何故かその子は不登校になり、ご自宅に訪問しても先生とは会いたくないと門前払い。

先輩教師に相談したらお節介しすぎたんだと怒られました。

押してダメなら引いてみろ、だそうですが。

うーん、このままはいけない。

これじゃあ私が教師になった意味がないじゃないですか。

仕方ない。こうなったら他のクラスも指導に行きましょう。

ちょうど2年生に不良グループと呼ばれている可哀そうな生徒たちが居ると伺いました。

2年の担任の先生方は処置無しと諦めてしまっているようですが、それで良いのですか?!

こういう時はきちんと生徒と向き合うのが大事だと教わらなかったのでしょうか。

しかし、いざ私がその生徒たちに声を掛けてみたら。


「うっせぇぞ、ばばぁ」

「ば、ばば、ばばぁ!?」

「いや、顔はともかくまだ行けんじゃね?

なぁ先生。俺ら授業で分からないところがあるから教えてくれよ」

「ほっ。それなら……」

「科目は勿論、保健体育な。俺らに子作りの仕方を実地で指導よろしく!」

「こづっ!じょ、冗談もいい加減にしなさい!!」

「うわっ、赤くなった。この反応絶対処女だぜ。

あの年で処女とかないわー」


しょ、処女で悪かったわね!!

くっ。ここは戦略的撤退よ。


「先生、俺らが卒業の時にまだだったら俺らがお礼参りがてら処女もらってやるよ~」


無視です無視無視。

はぁ、最近の子供の性教育は一体どうなってるのかしら。

でもああいう子こそ更生させてあげないといけないのでしょうけど、酒井先生だったらどうしていたでしょう。

やっぱり小学生と中学生では勝手が違うのでしょうか。

ただ幸いというか彼らは素行が悪いだけで特別大きな事件を起こしたという話は聞かなかった。

思春期だし、性に敏感な年ごろってだけだったのかもしれないわね。

そうして何もできないまま教師生活3年目は終わりを迎え、もしかして折角担任になったのにこのままなのかしらと不安になりだした担任2年目の5月。事件は起こりました。

私が担当する女生徒のご家族が事故で亡くなるという大事件。

一人取り残された女生徒は親戚の元に引き取られたようだけど、その親戚というのが曲者でした。


「初めまして。坂本万里の保護者の高島賢護です」


そう名乗った男性は私とそう変わらない年ごろの男性。

普通に考えてご両親は仕事で抜け出せなかったから代理で彼が挨拶に来たのでしょう。

細身で落ち着いた物腰は好感を持てますし、顔も私好みです。

もしかしたらこれを切っ掛けにお付き合いしちゃったりとか?

なんて幻想は一瞬で崩れ去りました。

それは女生徒の今後について話をしていた時です。


「あの年でご両親を亡くすなんて、なんて可哀そうな子でしょう。

でも安心してください。

私が担任としてしっかりと導いてみせますから」


私がそう言った瞬間、高島さんの目がスッと細くなりました。


「先生。あの子は確かに不幸がありましたが、可哀そうな子、などではありません。

そんな上から目線の同情であの子に関わらないで頂きたい」


この人は何を言ってるのでしょうか。

だれがどう見ても可哀そうな子じゃないですか!

しかも同情するなですって!?

それじゃあ誰があの子を助けるというのですか!!

案の定、事故後やっと学校に出てきた女生徒は無理して笑っているのが分かりました。

当然ですよね。

ここは私がしっかり助けてあげないとっ。

あ、でもまた私の方から積極的に声を掛けて行ったら彼女も不登校になってしまうかしら。

仕方ない。ここは彼女の方から助けを求めてくるのを待ちましょう。

だけど。

待てど暮らせど彼女は私の元に来ませんでした。

私が朝や帰りのHRでこんなに視線でアピールしているのに!!

このままでは何もできないまま終わってしまうわ。

それだけはどうしても避けなければ。

転機は夏休み。

商店街を歩いてた私の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきたんです。


「お兄ちゃん、あれ買って~」


慌てて隠れつつ声のした方を見れば例の女生徒が男性と腕を組んでいるじゃないですか!?

それとさっきの言葉を合わせて考えれば答えは一つしかありません。


『不純異性交遊』そして『パパ活』


なんということでしょう。

余りの事に私の頭は真っ白になってしまいました。

やはり待ってないで積極的に相談に乗ってあげれば良かったんです。

でも万が一勇み足という可能性もありますから裏取りは必要ですよね。

そう考えている間に二人の姿は見えなくなっていました。

その後、雇った探偵から入ってくる情報は私の推測を裏付けるものばかり。

そして私が重い腰を上げるきっかけになったのは彼女が男性とラブホテルから出てきたと言う報告。

ラブホテルだなんて。私だってまだ入った事ないのに!って、そうじゃなくて。

私はまずは手紙で彼女の保護者に連絡を取ってみた。

なにせ、何度電話を掛けても全くつながらないのだから仕方ない。

手紙の返事で翌週の火曜日になら時間を作れるという。


「遅い。遅すぎるわ!!」


この対応の遅さからも彼女の保護者が彼女を大切にしていない事がよく分かる。

本当は私とだけ面談して今後の方針を話し合おうと思っていたのだけど、そんなの生ぬるいわ。

こうなったら職員会議を開いてその場に呼びつけてあげることにしましょう。

これが上手く行けばようやく私も酒井先生のようになれるのね。

そう、思っていたのに。

やって来たのはあの男。

以前と変わらずとぼけた顔をして。

そんなだから彼女が非行に走ってしまったのよ!

だけどその男の口から出てきたのは私が調べ上げた情報を真っ向から否定するものばかり。

結局その男の言い分を他の先生たちは信じてしまった。

その男が証拠不十分で有罪を逃れた犯罪者のように悠然と帰っていきました。


その後私に待っていたのは他の先生がたからのキツイお説教。

私がこれまで教師として行ってきたことは全て間違っていたようです。

もしかしたら酒井先生も私達の前では良い先生の顔をしていたけど、裏で何をしていたか分からない。

少なくとも結婚したってことはその男性と出会うキッカケ、例えば合コンとか行ってたってことです。

教師の癖に合コンとか。

生徒たちが聞いたらドン引きですよっ。

私なんて誘われたことすらないっていうのに。

はぁ。もう良いかな。疲れちゃった。

教師辞めちゃおっかなぁ~。


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[良い点] まったくですね! さっさとやめるべきですね!
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