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29.差出人不明のお手紙

~~ 妹Side ~~


お盆。お墓参り。かぁ。

お兄さんの話によると私のお父さんとお母さんのお墓は街外れの霊園にあるそうです。

むしろその話を聞くまでお墓の存在に全く気付いていなかった自分が悔やまれます。

お兄さんは「心に余裕が無かったんだから仕方ない」って言ってくれましたけど。


「はぁ」


朝の教室でため息をついてしまいました。

それを見たゆっこ達が私の所に集まってきました。


「おはよう。どしたの、朝からため息なんて」

「もしかして親戚の人に叱られたりした?」

「ううん、そんなことは無いから大丈夫」


千歳の口から出てきた叱るって言葉にちょっと安心してしまいました。

うちに来た時の千歳だったら、叱るじゃなくて何か酷い事でもされたんじゃないかって言いそうでしたから。

今はちゃんと誤解も解けたし、千歳もドラマの影響を受けすぎてたって反省してくれました。


「もうすぐ夏休みというか、お盆でしょ?」

「ああ、そうね」

「そうですよね。今年は・・・」


千歳と恵里香ちゃんはその一言だけで理解してくれたようです。

でもゆっこは別の所に気が付いたみたいでした。


「あ、そっか。それで男子どもが浮ついてるんだね」

「え?」


言われてみれば普段よりも騒がしかったりソワソワしてる人が多い気がしますが。


「何かあったっけ?」

「あれでしょ。夏休み前に彼女作って、休み中にデートしまくるぞ的な」


そっか、そういう考えもあるのか。

それでこんなものが私の下駄箱に入ってたのね。

実はため息の原因はお墓参りの事だけじゃなくて、今朝の下駄箱に入ってた手紙っぽいものが届いてたからでもあります。


「ん?万里っち。それは何?手紙?」

「そ。下駄箱に入ってたの」

「それってつまり」

「うん。果たし状、かな」

「「いやいやいや」」


冗談っぽく言ってみたら全員から首を振られてしまった。

うーん、でもねぇ。


「読んでみる?」

「良いの?」

「うん」


ゆっこが渡された手紙を開いて読み上げた。


「えっとなになに、『あなたに大事なお話があります。今日の放課後、体育倉庫裏に来てください』だって。

やっぱりラブレターなんじゃない?」

「うーん、でも色々おかしいのよね、それ。千歳なら分かるんじゃない?」

「どれどれ」


ゆっこから受け取った手紙を裏返したりしながら調べる千歳。


「これって元は封筒に入ってたのかしら?」

「まぁ一応」


その封筒も取り出して渡してみると、千歳の眉間に皺が寄ったのが見えた。


「さすがに果たし状じゃないと信じたいけど、いたずらの類かしら。

少なくとも行く必要は無いわね」

「だよね」


千歳も私の意見に概ね賛同してくれた。

そしてその手紙は恵里香ちゃんの手に渡った。


「……あら。この手紙、差出人が書いてませんね。

それにこれでは本当に万里さん宛てかどうかも分からないです」


そう。さっきゆっこが読んでくれたので手紙の内容は全部。

これじゃあ誰が出したかもわからないし、文面にも私の名前は書いてない。

もしかしたら他の人の下駄箱と間違えて入れた可能性だってある。

しかもこの短い文章なのに手書きではなくプリンターで出力したものだった。


「という訳で、無視ね」

「えぇ。でも本当はラブレターだったらどうするの?」

「どうもしないで良いんじゃないかな。

お兄さんからも『もし仮に万が一、手渡し以外の方法で手紙が来た場合は絶対に何があっても手紙の内容に従わない事』って言われてるし」

「その言い方が心配性の親戚らしいわね」


お兄さんにしては珍しく『極力』ではなく『絶対』と言っている辺り、お兄さんの本気具合が分かります。

ちなみにこれに関してはちゃんと理由も教えてくれました。


『たくさん理由はあるんだけどな』


と前置きした後に話してくれた内容は、


『まず第一に、電話でもなくメールでもなく手紙ってことは差出人は万里の連絡先を知らない可能性が高い。そんな相手から告白されても困るだけだろう。

次に例えばその手紙が下駄箱に入ってたとすると、その差出人は万里の事をストーキングしていた可能性がある。まあ偶然たまたま下駄箱を使ってるところを見てた可能性はあるけどな。

そしてその手紙に差出人の名前が書いてあったとする。あ、無いのは論外な。

そこで問題だ。その手紙は本当にその名前の人物が出したものだろうか。

悪意ある人物が出した場合、まず自分の名前は書かないだろう。書くとしたらサッカー部のエースとか有名だけど直接接点は無さそうな人物の名前にする可能性が高い。それか架空の名前だな。

いずれにしても手紙から確かめる術はない。


あとはまぁ手紙の内容だけど、たいていは「今日の放課後」とか書いてあるだろ?

こっちの都合も考えずに、しかも放課後なんていう曖昧な時間指定だ。

もう待ち合わせの方法を幼稚園から勉強し直せって言いたくなる。

おまけで待ち合わせ場所は人気のない、何かあっても誰も助けに来ないような場所だ。

真面な思考の持ち主なら、せめて校門前で待ち合わせして、ふたりで話せる場所に行くべきだろう。


以上の事から考えて、その手紙の差出人は万里を人気のない場所に誘い出して襲おうと考えてる犯罪者か、自分勝手で相手の事をまるで考えてないストーカー野郎かのどちらかだ。

あ、あと一度無視して二度目があった場合は要注意だからすぐに連絡してくれ』


まぁ、言ってることはそんなに間違ってないと思います。

でも50年前ならいざ知らず、今時ラブレターなんて都市伝説級でしょう。

それに中学生でそんな犯罪まがいの事が起きることなんて早々無いでしょう。

そういって笑ったらお兄さんが実際に中学高校で発生した犯罪の統計情報を見せてくれました。

困ったことにそこに載っていた数値は笑えない程酷いものでした。

ちなみに大学は?と聞くと、学校の敷地内での犯罪率は減るそうです。代わりに学外で事件が起きるのだとか。

なるほど、大学生にもなると行動の自由度が増す分、学校に拘る必要が無くなるんですね。





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