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53.残念レポーター

遅くなりました。

~~ 笹倉Side ~~


私の名前は笹倉朋子。放送部の部長で人呼んで世紀の神レポーターよ!

……え、誰が呼んでるのかって?

細かい事は気にしない。こういうのはインパクトが大事なんだからっ。


こほんっ。

最初っから飛ばし過ぎたわね。

でも神がかっているというのはあながち嘘では無いの。

なにせ去年一昨年と大して大きな事件も無かったこの町、そして我が校。

余りにもネタが無かったんで今話題のTZMを皆でお金を出し合って購入して、システムを分析したり分解して構造を暴露してみようなんて企画までしたのよ。

まぁ結果は大失敗。

システムには強力なプロテクトが掛かってるらしく知り合いのパソコンオタクにハッキングをお願いしたら、ハッキング用のパソコンの方が逆に全データ消去されるという恐ろしい結果になった。

また分解する方も、TZMからの度重なる警告を無視してやっとのことで外カバーを外した瞬間に内部の主要なシステムがショートして完全に壊れてしまうし、更に10分と経たずに重装備の警備員が押しかけてきてTZMの残骸は没収され、多額の違約金の請求までされてしまった。

そりゃあ確かにTZM購入時の契約書に結構大きな字で分解等をした場合、最低100万円の罰金を要求しますって書いてあったし口頭で説明もされたし、分解時にTZM本体からも警告されたけど、本当に中学生にそんな高額を要求するなんて普通思わないじゃない。


と、いけないいけない。

つい熱くなって脱線してしまうのは私の悪い癖ね。

えっと、どこまで話したっけ。

あ、そうそう。つまり何が言いたいかというと私が部長になった今年度は凄いってことよ。

なにせ半年足らずで3回も大事件が起きてるのよ!!


まず最初に起きた事件は5月。

謎の爆発により一軒家が全壊。そこに住んでいた家族はたまたま修学旅行中の女の子を除いて死亡。

しかもその女の子はうちの生徒だったの。

その女生徒は事件から10日足らずで復学してきたんだけど、流石の私もその時は事故のショックで辛い状態だろうからと思ってその女生徒にインタビューするのは控えたわ。

その代わりと言っては何だけど、事件現場は警察の目を潜り抜けて何度も行ったわ。

まぁこれと言って爆発の原因となるものは見つからなかったんだけど、でも逆を言えば私にも気付かれないような凄いトリックを使った爆弾魔の犯行とは考えられないかしら。

これがマンガやアニメの世界だったら異世界から来た魔法使いの仕業か!?となるけど、いくら何でも、ねぇ。

ただ気になるのはその女生徒が1月くらいで、まるで事件なんて無かったかのように元気になってるのよね。ふつうご両親が亡くなったらもっと塞ぎこんでてもおかしくないのだけど。


そして次の事件は7月末。

うちの学校でも特に素行が悪いと評判の不良グループが纏めて病院送りにされた。

私の掴んだ情報によると、その不良グループは一人暮らしの女生徒を狙って暴行を加えたり口では言えないあんな事やこんな事をしていたみたい。

問題は一体だれがその不良グループを退治したのか、ということよ。

事件のあった日、校舎裏から女生徒が慌てて走り去っていったという目撃情報がありますが、女子1人で不良男子4人を撃退出来るとは考えにくいのよね。

その女生徒が武道の達人だ、なんて話なら分からなくは無いですが、格闘技部に所属している女生徒に聞き込みして回りましたが全て外れだった。

なら女生徒はたまたま現場を目撃してしまっただけで、全く別の第3者が居たのか。

普通に考えればその可能性が一番高いわね。

ちなみに被害に遭った女生徒は現在、実家に帰り近くの病院でカウンセリングを受けながら療養しているらしい。

早く良くなってくれるのを祈るばかりだ。

あ、流石の私でもその女生徒に無理に話を聞きに行くような真似はしないわよ!

一度お見舞いついでに実家に行かせてもらったけど門前払いだったしね。


で、恐らく私の現役時代最後となる特ダネが昨日見つかったの!

もうね、私の神掛かった運の良さには惚れ惚れするわ。

昨日は私たまたま職員室の近くを歩いていたの。

すると例の5月の事件で被害者だった女生徒が職員室に入っていくじゃない。

これはもう、絶対何かあると思った私は彼女に気付かれないように後を追って職員室に入ったわ。

放送部部長である私は顧問の先生に会いに行ったり、先生の手伝いだったりで職員室には良く来てるから他の先生も気にした様子はない。


(さて、例の女生徒は……いた。一緒に居るのは彼女の担任ね)


先生の方がちょっとイライラしているなと思っていたら案の定、職員室中に響く声で怒りだした。

話の内容は、どうやら女生徒が無断外泊と不純異性交遊を続けているというのだ。

私の中で『まさかね』と思う気持ちと『やっぱり』と思う気持ちはやっぱりの圧勝です。

酷く辛い事件があった場合、被害者が取る行動は悲しみに塞ぎこむか現実逃避して非行に走るかのどちらかが多い。

彼女は後者だったということね。

職員室を後にして帰路に就いた女生徒は特に迷う素振りも無くとあるマンションへと入っていった。

私も少し遅れてマンションの入口に向かい、エレベータの止まっている階をチェックする。

よしよし、あとはこのマンションに張り込んで同じ階に向かう若い男性が居ればほぼビンゴでしょう。

と思って張り込んでいたらパトカーがやってきた。

まさか、不純異性交遊の相手は警察?な訳ないか。

引き続き隠れて様子を見ていたら今度はパトカーとはちょっと違う車がやって来た。

車から出てきた男性、性格にはその制服を見てゲッとなった私。

あの制服は去年私達を襲ったTZMの警備会社の制服だわ。

あれに見つかったら何言われるか分からないし、仕方ない。今日の所は退散よ。

それにこれだけでも十分記事は書けるしね。


そして複数の媒体で流した私の記事はどれも高アクセス数をマーク。

コメントやいいねも沢山ついたし、これで私のフォロワーアップも間違いなしね!

こうなったらこのビッグウェーブにとことん乗りまくってやるわ。

昼休みになって早速突撃インタビューを敢行。

でも適当にはぐらかされて逃げられてしまった。

ふっ、こうなったら現場を写真に収めて逃げられなくしてあげるわ。

もうすでにあなたの向かうマンションは把握してるのだから。


放課後。速攻で学校を飛び出した私は急ぎ例のマンションへと向かった。

そして彼女の生息している階へ向かうと片っ端からチャイムを鳴らしていった。

ふむふむ。この時間にはどのお宅も留守、と。

よし、なら確実に彼女のお相手は外から帰ってくるはずだからマンションの入口を抑えておけば見逃す心配は無いわね。

潜伏場所は昨日と同じ場所。

あ、しまった。長期戦になりそうだし、アンパンと缶コーヒー買っておけばよかった。

張り込みのお供を忘れるなんてなんたる失態。

でも今から買いに行ってその間に問題の男性が帰ってきてたらアウトだし、今日はこのままね。

そうして張り込むこと30分。

例の女生徒が帰って来た。

その手の中にはスーパーの買い物袋があるから帰りがけに買い物でもしてきたのだろう。

もしかしてパシリもやらされてるとか?ありえそう。クズ男の考えそうな事よね。

更に30分が経過したけど、特に出入りする人の姿はなし。

まぁ普通の会社の定時は18時前後だし、19時くらいにならないと帰ってこないのかもしれない。

と見せかけてふらっと帰ってくる可能性もあるから目を離せないのよね。


とんとんっ

「なによ邪魔しないで」


後ろから遠慮がちに肩を叩かれた。

どうせ近所の馬鹿ガキでしょうね。


「あの、向こうのマンションを張っているんですか?」

「そうよ。だから邪魔しないで」

「そうですか。なら署で詳しい話を聞かせてもらいましょうか」

「……へっ?」


なにやらドスの効いた声に振り返ってみると、そこに居たのは警察。

あ、コスプレイヤーの方ですか。え、違う?そうですか。

交番まで連れて行かれた私は、なんとストーカーと疑われて通報されていたみたいで、ちゃんと言い訳したのに疑いは深まるばかり。なんなのよっ。

今回は初犯ということで厳重注意で解放されたけど次は親に連絡すると脅されてしまった。

くそぅ、誰よ通報なんてしたのは!

時刻は19時を過ぎてるし、こうなったら家に帰って記事を書いて書いて書きまくってやるわ!!

そうして家のパソコンを開いてみたところ、私の記事に大量のコメントと「いいね」の数倍の「だめね」が付けられていた。

コメントの内容も『妄想乙~』は可愛い方で、


『え、私毎晩魔女の集会をやってるって聞いたよ?』

『やっぱ時代はうまいっしょ棒だよな』

『聖プリンチャン教はあなたの参加をお待ちしております』

『俺の推しはやっぱまきりんっしょ!え、マリマリ?お前目が腐ってんじゃないの?!』


などなど、どう見ても荒らしコメントが大量投下されていた。

他にも六法全書から抜き出したような学術的なつまりよく分からない文章で謎推理を展開されたり、運営から捏造記事に対する警告が来ていたりとさんざんだった。


「くっそ、負けてなるものか。

日本には報道の自由があるって事を思い出させてあげるわ!」


しかしそれから半年、どこに何の記事を載せても荒らしに悩まされ、フォロワーも最盛期の1/20まで減り、失意のまま高校受験まで失敗する結果となるのだった。




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