44.恵里香ちゃんの告白
夏休みに入ってから温めていた恵里香ちゃんネタの締めです。
恵里香ちゃんのお母さんの名前を出してなかったのが悔やまれる。
今更出してもなぁ。
程なくして18時になり恵里香ちゃんのお母さんも帰ってきました。
「ただいま~」
「おかえりなさい、お母さん」
「「お邪魔してます」」
お料理も一通り出来上がっているので早速頂こうという事になったのですが。あれ?
席順は私の隣に恵里香ちゃん。私の向かい側にお兄さんとその隣に恵里香ちゃんのお母さんです。
てっきり恵里香ちゃんはお兄さんの隣に座りたいのかと思ったのですがそうでも無いんですね。
あ、普段から恵里香ちゃん達は今の席位置ってことなのかな。それなら納得です。
食事中の会話のほとんどは私と恵里香ちゃんが話してお兄さん達は主に聞き役です。
「あ、お母さん。こっちの酢の物は賢護さんが作ったんですよ」
「どれどれ。んん、夏場にこういう食欲が増すのがあると良いわね」
「ですよね。そういうのも考えて料理してるんですから凄いですよね。
先日の川遊びの時のBBQでもお肉と野菜のバランスや出すタイミングを調整してたんですよ」
「確かにお肉狙いのゆっこにはお肉と野菜がセットになった串を中心に回してましたね」
「他にも……」
良く聞けば恵里香ちゃんの話はお兄さんの話が半分くらいを占めてますね。
まぁ私もお兄さんの事を褒められて悪い気はしないんですけど。
そうして終始楽しく夕食を終えた後はケーキのお披露目です。
「これ私と恵里香ちゃんで作ったんですよ」
「凄いな。こんな立派なケーキ、結構手間がかかったんじゃないか?」
「それがそうでもないんです。意外とお手軽で多分うちでも作れますよ」
「そうなのか。なら後で俺も作り方を教えてもらおうかな」
恵里香ちゃんのお母さんは前にも食べたことがあるのか驚いては居なかったけど、お兄さんは喜んでくれたので満足です。
ただ今から食べるにはボリュームが多かったので味見に1切れだけ食べて残りは明日のお茶の時間に食べることになりました。
問題の味の方は……うん。
チョコレートのお陰もあってホットケーキっぽくもないし上出来なんじゃないでしょうか。
甘すぎないので男性でも普通に食べられそう。
ってお兄さんはあのコーヒーとホットケーキを食べれるんだから心配無用かな。
お茶を飲んで一息ついたところで、恵里香ちゃんがちょっと真剣な表情でお母さんに尋ねました。
「それでお母さん。その、どうでしょう?」
ん?どう、というのはなんでしょうか。
でも恵里香ちゃんのお母さんには伝わったようで右手を顎に当てて、うーんと悩んでます。そして。
「よし。良いでしょう。交際を認めます」
「はっ?」
「ええっ!?」
「ずずーーっ」
恵里香ちゃんのお母さんの発言に驚いて立ち上がってしまいました。
やっぱり恵里香ちゃんってお兄さんの事が好きだったんだ。
さっきのも『お兄さんとお付き合いしたいのですが良いですか?』って意味だったんだね。
って、なんで恵里香ちゃんまで驚いてるの?
「お母さん違います。私とじゃなくてお母さんと!」
慌てて否定する恵里香ちゃん。
どうやらお母さんにもちゃんと伝わって無かったみたいです。
「ん?どういうことかしら」
「お母さんいつも言ってたでしょ。お付き合いするならこういう男性にしなさいって。
賢護さんならぴったりだと思うんです。だからお母さんの再婚相手にどうかなって思ったんです。
私も賢護さんみたいな人がお父さんなら良いなって思いましたし」
「ああ、なるほど」
あ、ああ!!
そういうことだったんだ。
つまり恵里香ちゃんはお兄さんの事を彼氏とか恋人としてではなくて、お父さんみたいに思っていたんですね。
確かにそれなら納得です。
お父さんに甘える娘って意味なら水着を選んでもらったり何かとお手伝いしたりするのも恵里香ちゃんらしいです。
「ずずっ、んん?」
3人の視線を受けてお兄さんも呑気にお茶を飲んでる場合じゃなくなったみたいです。
ここでお兄さんが頷くと再婚に向けて一歩どころか10歩くらい前進で、もしかしたら将来的に私と恵里香ちゃんは義理の姉妹になるんですね。
そしてお兄さんの答えは!?
「ん~そうだなぁ。……良き友人、にはなれそうだと思うが結婚となると話は変わってくるな」
「そうね。私も今日の様子を見るにそんな感じかな」
「どうしてですか!?」
お兄さんも恵里香ちゃんのお母さんも同じ意見みたいです。
でもそれだけじゃ恵里香ちゃんは納得できないですよね。
~~ 兄Side ~~
「どうしてですか!?」
突然持ち上がった結婚話。
別段恵里香のお母さんが魅力的ではないとは言わない。
でもなぁ。
間違いなく彼女は俺と同じく今は一番大切なものが他にある。
『あなたの事は2番目に大切なの』
と言われてもなぁ。
もちろんその大切なものを一緒に大切にしていこうって提案は出来るかもしれないが現時点でそれをする必要性も感じてはいない。
万里の事は俺が責任をもって守るし、恵里香の事はお母さんが居れば良い。
今のままでバランスはとれているように見えるし、敢えてそこに不確定要素を投入するメリットは無い。
恵里香にとって父親的な位置の男性が必要なのであれば、結婚まで行かなくても家族ぐるみで旅行に行ったり、何か相談事に乗るくらいで十分だ。
でも『万里たちが居るから結婚はしない』みたいに言うと変に責任を感じさせてしまうだろう。だから。
「たぶん今くらいの距離感がお互いにとって良いんだよ」
「そうね。結婚だけが幸せではないし、仮に結婚してしまうと依存して弱くなってしまいそうで心配だわ。
だから今は誰とも結婚する気はないんだよ」
「むぅ」
恵里香は納得出来てないみたいだけどこればっかりはな。
「まぁ困ったことがあったらいつでも言っておいで。
相談には乗るし出来る限り力になってあげるから」
「はい、ありがとうございます」
ここで万難を排して駆けつけるとか言えないのが俺の限界だ。
それでも無理に抱え込んで本当に大切なものを蔑ろにしては意味がない。
きっと恵里香のお母さんも似たような心境だろう。
夕飯をご馳走になって片付けも済ませてから俺と万里は帰ることにした。
その帰り道。
万里は何か考え事をしてるみたいだな。
「どうかしたか?」
「あ、いえ。私にとってお兄さんって何なのかなって。
お父さんって言われると違うかなって思うし、お兄さんって呼んでるんだから兄弟なのかと言えば、より保護者色が強い気もするし」
「なんだそんなことか」
俺は万里の頭にポンっと手を置きながら言葉を続けた。
「決まってるだろ。俺達みたいなのを『家族』って言うんだよ」
「あ……うん!」
俺の言葉に納得した万里は嬉しそうに俺の腕に抱き着いてきた。
まったく最近は甘えん坊に育ってきてしまったな。
まいっか。親離れ子離れは中学校を卒業してからでも遅くはないだろう。




