35.川遊びをしよう
~~ 妹Side ~~
移動中の車の中はいつもの4人に啓子ちゃんを加えた5人でおしゃべりタイムです。
ちなみにお兄さんには悪いかなと思ったけど全員後部座席です。
前の座席にはお兄さん1人です。
誰か助手席に行きましょうか?って聞いたらやんわり断られました。
「運転はそれ程慣れてないからな。集中させてもらえた方が助かる。
それよりシートベルトはちゃんと締めててくれよ」
そう言ってたけどお兄さんの運転に危なっかしいところはありません。
むしろ慎重すぎる様な気もします。
加速も減速も緩やかですし法定速度もちゃんと守ってます。ってそれは当たり前かな。
山道に入ってからはみんなで流れる景色を見ながら大はしゃぎ。
普段町中だと公園とか街路樹くらいしかないですからね。
こんな視界いっぱいに広がる緑を見ると旅行に来てるんだって実感が湧いてきます。
さて、そうして到着した河原ですが、100%自然だけ、なんて事は無くて近くに小屋が建っていました。
どうやらここの管理をされているようですね。
「トイレなんかも設置してくれてるし、万が一の時の救難信号なんかも出せるんだ」
「あ、なるほど」
確かに何もない山の中だったらお手洗いはどうするんだって話ですよね。
……その場合は外でするの?うん、あって良かった管理小屋。
「万里、ちょっとお手洗いを借りて来てもらってもいいか?」
「?はぁ」
お兄さんからの謎の依頼。
よく分からないけど何か意味があるんでしょう。
気にはなりますが、多分行けば分かりますよね?
で、お手洗いの中はというと、意外と綺麗?
てっきり公園のトイレみたいに汚れが放置されてて凄い臭いを発してたりとかするのかなって心配してましたがそんなことは無さそうです。
『……』
ちなみにお兄さんからボックスティッシュを渡されましたが、ちゃんとトイレットペーパーは予備も含めてありました。
そのまま特に何事もなくお手洗いを済ませて出てきたのですが、結局何だったんでしょうか。
戻って来た私を見てお兄さんは他の皆にもお手洗いを促してました。
「それで、私が最初に行ったのは何か意味があったんですか?」
「ああ。万里が、というよりエルに確認してきて欲しかったんだ。
こういう所って時々隠しカメラなんかが設置されてる場合があるからな」
女子トイレを盗撮して何が良いのかはよく分かりませんが、エルちゃんにはそう言うのを感知する機能まで備わっているようです。
で、エルちゃんが何も言わないってことは問題なかったって事なんですね。
でもそういう事はきちんと説明して欲しいです。
私にだって心の準備というものが。え、気を張ってると出るものも出な……あ、そうかもしれないですね。
トイレタイムを終えた後は皆で川辺へとやって来ました。
「夏は海って思ってたけどこういうのも良いね」
「そうね。人が少ないのも良いわね。海だとどうしてもナンパとかが居るし」
「水がきれいです」
「あ、お姉ちゃん、あそこあそこ。お魚さんが居るよ!」
「ほんとだ。しまった、こんな事なら釣り竿とか持ってくれば良かったよ」
みんな銘々にはしゃいでます。
川の水は、ちょっと冷たいかな?でも今日はいい天気だし結構暑いから丁度いいかも。
よし、じゃあ様子見も済んだことですし、早速水遊びと行きましょうか。
私達は車に戻って水着に着替えます。この車窓の所にカーテンが付いてるので外からは簡単には見えないようになってます。
といっても隙間から覗くことは出来そうですけど。
「お兄さん、覗かないでくださいね」
「はいはい」
「えぇ~男ならそこは覗きに来ないと」
「下着くらいなら見ても良いですよ。もちろんただではないですけど」
「みんな、高島さんに限ってそんな心配はないと思いますよ」
「恵里香ちゃん。そんな簡単に男を信用しちゃだめだよ」
ワイワイ言いながら着替えを済ませた私達。
結局お兄さんは覗きどころか車に近寄ることすらしなかったそうです。
まぁ覗きをするとは最初から思ってませんでしたけど。って。
「お兄さんは着替えないんですか?」
「ん?ああ」
お兄さんの格好はと言えば、半袖シャツにハーフパンツ。靴は車を降りた後にサンダルに履き替えているので浅瀬に入るくらいは出来そうですけど。
「『お兄さんの水着姿も見たかったのに』だそうですよ」
「ちょ、ゆっこ?」
「『お兄さんのムキムキボディが見たかったのに』かしら」
「いや千歳もそんなんじゃないから。
ただお兄さんだけ楽しめないんじゃないかなって心配しただけで」
「そこはほら。私達の水着姿を堪能出来るんだから大丈夫でしょ」
私達の水着姿って言っても残念ながら1人を除いて発展途上としか言いようがない。
そんな私達を見てもお兄さんは微笑ましい視線しかくれない。
ロリコンじゃなかったと喜ぶべきか女の子として魅力が無かったと悲しむべきか悩ましいです。
「?」
その例外1名も特に気にした風ではありませんが。
まぁそれはともかく、早速川に入って遊びましょう。
「冷たくて気持ちいい~」
「足元は岩でゴロゴロしてるのね。サンダル履いてて良かったわ」
「そうですね。これ裸足だったら痛かったでしょうね」
「わ~い、私でも立っていられるよ~」
「奥に行ったら深いところもあるから気を付けるのよ」
「は~い」
川の水深は私達の腰くらいまでなので泳げるし溺れる心配も無いしで丁度良かった。
私達は一通り川の中を堪能した後はビーチボールで遊んだり、魚を追いかけてみたりしていた。
その間、お兄さんはといえば川に入ることもなく、私達の見える場所でせっせとBBQの台とかを設置していた。
「お兄さんも川に入りませんか?」
「いや、俺はいいさ」
「あ、もしかして泳げないとか?」
「そんなこともないぞ」
むぅ。折角一緒に遊びに来たのですから、お兄さんにも楽しんで欲しいですよね。
よし、こうなったら。
「みんな、お兄さんを川へ放り込もう~」
「「おお~」」
みんなでお兄さんを取り囲んで腕を引っ張り背中を押して川へと誘導する。
お兄さんも口では色々言ってるけど本気で抵抗するつもりは無いみたい。
そうじゃなかったら私達が引っ張っても動かなかっただろうし。
「まったく、しょうがないなぁ」
ポリポリとボヤキながら川に足を踏み入れるお兄さん。
で、お兄さんを交えて何をするかと言えば、やっぱりあれかな。
みんなに目配せすると心得たとばかりに頷きが返ってくる。
「よし、攻撃開始~」
「ふっふっふ、くらえ~」
「えいっ、えいっ」
みんなでお兄さんに向けて水を掛けていく。
「冷たっ。こら、5対1は卑怯だぞ」
「ふふ~ん。大人相手にはこれくらいで丁度いいハンデですよ」
「くっ。ならば反撃も容赦しないぞ」
「「きゃ~~」」
私達が「パシャパシャ」だとすればお兄さんは「ドバシャッ」と凄い勢いで反撃してきた。
あ、こんな時でも啓子ちゃんにはちゃんと手加減してますね。
って、わぷっ。よそ見してたら盛大に顔に水を受けてしまいました。
くっ。こうなったら最終兵器です。
「恵里香ちゃん。直接攻撃を許可します。後ろから抱き着いてお兄さんの動きを封じちゃって!」
「わかりました。えいっ」
「あ、ずるい。私も~」
普段は大人しい恵里香ちゃんもテンションが上がってるみたいでノリノリでお兄さんに飛びついてます。
それを見た啓子ちゃんも一緒になってお兄さんの足にくっつきました。
「あ、こら。それは卑怯だって」
「問答無用。えいや~~」
「ぎゃ~~」
2人にしがみつかれて動けなくなった所に残った私達3人が集中砲火。
お兄さんもノリ良く悲鳴を上げると川の中に倒れ込みました。
って、恵里香ちゃんと啓子ちゃんも一緒になって沈んでしまったんですけど。
一瞬心配になったけど、すぐに3人とも水の中から起き上がってきました。
「ふぅ、酷い目に遭った」
「あはは~。今の面白かった~。お兄ちゃん、もう一回ドボンってやって~」
「よしよし、仕方ないな。それっ」
「ふふっ」
啓子ちゃんにおねだりされて今度は抱きかかえるようにしながら水中にダイブするお兄さん。
というか、おじさんからお兄ちゃんに昇格出来たのがそんなに嬉しかったんでしょうか。




