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4.少しは回復してくれたようだ

窓から差し込む日差しで目が覚めた。

携帯で時間を確認すれば午前6時。

昨夜は結局居間のテーブルに突っ伏して寝たから体の節々が痛む。

まぁ寝たと言ってもうたた寝程度の浅いものだ。なにせ。

と、それは良いか。

俺は顔を洗った後、そっと寝室へと続く戸を開けて中の様子を窺った。


「……すぅ」


良かった。どうやら今は無事に寝られているようだ。

昨日引き取った少女は夜中に2度ほど酷くうなされていた。

恐らく亡くなった両親の夢を見たんだろう。

可哀そうに。

だが俺がしてやれることなんて多くはない。

せめて目が覚めた後に美味しい朝食をご馳走するくらいか。

あ、あとお風呂も沸かしておくか。

そうと決まればあの子がいつ起きてくるかも分からないのであまりのんびりもしていられない。

俺は早速身支度を整えると米を研いで炊飯器にセットした後、24時間営業のスーパーへと向かった。


「っと、しまった。あの子の好き嫌いとか知らないな」


好き嫌いならマシな問題で、アレルギーとかは大丈夫だろうか。

一応引き取る時に山田さんから貰った資料には病気は無いと書かれていたけどな。

ま、見てわかるものは本人が手を付けないだろうし蕎麦なんて早々出す気は無いから心配しすぎることも無いか。

ただ納豆とか癖のあるものは明日以降だな。

とすると無難に目玉焼きにベーコンにサラダ。あとは豆腐の味噌汁とご飯があれば朝は乗り切れるだろう。


「……こんなまともな献立は爺ちゃんが生きてた頃以来だな」


一人暮らしになってからは手軽に腹いっぱいになれば十分って感じの男飯?しか作らなくなったからな。

ただ今後はそうも言っていられないんだろう。

これが男だったら肉丼を出して「さあ食え!」で良いんだろうけど、相手は女の子だ。

同僚の話から察すれば、女の子は料理の味以上に彩りや見栄えにもこだわりダメだしをする生き物だ。

料理のレパートリーもせめて1週間分は無いと文句を言われたり食べてもらえなくなったりするらしい。

そう考えると主婦の皆さんの努力の程が窺えるな。

とそんなことを考えながら買い物を済ませて帰宅したが、あの子はまだ寝てるな。

なら今のうちにお風呂にお湯をためて朝食の支度を済ませてしまうか。


そうして時刻は7時半。

一通りの準備が整ったところで隣の寝室から物音がした。

どうやら起きたようだ。だけど10分経ってもこっちに来る気配が無い。

二度寝したか?

そう思いつつも俺は寝室に繋がる戸をノックして声を掛けた。


「おはよう。起きたか?中に入っても良いか?」

「…………」


反応なし。

仕方ないので「開けるぞ」と声を掛けてから戸を開けて寝室に入った。

するとベッドから上半身を持ち上げた状態で止まっている彼女がいた。

寝ぼけている、というよりもぼーっとしているというか感情が表に出て来てないんだろうな。

なので俺は彼女の顔を覗き込むようにして話しかけた。


「おはよう万里。少しは眠れたか?

朝食を作ってあるから起きてくれ」

「……ん」


どうやら俺の声は聞こえてはいるらしい。

緩慢な動きだけど、彼女は自力でベッドから起き上がった。

そのまま俺が手を引くと特に抵抗もなく付いてくる。


「先に顔を洗っておいで。その間に準備を済ませておくから」

「……」


とつとつと洗面所に向かう彼女を見送った俺はその間に目玉焼きを焼いて味噌汁を温め直してご飯をよそう。

彼女が戻って来たときにはばっちり全部が整っている状態だ。

我ながら上出来だと思う。


「さあ席について。朝食を頂こう」

「……はい」


小さく返事をしてご飯を食べ始める彼女。

ゆっくりだけど無事に食べてくれたことに俺は安堵した。

ご飯が食べられて少しでも寝れるなら、最低限生きては行けるからな。

あとはゆっくりと回復を待てばいい。



~~ 妹Side ~~


窓から差し込む日差しで目が覚めました。


「……朝」


見覚えのない部屋。嗅ぎなれない匂い。

でもそれよりも朝になるまで寝ていられたことにちょっと驚いています。

ちゃんと眠れた証拠に上半身を起こすのはそんなに苦ではありませんでした。

一昨日までは眠りにつく度にあの悪夢に襲われて夜中に起きていたので、まともに寝れたのなんて何日ぶりでしょうか。

昨夜は悪夢を見なかったのかと言えば、そんなことは無くて。

でも不思議と起きはしなかったみたいです。なんでだろう。

と、そんなことをぼーっと考えていたら戸をノックする音と聞きなれない男性の声。

返事もせずに居たらそのまま戸が開いて先ほどの声の主と思われる男性が寝室に入ってきました。

って、そうでした。

昨夜この人に連れられてこの家に来たんです。確か私を引き取ると言って。

そして私が反応を返さなかったからか、ベッドの脇にしゃがみ込むと険しい顔で私の目をじっと覗き込んできました。

でも険しかったのは一瞬で、すぐににっこりと笑って挨拶をしてくれました。


そうしてその人に続いて居間に行くと私をご飯とお味噌汁の匂いが迎えてくれました。

ここ数日はまともな食事を摂って無かったからでしょう。

そんな普通の事が私を刺激します。主に胃袋の辺りを。

お陰で用意された朝食は昨日までの食欲の無さが嘘のように食べ終えてしまいました。

それを見たあの人はニコニコしています。


「ごちそうさまでした」

「!!」


私がご馳走様を言うと驚くあの人。

何か、そんなに変だったんでしょうか。


「どうかしましたか?」

「あ、いや。何でもない。それより風呂を沸かしてある。

昨夜はそのまま寝てしまったし、良かったら冷めない内に入ってくると良い」

「はい」


お風呂。これもここ数日入ってなかった。それどころじゃなかったし。

って、よく考えたら今の私って臭くないかな。

自分じゃよく分からないし、この人はそんなに気にしてないっぽいからまだセーフだと思いたいけど、やっぱり女の子としては気になるところです。

なので急いで私はお風呂に向かいました。


かぽーん

「ふぅ~~~」


軽く体を流してから湯船に浸かります。

ちょっと狭いけど贅沢は言えないよね。

お湯の温度はぬるめでゆっくりと浸かっていられました。

そのお陰かな。

本当に少しだけ気持ちが軽くなった気がします。

たっぷり20分くらい経った後、お風呂から出た私の目の前に1つ大問題が横たわっていました。


「着替え……」


脱衣籠に入っているのはここ数日着ていたもの。

せっかくお風呂に入って綺麗になったのにこれを着るのは嫌です。

かと言ってバッグに入っているのも修学旅行初日に着ていたもので、これよりかはマシだけどやっぱり抵抗があります。

どうしよう。といっても解決策なんて無いんですけど。

仕方ないのでバスタオルを体に巻いて私は風呂場を後にしました。


~~ 兄Side ~~


ふぅ。さっきは驚いたな。

まさかもうご馳走様を言うまで回復するとは思わなかった。

やはり温かいご飯は効果的だったということか。

その後のお風呂についても少し慌てて入ったところを見ると自分の状態を気に掛けられるくらいになったって事だし。

この調子なら1週間もかからずに社会復帰できるかもな。


がちゃっ。


風呂場のドアが開いてあの子が出てきた。

な、なんでバスタオル姿なんだ!?

待て落ち着け。少なくとも表情には出すな。絶対に変な意味は無いんだから。

着替えを忘れたとかそんなオチ……あ、そうか。着れる服が無いのか。

女の子だもんな。さっきまで着ていた服を着る訳にもいかなかったのか。


「近所のコインランドリーで洗濯してくるから洗い物を全部出してくれ。

その後は湯冷めしてもまずいし、ベッドにでも潜り込んでいるといい」

「はい。すみません」


彼女はいそいそと自分の衣類を纏めて差し出すとベッドの中に潜り込んだ。

それを見届けた後、洗濯物を入れた紙袋を持ってマンションを出た俺は近所のコインランドリーへと向かった。

うーん。良い年した男が女性ものの衣服一式を洗濯してるのって見つかったら通報されてもおかしくないよな。

幸い今回は誰も居なかった良かったものの、今後も大丈夫とはいかないだろうからな。

何か対策を考えるべきか。

と、それより、今日明日はこれで何とかなるとして、彼女の着替えを早めに買いに行く必要があるか。


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