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24/71

24.ドラマの見過ぎです

~~ 千歳Side ~~


私達の大親友の万里。

つい先日ご両親を失い、今は親戚の家に引き取られているという話だったけど、彼女から親戚の良い話を聞くことはほとんど無かった。

普通ならもっと話題に挙がっても良い筈なのよね。フレッシュな話題だし。

でも出てくるのは親戚の人が不愛想だとかご飯の味が微妙とかそれくらい。

そこから考えてあまり良い暮らしは出来ていないというのは想像に難くない。


断片的に漏れてくる話を纏めると、彼女を引き取った親戚というのは一人で、そして男性だということ。

この時点で私としてはその親戚に疑念を抱かずにはいられない。

普通、両親を失った子供を引き取るのはその祖父母か、既婚の家庭だろう。

それなのに敢えてその男性が彼女を引き取ったのはなぜか。

他に引き取り手が居なかった?そうかもしれない。

でもそれ以外の理由があったら?

私達は14歳の女の子だ。

先日の社会の授業では、発展途上国と呼ばれる幾つかの国では私達くらいの年齢で結婚するのは今でも良くある話だし、親から売春婦として奴隷商に売られるなんて話が事実としてあるらしい。日本に住む私には想像もできない世界だけど。

先日観たドラマでも身寄りのない女の子を引き取った男性(40代のおっさん)がその子を奴隷のように扱っていた。

その子役が万里にちょっと似てるものだから、男性から酷い扱いをされる姿を観る度に万里も同じような目に遭っていないかと心配になってしまった。

特にその男性は他の人からは気付かれないような目立たない場所を集中して痛めつけていくのだから質が悪い。

女の子の方も外では健気に何でもないフリをしていたが、流石に限界が来て倒れてしまった。

次回予告では遂にその男性の罪が明るみになり断罪されるそうだ。早く来週になってほしい。

と、それはともかく。

他に考えられることとしては遺産かしら。

ニュースによると事故の原因は地下に埋まっていたガス管の破裂ではないかという話だった。なら国から少なからず慰謝料が出ている可能性があるし、ご両親の保険から支払われたものもあるだろう。

万里を引き取ることで、それらを自分のものにしてしまったのではないか。

TZMの契約料だってその遺産の一部から支払われている可能性もありそうね。

自分の懐は痛まず、万里に恩を着せて周囲にちゃんと面倒を見てますというアピールにもなるだろう。


親戚に引き取られた後の万里は私達の前では気丈に振る舞っているけど、一人で居る時は時々ため息をついている姿も見られるので、私達に心配を掛けないように空元気なんだと思う。

それでも少しずつ愚痴や不平不満が増えてきたから、やっぱり親戚の家の居心地が悪いんだろうと思っていた。

だからお泊り会を通じて万里に元気になってもらうと同時に、その辺りの事情も聞ければ良いなと考えていたのだけど、結局聞けたのはいつもの簡単な愚痴だけだった。

これは普段からその親戚の人に絶対に何も言うなって念を押されているのかもしれない。

ただ気になるのは、お泊り会2日目、3日目の朝は明らかに眠そうというか疲れた感じの万里。

目の下にうっすら隈も出来ていたのを私達は見逃してはいない。

聞けば夢見が悪くてよく眠れなかったと言うけど本当だろうか。

4日目の恵里香の家に泊った朝は持ち直したみたいだけど、何かあったのか考え込んでいるようだった。


それなのに、だ。

親戚の家に戻った後に再会した万里はすっかり元気を取り戻していた。

いや、取り戻したどころか前よりも憑き物が落ちたように明るくなった。

万里はお泊り会のお陰だって言ってくれたけど、私の胸中は暗い感情で満たされていた。

私達とその親戚では、そこまで違うものがあるというのか。

もしかしたらその親戚は私達では想像も出来ないような何かを万里にしたのかもしれない。

それかあのドラマのように万里に幸せなフリをさせているのかもしれない。


(これは調べてみる必要があるわね)


出来ればその親戚の人に会って話を聞いてみたいが、突然会わせてと言ったら警戒されるだろう。

ならまずは万里の暮らしている家を拝見するのが手っ取り早いか。

幸い先日のお泊り会のお返しに今度は万里の家を見せて、というのは不自然な事では無いと思う。

提案すると万里はだいぶ渋っていたけれど、それでも「確認してみる」と答えてくれて、そして翌日には親戚の了承を取り付けてくれた。

さてさて、そんなに万里に回答を渋らせるような何かが隠されているというのかしら。

それが万里の不利益になるような何かであればその親戚に改善するように要求しよう。

もしそれが犯罪的な何かであれば警察に通報してでも万里を守らなくては。

きっと万里自身では言うに言えないだろうし。

そうして遂に万里の家に行く日が来た。


「ここだよ」


そう言って万里が案内してくれたのはとあるマンションの一室。

ここ?でもここって……あのドラマの男の部屋と同じ感じだわ。

まさかとは思っていたけど本当に?

私の疑問を余所に、万里は玄関を開けて私達を招き入れた。

玄関を通った私達が最初に感じたのは意外にも落ち着いた感じの香り。


「ねぇ万里。これは何の匂い?」

「ん?えっとね。今日は、ティーツリーとローズウッドだって」


キッチンの脇に置いてあったアロマポットと思われるものに付いている付箋を確認する万里。

へ、へぇ。わざわざアロマを焚いているって随分お洒落なのかしら。

それとも他の何かの臭いを隠しているのか。まだ油断は出来ないわね。


「あ、万里さん。お手洗いをお借りしても良いですか?」

「うん。お手洗いはそこね」

「はい」


部屋に入って早々、恵里香がお手洗いを借りたいと申し出た。

もしかして緊張して?うーん、そんな雰囲気は無かったけど。

彼女も気を遣う子だから分からないわね。

さて、恵里香がお手洗いを借りている間に私達はキッチンを抜けて居間へ。

そこには食事用の4人掛けのテーブルと、隅に部屋の雰囲気とは不釣り合いな折り畳みの机と収納ケースが積んであった。

それ以外には窓と奥の部屋に通じる扉があるだけ。

やっぱりここって典型的な一人暮らし用のマンションよね。


「こっちが私の部屋よ」

「え、ええ」


若干その隅のものが気になったけど、戻って来た恵里香と一緒に私達は案内されるままに奥の部屋に入って、目を見開いた。

その部屋にはベッドに机、クローゼットと本棚と、それだけを見たら確かに普通の部屋だ。

配色やデザインが武骨で可愛さとは無縁であることを除けば特に問題はない。けど。


「ねぇ万里。他に部屋ってあるのかしら?」

「え、ううん。ないよ」

「そうよね。でもそれだと変じゃない?」

「え?」


万里は何のことか分かってないみたい。

優子は……だめね。特に疑問も持たずに本棚を物色してるわ。

恵里香は恵里香でいつも通りにこにこしている。流石私達の癒し担当だわ。

恵里香の場合は多分全部分かったうえで、それでも笑顔で居てくれてるんだと思う。


「恵里香。これは警察に通報した方が良いのかしら?」

「え?えっと……まずは事実確認が先だと思いますよ」


それもそうね。

事と次第によっては万里の保護者が警察に捕まって万里が取り残される危険だってあるのだから。

ただ、それでも万里がつらい目に遭ってるなら見過ごせないけど。


「えっと、万里。これから聞くことに正直に答えてもらえるかしら?」

「はぁ、まぁうん」


なぜか万里のテンションが急降下してるのが気になるけど、まぁいいわ。


「万里は普段、どこで寝てるの?」

「そこのベッドだけど」

「そうよね。じゃあ、親戚の人はどこで寝てるの?」

「え?それは、えっと……」


そこで言い淀むって事はやっぱり黒なのね。


「やっぱり警察かしら」

「えっと、はい」

「え?」


私のつぶやきに万里が携帯電話を差し出してきた。

画面には見知らぬ番号と一緒に宛先に『お兄さん』の文字。

多分例の親戚の人の事よね?え、お兄さん?お義父さんじゃなく?

それよりも、このタイミングで出したって事は掛けろって事よね。


「えっと、万里?」

「『もし友達が犯罪だ~とか警察だ~とか言い出したら電話しておいで』って。

言われた時はそんなことある訳ないって思ってたんだけど、ね」

「そ、そう」


つまりこうなることは想定の上ってことなのね。

良いわ。警察の前に話くらい聞いてあげる。

さてどんな言い訳で自分の行為を正当化するのか聞かせてもらいましょうか。



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