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37.山を下りるまでがハイキングです

~~ 妹Side ~~


BBQの片付けも済んでいざ山歩きに出発、というところで問題が発生しました。

何かというと、啓子ちゃんがおねむです。

午前中かなりはしゃいでお腹いっぱいご飯を食べたので仕方ないと言えばそうなのですが。


「……ぅ~」

「どうする?車で寝てる?」

「やぁ~、わたしもいくぅ~」


この通り、自分も行くんだと言う始末。

どうしましょうか。


「お兄さん」

「仕方ない。一人置いて行っても心配だしな。

俺が負ぶっていくよ。その代わり俺の荷物は皆で分散して持ってくれ」

「妹の事なら私が」

「いや、緩やかな山道とはいえ歩きなれてないとそれだけで疲れるからな。無理はしない方が良い。

ほら、啓子ちゃん。俺の背中に乗っかれ~」

「ぁぃ~」


今にも寝落ちしそうな啓子ちゃんを支えてお兄さんの背中に乗せます。

お兄さんは立ち上がるとトントンっと啓子ちゃんを安定した位置に移動させました。


「重くないですか?」

「全然大丈夫さ。でも流石にもう一人は無理だから、みんなは頑張ってくれよ」

「はい」

「よし、じゃあ足元に気を付けつつ、前後の間隔をあまり空けないようにして付いてきてくれ」

「「はい」」


私達はお兄さんを先頭にして山道に入りました。

足元は十分に踏み固められた土でそれほど歩くのには苦労は無さそうです。

所々木の根がせり出しているので、油断すると転びそうですけど。

それにしても前後左右、上を見ても全部緑っていうのは凄いですね。

心なしか空気も綺麗ですし、午前中水遊びをして私達も疲れている筈なのに深呼吸をしていると元気になっていく気がします。

まさに森林浴ですね。

そうして歩くこと30分。

それまで鳥の鳴き声くらいしか聞こえなかったのに、別の音が聞こえてきました。


「お兄さん、そろそろですか?」

「ああ、もうすぐだな」


その言葉の通り、まず見えてきたのは小川。多分さっきまで遊んでいた河原の源流でしょう。

続いて森が開けた先に滝が見えてきました。

さっきの音はこの滝の水が滝壺に落ちる音ですね。

滝は高さにして3メートルくらい。それほど大きい訳じゃないので荘厳って感じじゃないけど何か良い感じです。


「えっと、こういうのをなんて言うんだっけ?」

「そうね。風流、で良いんじゃない?」

「そうそれだ。ん~、風流だね~」

「と、折角だから啓子ちゃんを起こしてあげようか」

「そうですね。啓子ちゃん、朝だよ~」

「んぅ?」


お兄さんの背中の上で目を覚ました啓子ちゃんは瞼をくりくりと擦って辺りを見回した。

その視線が滝を捉えると感嘆の声が上がった。


「ふぉぉ~。滝だ~~。

お兄ちゃん、もっと近くに行って~」

「はいはい」


お兄さんは啓子ちゃんを負ぶったまま滝を触れるくらい近くに歩いていった。

その後ろを私達も付いていく。


「わ、遠くから見たら大したことないかなって思ったけど、近くで見ると意外と迫力あるね」

「ほんと。あと水しぶきが凄い」


風のせいで滝の真下じゃないのに霧雨みたいに水が飛んできます。

そして啓子ちゃんは滝に手を差し出して大興奮です。


「凄い、バチバチって当たってくる~。

ね、お兄ちゃん。あれしないの?あれあれ」

「あれ?」

「ほら、しゅぎょーだよ、しゅぎょー」

「滝行かぁ。流石にしないなぁ。それにこのまま飛び込んだら啓子ちゃんもびしょ濡れで風邪ひいちゃうよ」

「むむ、それなら仕方ないね」


謎の啓子ちゃん理論を聞いた後は皆で滝の写真を取ったりしながら小休憩。

小川の上に飛び出した岩に腰かけて足を水に浸すとひんやりして気持ちいい。

それを見た皆も一緒になって岩に座っては靴を脱いで足を水に浸し始めた。


「……」

「……」


辺りには滝の流れる音と鳥の鳴き声しか聞こえない。

みんなでワイワイするのも良いけど、偶にはこうしてのんびりするのも良いよね。



~~ 兄Side ~~


30分程休憩した後、俺達は山を下りることにした。


「さ、そろそろ戻ろうか」

「えぇ~まだまだ元気ですよ」

「そうね。時間も早いしもうちょっと奥まで行ってみても良いかも」


優子を始めとしてまだまだ元気だとアピールしてきた。

でも残念ながら予定を変えるつもりはない。


「山歩きっていうのは帰り道の方が大変なんだ。

慣れない内はまだまだ余裕ってくらいで戻った方が良いんだよ。

それに山は逃げないんだから気に入ったのなら今度は本格的に登山メインで来ても良いんだし。

さ、そういう訳だから準備が出来たら出発するよ」

「「は~い」」


若干しぶしぶではあるけど素直に頷くみんな。

さて帰りの布陣だけど、そうだな。


「帰りは万里が先頭だ。道順は分かるよな」

「はい。といっても一本道でしたし」

「続いて千歳、優子と啓子ちゃん。啓子ちゃんはお姉ちゃんと手を繋いでいく事。

で、その後ろに恵里香で最後が俺だ。

歩く速度は啓子ちゃんが基準だから行きの時よりのんびりな。

万里は時折、後ろを振り返って離れてないことを確認してくれ。千歳は万里のフォローだ」

「「はい」」


行きの半分くらいのペースで山を下りる俺達。

万里の先導はエルも居るし心配することはほとんど無い。

気になることと言えば、行きの時は寝てた啓子ちゃんが目をキラキラさせて辺りをきょろきょろしてることくらいか。

そこはお姉ちゃんの優子がちゃんと手を取ってはぐれないようにしつつ、後ろの恵里香も逐一気に掛けてくれている。

そうして行程の半分をちょっと過ぎたところで事件は起きた。


「あ、キャップ」


啓子ちゃんが水筒のキャップを落としてしまったのだ。

キャップは地面を跳ねて脇の草藪の中に入ってしまった。


「あ、こら待ちなさい」


取りに行こうとする啓子ちゃんを慌てて引き留める優子。グッジョブだ。

代わりにと恵里香が草藪の中に入ってキャップを取りに行こうとする。

だがその時、草藪が風も無いのに不自然に揺れ動いた。


「恵里香、待て!」

「えっ?」


慌てて呼び止めたが遅かった。

草藪に差し入れた恵里香の腕目掛けて影が迫る。


「くっ」

ガブッ!


間一髪、割り込んだ俺の腕に針を刺すような痛みが走った。

見れば直径3,4センチほどの蛇が噛み付いていた。


「きゃーーーっ」


それを見た恵里香が悲鳴を上げる。無理もない。

俺は素早く腰に吊り下げておいたサバイバルナイフで蛇の首を切断しつつ皆に指示を出した。


「優子。絶対に啓子ちゃんを離すなよ」

「は、はい」

「千歳。恵里香のフォローを頼む」

「わかったわ」

「万里はこっちに来てくれ」

「はい!」


優子は啓子ちゃんをしっかりと抱きしめている。

意外と啓子ちゃんが泣かないのは、状況をイマイチ理解できていないからかもしれない。

そう言う意味では蛇が見えないようにしてるのはナイスだ。

青褪めてしまっている恵里香には千歳が肩を抱いて慰めている。

こっちは至近距離で蛇が襲ってきたところを見てたからな。まぁ仕方ないだろう。

万里も俺の腕にまだくっついている蛇の頭を見て血の気が引いている。


「万里、出がけに渡した荷物の中に消毒液と包帯があるから出してくれ」

「は、はい」

「それとエル。この蛇に毒性はあるか?」

『……体の模様からシマヘビであると推測します。

毒性はありませんが破傷風などの恐れはあるので消毒することをお勧めします』

「分かった」


俺は手早く蛇を見えないところに放り投げ、傷口を消毒して包帯を巻いた。

その頃には恵里香も多少落ち着きを取り戻してくれたので、何はともあれまずは山を下りようということで引き続き万里に先頭に立ってもらって元の河原まで戻るのだった。

ただどうも恵里香は蛇に襲われたのが自分のせいだと思っているようでちらちらと俺の包帯を巻いた腕に視線を投げてきた。


「そんなに気にするな。命に別状は無いし、これくらいなら傷痕も残らないから」

「ですが、私が不用意に草藪に入ろうとしたから」

「普通なかなか都合よく蛇が潜んでることなんて無いんだから恵里香のせいじゃないさ」

「ですけど」


なおも言い募ろうとする恵里香の頭をポンポンと撫でて落ち着かせる。


「俺としてはこんなことで今日の思い出が嫌なものになる方が困りものだ。

だからそうだな。蛇が見れてラッキーとか、俺の格好いい姿が見れてラッキーくらいに思ってくれ」

「そう言われても」

「えぇ、やっぱり俺はそんな格好良くないか?」

「い、いえ。賢護さんは格好良かったです。私の事も守ってくれましたし」

「だろ?俺も恵里香に格好いいところを見せられて、あの蛇に感謝したいくらいだ。はっはっは」


無駄に元気な姿を見せたところでようやく恵里香も落ち込むのを止めてくれたみたいだ。良かった。


「よし、じゃあ皆。帰るぞ。車に乗ってくれ」

「「は~い」」


皆が車に乗り込んだのを確認して、忘れ物が無いかをチェックした後、俺は車を出発させた。

帰りの道中は行きとは打って変わって静かだ。

ちらりとルームミラーで後ろを見れば、みんなすやすやと寝息を立てていた。




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