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25.帰ってきたらお説教です!

~~ 千歳Side ~~


携帯電話を受け取った私は躊躇うことなく通話ボタンを押した。

この時間、普通の会社員なら仕事中のはず。

それでも電話してこいって言うのは、それほど警察には連絡されたくないのかもしれない。


プップップッ。トゥル、ガチャッ。

『はい、もしもし』


電話を掛ければ1コールで取られ、軽快な男性の声が聞こえてきた。

なるほど。お兄さんという呼び名通り、若い男性のようだ。


「あの、私は万里さんの友達の上月 千歳と言います」

『万里の保護者をしている高島 賢護です。

あ、1分程待って貰えますか?場所を移動しますので』

「え、あ、はい」


電話の向こうから『ちょっと出てくる』『はい、いってらっしゃい』という声が聞こえてくる。

やはりこの時間は仕事中だったということね。


『お待たせしました』

「いえ」

『今日は確か我が家に遊びに来ているのでしたよね?

それで俺の所に電話を掛けてくるということは、家の中を見て気になった事があったという事ですね』

「ええそうです」


余裕そうな明るい声だ。

どうせ中学生ごとき、どうとでもあしらえると思っているのだろう。


「単刀直入にお伺いしますが、婦女暴行と強制わいせつ罪の疑いで警察に通報しても良いですか?」

『それは良くないな。なにせどちらも身に覚えがないからね』

「あくまで白を切りますか。話になりませんね」

『そもそもまだ、碌に話をしてないと思うんだけど』

「では改めて確認しますが、あなたの家には寝室が1つしかなく、ベッドも1つしかないようですがあっていますか?」

『ああ、そうだね』

「押し入れなども無いので予備の布団などもないようですが、ではあなたは普段どこでどうやって寝ているのですか?」

『あぁそれは……』

「答えは万里と同じベッドで寝ている。それ以外には考えられません!」

「!」


私の言葉を聞いて万里が驚いてる。

そうよね。せっかく隠していたのにあっさり見破られてしまったのだから。

大方この人に口止めされていたんでしょう。

それで、この親戚の人はどう言い訳するのかしらね。


『ふぅ。まともな指摘で良かったよ』

「良かった??」

『ああ。ここでモンスターペアレンツ系の支離滅裂な理論を自慢げに言われたらどうしようかと、それだけは気掛かりだったからね。

ま、万里の大切な友達だという時点でそこまで心配はしていなかったけど』

「はぁ」

『さて。どこで寝ているのかという事実は最後に伝えるけど、その前にだ。

もし仮に、俺と万里が同じベッドで寝ていたら、それだけで犯罪になるのかい?』

「それは……いえ。でも声からして高島さんはまだ若い男性ですよね?

年ごろの男女が同じベッドで毎日寝ていて間違いが起きない方が不自然じゃないですか?

それとも高島さんは不能か同性愛者でしたか?」

『幸いどちらでもないさ。

それと俺はこれでも君たちより10歳近く年上だ。そんな俺が君たち中学生に手を出すとロリコンだと非難されるだろうね。

あ、いちおう言っておくけど俺はロリコンじゃないからな。

後は、男は同衾したら即不純なことするっていうのは男性に対する偏見だ。

特に俺と万里は家族だからね。君だってキャンプとかで両親と同じテントで寝たとしても父親から何かをされるとは微塵も思わないだろうし、事実何もされないだろう。

まぁ確かに世の中、性欲を持て余してる男性は多いから、見ず知らずの男性で試してみるのはお勧めしないがね』

「そんなの試す気なんてありませんからご心配なく」


言ってる事は一応間違ってないと思う。

けれど正論で言いくるめようとしているだけかもしれないから、気は抜けないわ。


『さて、続いて物的証拠や証人は居るのかい?

俺が万里と同衾していた、もしくは、万里に対して暴行や猥褻な行為をしていたという。

ベッドが1つしかないからという状況だけでは立証は厳しいぞ。

それとベッドに俺の髪の毛が落ちていたとしても、万里が来るまでは俺が使っていたから、髪の毛くらいは落ちてるだろう。

あ、もしここで万里が毎晩のように襲われてましたって証言したら白旗を揚げる用意はあるよ』

「そんなのあなたが口止めしていたら万里は言えないでしょう」

『そうでもないさ。事実が無いから言えないだけとも考えられる。

それでもこういうのは女性の証言が優先されるからね。

今なら俺から妨害することも出来ないし、もし万里が俺の元を離れて国の保護を受けたいのなら今すぐ警察に通報してそう言うように伝えてもらえるかい?

あ、それと保護された後は俺には監視が付いて万里には接触できなくなるはずだから安心してくれ』

「だそうだけど、万里。どうする?」


電話の声はみんなに聞こえているので、そのまま万里に聞いてみた。



~~ 妹Side ~~


皆を我が家に招待して私の部屋まで案内したところで思ってもみない事態になってしまいました。

あ、いや。ある意味想定通り?

これはお兄さんが事前に話していた「起こるかもしれない」シリーズの1つでしたから。

ちなみにこのシリーズ、他にも「きっと起こらない」「絶対に起こらないとは思うけど」「これが起きたらピンチ」など幾つかあります。

その中で「起こるかもしれない」シリーズは、それなりに高い確率で起きるので、起きたら「あ、やっぱり起きちゃったか」と落ち着いて対処するものです。

ただ、何が起きるかは教えてもらえるんですが、どうしてそうなるのかは教えてもらえないので困ります。自分で考えてみなさいって事なんでしょう。

今回も友達が犯罪だとか警察だとか言い出すなんて寝耳に水でした。

だってそんな犯罪なんてこの家では起きてはいないのですから。

今は千歳とお兄さんの会話を聞いて、そういうことかと納得は出来てきたんですけど。

千歳にどうする?って聞かれた私は、もちろん首を横に振りました。

お兄さんが私に何かをしたなんてことは無いし、国の保護を受ける気もない。

でも。そうすると結局お兄さんはどこで寝てるんでしょうか。

私、お兄さんが寝てる姿ってみた事ないんですけど。


『さて。それで、俺がどこで寝てるか、だけど。

居間の隅に折り畳み机があっただろう?

あそこが俺の自宅での作業スペースなんだけど、普段は作業の合間にそこで寝てるんだ』

「「はぁっ!?」」


思わずみんなの驚きの声がハモってしまいました。

慌てて居間に戻る私達。

改めてお兄さんの作業スペースを確認してみましたが、どう見繕っても寝れるようには出来ていません。

お兄さんの言ってることが本当ならもう1か月近くまともに寝てないことになります。

どうしてそんなことをしたのかと聞かれたら多分、私が夜うなされた時にすぐに駆け付けられるようにする為なんでしょう。

その事をあの人がすんなり白状するとは思えませんが。

でもそんなこと続けてたら絶対に体を壊します。

私の為に無理をしてくれてるんだと思うと喜びよりもむしろ怒りが湧いてきました。

電話の向こうから『会社に泊まり込むこともあるから机で寝るのは慣れてるんだ』と聞こえて更にカチンと来てしまいました。


「千歳、電話代わって」

「う、うん」


自分でもびっくりするくらい低い声が出てしまいました。


「もしもしお兄さん?」

『お、その声は万里か』

「はい。お兄さん、帰ってきたらお説教です」

『え"っ』

「あと今夜から机で寝るのは禁止です。私のベッドで一緒に寝てください」

『いや、それはちょっと』

「ダメなんですか?家族なら問題ないと言ったのはお兄さんですよ」

『いや確かに言ったけどな。でもやっぱ良くはないだろう。せめて代替案を希望する』

「お兄さんがちゃんと横になって寝るのは譲れません。それとも私が床で寝ますか?」

『それはダメに決まってるだろう。……仕方ない。帰りがけに自分用の布団を買ってくるよ。

敷ける場所がない気もするけど』

「そんなの私の部屋……ううん、寝室に敷けば良いんですよ。こっちはスペースに余裕あるんですから。

どうせお兄さんの事だからこっちの部屋は私の為に自分は極力入らないようにしようとか考えたんでしょうけど、気を遣い過ぎです!」

『そ、そうか』


言ってて自分の馬鹿さ加減に気が付いてしまいました。

そもそも私はいつからこっちの部屋を自分の部屋だ、なんて勘違いしてたんでしょう。

元々ここはお兄さんの部屋で私の方がそこに居させてもらってるだけなんですから。

これじゃあ恵里香ちゃんが驚いたりしてたのは当たり前ですよね。

ふぅ。ちょっと落ち着いてきました。

あとの問題はこっちですね。


「千歳。まだ言いたい事ある?」

「い、いや。大丈夫」

「そ。じゃあお兄さん。お仕事頑張ってください」


ぷつっと電話を切って一息つく。

あ、千歳が凄い気まずそうに佇んでる。

別にそこまで気にすることないのに。


「ごめんなさい。万里。悪気があった訳じゃないの」

「うん、分かってる。私の事、心配してくれたんだよね。

ちなみにこうなることは全部お兄さんの予想通りだから」

「え、そうなの?」

「うん。無事に話が済んだ後に千歳が気まずそうにしてるのも含めてね。

『友達が俺の事を酷く言うかもしれないけど、万里の事を想って言ってくれてるんだから笑って流してあげなさい』って」

「はぁぁ。全部あの人の手のひらの上だったって事?」

「そういうことになる、かな。

それにしても今日の千歳は珍しく暴走気味だったけど、何かあった?」

「あ~、あったというか。多分先日観たドラマの影響ね」


聞けばどうも私の今の境遇に似た感じのドラマがあって、それで色々妄想が膨らんでしまったらしい。

やっぱりドラマはドラマ。現実は現実ですね。



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