36.BBQと呼び方
~~ 妹Side ~~
午前中で水遊びを堪能した私達は午後からハイキングです。
でもその前にお昼ご飯のBBQですね。
「いやぁ、酷い目に遭った」
そうボヤくお兄さんは結局服のまま水遊びをしていたので全身びしょ濡れです。
だから水着に着替えれば良かったのに。
「お兄さん、私達も水泳の授業とかで普通に男子の水着姿くらい見慣れてます。
なのでBBQの間にシャツくらい脱いで干した方が良いんじゃないですか?」
「いやまぁ、この陽気だから着たままでもすぐ乾くだろう」
「何か脱ぎたくない訳でもあるんですか?」
「まあな。手足はともかく俺の胴体には昔の事故の傷痕が盛大に残ってるからあまり見せたくは無いんだ」
「そう、ですか」
そっか。流石のお兄さんもこれに関しては本気で嫌そうです。
なら無理に脱がせる必要も無いですね。
「ほら、俺がBBQの準備はしておくからお前達はちゃちゃっと着替えてきなさい」
「はぁ~い」
仕方ないので私達は車に戻って着替えを、って、恵里香ちゃんはもう着替え終わったんだ。
そう言えば川から上がったらすぐに駐車場の方に行ったからてっきりお手洗いかと思ってたんだけど。
その恵里香ちゃんはと言えば、ささっとお兄さんの横に立った。
「お手伝いしますね」
「ん?ああ。ありがとう」
なるほど。気が利く恵里香ちゃんらしいですね。
お兄さんの手伝いをする為に急いでたみたいです。
では私達もさっさと着替えて手伝いに加わりましょうか。
そうして着替えを済ませてくれば、もうBBQのお肉や野菜の焼けるいい匂いが漂ってきます。
「お兄さん、何か手伝いますか?」
「なら皆の分のお皿とお箸と飲み物を配ってくれ」
「はーい」
ちなみにBBQといっても炭火ではなくて大きめの携帯ガスコンロです。
炭火の方が雰囲気は出るのですが、どうしても炭の後処理が大変ですからね。
使うお皿やコップも全部紙製で洗い物もほとんど出ないように考えてあります。
それにしても。
「~~♪」
お兄さんの隣にいる恵里香ちゃんがいつも以上に楽しそうですね。
そう思ってみてたら私の脇をゆっこが突いてきました。
「ふふっ。大事なお兄さんを取られちゃったね」
「いやそんなんじゃないから」
「でもでも、こうして見ると仲の良い兄妹か恋人同士って言われても違和感ないよ?」
確かにそうですね。
それに恵里香ちゃんがこんなに男性と仲良さそうにしてるのを初めて見ます。
お兄さんも心無しいつもより笑顔のような?
「恵里香、塩取って」
「はい」
「「!!」」
息の合ったやり取りに思わず顔を見合わせてしまいました。
(聞きました?奥さん。『恵里香』ですってよ)
(いつの間に下の名前で、しかも呼び捨てなのね。これはもしかするともしかするのかしら)
(いやでもお兄さんですよ?)
(高島さんも男だから、やっぱり大きくて柔らかいあれに弱いのよ)
(そういえば昨日から恵里香も積極的に高島さんに近づいてた気がするし)
(いやでも、ねぇ)
うーん、だんだん自信が無くなってきました。
恵里香ちゃんは同い年とは思えない程、女の子らしい身体つきですし、性格も大人しいというより大人びたところがあるので、知らない人が見れば中学生ではなく高校生だと思うでしょう。物腰といいフォーマルな格好をすれば大学生も行けるかな?
そう考えればお兄さんにとっても子供ではなく一人の女性として見てたとしてもおかしくありません。
「(じーー)」
「ん?どうした?」
「いえ」
「……まあいっか。それよりみんな焼けてきたぞ。
味付けはもうしてあるからタレとかは付けずにそのまま食べてくれ。
あ、熱いから火傷には気をつけてな」
「「はーい」」
なんか微妙に誤魔化された気もしますが、ひとまずはご飯ですね。
BBQ台の上には竹串に刺さったお肉や野菜が良い感じに焼けてました。
他にもウィンナーやスペアリブなどもあります。
お兄さんの後ろには刻まれたキャベツなどがボウルに入ってるので後から焼きそばでも作るのでしょう。
私達は銘々に近くの串を取って行きました。
「いただきま~す」
「はむっ。ん~美味しい~~」
「あらホント。これ味付けは何かしら。ただの塩コショウじゃこうはならないわよね?」
「ええ。使ったのはこれ。ハーブソルトです」
「ほえぇ」
ハーブソルトっていうのは名前の通り岩塩に粉末ハーブを混ぜて作ったもの。
ただの焼肉が手軽に香草焼きに早変わりする魔法のお塩です。
と、以前雑誌に載ってました。
まさかここでお兄さんがそんなお洒落なものを取り出してきたことにはびっくりですが。
「お兄ちゃん、そっちのお肉取って」
「はいよ啓子ちゃん。熱いから気をつけて」
「うん!」
啓子ちゃんの相手をするお兄さんはもう、完全にお兄ちゃんって感じですね。
むぅ。恵里香ちゃんといい、私が本当の妹なのに。
「って、そうだ。お兄さん。いつから恵里香ちゃんの事を下の名前で呼んでるの?」
「ん、ああ。さっきだな。恵里香から苗字より名前で呼んで欲しいって言われたんだよ」
「おぉ。じゃあじゃあ、私も優子って呼んでって言ったら呼んでくれるの?」
「ああ、いいぞ。優子の場合は啓子ちゃんも居るから苗字だと分かりにくいしな」
「おお~、なんか男の人から下の名前で呼ばれるのって新鮮!」
「上月さんはどうする?」
「私?そうね。面白そうだから乗ってみようかしら。
でもそれなら私達も高島さんの事は賢護さんって呼んでも良いかしら」
「別に構わないぞ」
あっさりと頷くお兄さん。
それを見た千歳が何故か私の方をチラッと見て二ッと笑った。
「それとも。お兄さんって呼んだ方が良いかしら?ね、賢護お兄様♪」
「ちょ、千歳~」
「あらら、実の妹から怒られちゃったから無しね。残念」
揶揄われてるだけだと分かってたけど思わず反応してしまいました。
それを見て皆も笑ってるし。
「よし、焼きそばを投入するぞ」
「おお~」
お兄さんも話の流れを変えるためにササっと次の料理に移った。
そうなってしまえばやっぱり私達はまだ食欲が優先される訳で、手際よく混ぜられていく野菜と麺に意識が向けられてしまった。
そうして一通り食べ終えた後はクーラーボックスからシャーベットまで出てきて大満足のままBBQは終わったのでした。
あ、片づけは準備をしてくれたお兄さんと恵里香ちゃんを除いた皆で行いました。
と言ってもBBQの鉄板をキッチンペーパーで拭いて車に乗せて、ごみを袋に纏めるだけですけど。




