46.意識されたい乙女心
~~ 妹Side ~~
さあ、今日は待ちに待った週末です。
って、そこまで楽しみにしていた訳では無いですが、やっぱり先々にイベントが待ってると待ち遠しくなりますよね。
ベッドから降りて隣を見れば当然のようにお兄さんは居なくてお布団も綺麗に片付けられてます。
いつも思うのですが、隣でごそごそと片づけをされてるのに私って良く起きないですよね。
「エルちゃん。私ってそんなにいつも熟睡してるの?」
『はい。マイシスターの睡眠中の脳波サイクルは理想的です』
って、TZMってそんなのまで測定できるんですか!?
どれだけ高性能なのでしょうか。
あ、そうじゃなくて。
「お兄さんが起きてお布団を片付けても起きないのって大丈夫なのかな」
『それも問題ありません。眠りが浅くなっている時でなければ大抵の人はあの程度の音で起きることはないでしょう』
「つまりお兄さんが忍者みたいに静かだったってこと?」
『ご明察です』
肯定しちゃうんだ。
実はお兄さんのご先祖様は伊賀の出身だったとか?
って、そんな訳ないですよね。
そんな益体も無いことをぼーっと考えながら携帯を取って着信を確認するとメールが3件。
送り元はゆっこに千歳に恵里香ちゃんですね。
内容は……えっ!?
「はぁ。お兄さん」
「ん?どうした?」
「さっきみんなからメールが届いていたのですが」
朝食を食べながらお兄さんにメールの内容を伝えることにしました。
「いろいろあって3人とも今日のかき氷行けなくなってしまいました」
「そうか、残念だな。でもどうして?」
「ゆっこは虫歯が見つかって冷たいものを食べたら死ぬから歯医者に行くそうです。ゆっこらしい大袈裟な表現ですね。
千歳は急遽ご両親と出掛けることになったって。
そして恵里香ちゃんも夏風邪をひいてしまったって今日は家で寝ているそうです」
「ふぅむ。それなら今日は中止かな?」
「私もそう思ったんですけど、みんなに伝えたら『私達の分までお兄さんと2人で行ってきなよ』って言われてしまいました。
ついでに写真も撮影して食レポを送ってほしいそうです」
「そっか。それは難しい注文だな」
最初のメールから3人とも表現は違ったけど『私は行けなくなったけどみんなで楽しんで来てね』でしたし。みんな仲良いですよね。
そんな訳で今日は予定通りかき氷を食べに行くことになりました。
お店に行くのは折角冷たいものを食べるのだからと暑い時間帯で、ご飯時は外そうということで14時の予定です。
それまでは時間もありますので、近くの商店街を散策しようと思います。
後はそうですね。やっぱりお出掛けだからちゃんと化粧とかもしましょう。
あ、もちろん化粧と言っても薄っすらナチュラルメイクで更に言えば日焼け防止効果付きです。
お兄さんはいつも通り。というかいつも抜け目が無いと言うべきですけど。
「お兄さんも偶にはお洒落しても良いんじゃないですか?」
「あれ、この服ダサいか?」
「いえ、ダサくはないのですが……」
「ふむ」
私の言葉を聞いて考え込むお兄さん。
その視線が私のところで止まったかと思ったら納得したように手を合わせました。
「なるほど。万里がお洒落してるのに俺が普通だと万里に恥をかかせるところだったな。
こっちとしては家族のつもりでも周りから見たら若い男女が一緒に出掛けていればデートと思われてもおかしくない。
それなのにダサい男を連れてると万里のセンスを疑われてしまう訳だ」
「でで、デート、ですか?」
いや私とお兄さんは家族なのですからデートとは違うような。
でも私達の事情を知らない周りから見たら、顔立ちも似てないし実際血のつながりもほぼない私達はどう見られるんでしょうか。
「その、お兄さん。私達って恋人同士に見えたりするんでしょうか?」
「自分で言っておいてなんだけど、それはないだろう。あって親戚同士とかじゃいか?」
「むっ」
そりゃあ確かに私はお兄さんとは10歳くらい離れてますけど?
もう少しくらい女の子として意識してくれても良いと思うんです。
よぉし、こうなったら今日は意地でも私を女の子として意識させますから覚悟しててくださいね!
最初の作戦その1。呼び方を変えてみましょう。
やっぱり『お兄さん』では兄妹としか見られないですからね!
「さあ賢護さん。行きましょう♪」
「け、賢護さん!?」
「どうしたんですか、賢護さん」
「いや。まぁ良いけど」
突然の名前呼びに驚くお兄さんですが、こういうのは勢いが大事ですよね!
自分で呼んでて違和感バリバリですけど、気にしたら負けです。
そして作戦その2。
恋人と言えば手を繋いだり腕を組んだりは当たり前。
何気ない感じで歩くお兄さんの横に並んで腕を取りました。
「~♪」
「今日はやけに甘えん坊だな」
「そういう気分なんです。それとも嫌ですか?」
「まぁ構わないけどな」
「ですよね♪」
どこ吹く風のお兄さん。
お兄さんの腕にぎゅっと押し当ててみますがこれも反応なし。
むぅ、手ごわい。それとも恵里香ちゃん並に大きい胸じゃないと興味ないとか?
「お兄さんは胸の大きな女の子と小さい子だったらどっちが好きですか?」
「そりゃまた答えにくい質問だな」
「どうしてですか?」
「『小さいほう』って答えるとロリコン認定されるし『大きいほう』って答えるとおっぱい大好きのドスケベ変態認定されるからなぁ」
「いやいや大丈夫ですって。それで、どっちなんですか?」
「あまり面白い回答では無いが、胸の大小で女性を評価する気は無いな。
そりゃまぁ雄の本能として女性の胸がゆれてるとつい見てしまうけどな」
ふむふむ。お兄さんは揺れるおっぱいが好き、と。
私の胸は……残念ながら揺れるほどではないですね。
と言ってもまだ私は成長期。これからこれから。うん。帰ったらしっかり牛乳飲もう。
よし、気を取り直して作戦その3。
「賢護さん、あのお店を覗いて行きましょう」
「あそこか。まぁ良いけど俺は外で待ってようか?」
「ダメです。一緒に来てください」
そう言ってやや強引に連れ込んだのはランジェリーショップ。
それも以前のデパートのように機能性第一ではなくて、所謂大人向けのお店です。
お兄さんは勿論の事、私も場違い感は半端ないので、店員さんの視線がちょっと痛いです。
でもここで負けてはいられません。
「賢護さんはどういうのが好きですか?」
「ノーコメントで」
「こっちの紐で結ぶタイプとかどうですか?」
「ソウダナー」
「こ、こっちのなんて全部紐みたいですよ!」
「ウンソウダナー」
雑誌とかで見た時はこんなの着る人居るのかな、なんて思ってましたけど、実際にお店で売ってるって事は買う人も居るんですよね~。
こんな紐みたいなの着ても着なくても変わらないと思うんですけど。
「おほんっ」
と、流石にこれ以上は店員さんに怒られそうなので退散しましょう。
お兄さんも何だか悟りを開いたみたいになっちゃってますし。
ちょっとやり過ぎましたね。
ということでデートの定番に戻って作戦その4。
「やっぱりデートの定番と言えば公園でクレープだと思うんですよ」
「うん、良いんじゃないか。時間的にもちょっと早いお昼ご飯って感じだし」
商店街のクレープ屋で違う味のクレープを買って近所の公園へ移動。
空いていたベンチに座って食べ始めた訳ですが、公園でクレープと言えば食べさせ合いでしょう。
「賢護さん。そっちのクレープも一口食べさせてください」
「はいよ」
私のお願いを聞いて素直にクレープを差し出すお兄さん。
目の前には当然のようにお兄さんの食べかけのクレープが、って私がお願いしたんですけどね。
こ、これってもしかしなくても間接キスですよね?
「ん?」
クレープを前に固まっている私を見てお兄さんが不思議そうです。
ええ、そうでしょうとも。くっ。こうなったら女は度胸です。
「はむっ」
もぐもぐ、ごっくん。ふぅ。
う~全然味が分かりませんでした。
こうなったら仕返しです!
「賢護さんも私のを一口どうぞ」
「ん、じゃあちょっとだけな」
ぐぬぬ。お兄さんは照れた様子もなくあっさりと食べてしまいました。
私があんなに苦労したというのに。
これが大人の余裕というやつでしょうか。
くっ。こうなったら本命のかき氷ショップでリベンジするしかないですね!




