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2.平穏な日常の終わり

お読みいただきありがとうございます。

第1部は1日おきに投稿していきますので、これからもよろしくお願いします。

そして今度は義兄側の視点です。

~兄Side~


その日、俺は担当していたプロジェクトが無事に軌道に乗る目途が立ったので、一緒に頑張って来た仲間たちと一緒に居酒屋で宴会を開いていた。


「いやあ主任。新型開発お疲れ様でした!

去年のバージョン2.7も契約者数は右肩上がり。そして今回の3.0も大成功間違いなしですよ。

それもこれも全部主任のお陰です」

「馬鹿野郎。俺だけの力な訳ないだろ。

皆が居てくれたからこそ良いものが出来たんだ。

特に俺は女性の機微には疎いからな。

柊さんや椿原さんの意見が無かったら今頃クレームとリコールの嵐だったよ」


俺達が手掛けているプロジェクトは簡単に言えば女性や子供向けの防犯グッズの開発だ。

いつの時代も中学生以上の女性を狙った性犯罪は無くならないし、犠牲者が精神的に病んでしまったり自殺に追い込まれることも少なくない。

そう言った不幸から守る手助けをするのが俺達の仕事だ。

技術面なら俺達男性陣でもある程度は出来るが、肌身離さず装着し続けなければいけない性質上、デザインや使用感など実際に使用する女性目線の意見がとても参考になった。

ちなみに椿原さんは35歳既婚者で小学生の子供もいるので母親目線でも意見を言ってもらえて非常に助かっている。


「田中君は分かってないわね。

主任の場合は売上アップなんかよりも、お礼の手紙とかメールを貰う方が何千倍も嬉しいの。

だから褒めるなら先月届いたお礼状の数で言わないと」

「そうですよ。主任ってば届いた手紙を読んでは涙ぐんでますし、時々感極まってトイレに篭っちゃってましたもんね」

「げっ。バレてたのか」

「主任って顔に出してないつもりなんでしょうけど、結構バレバレですよ」

「え、主任そうだったんですか!?」


マジか。自分では鉄面皮で通してるつもりだったんだが。

田中が驚いているところを見ると俺が鈍いというよりも女性の目が侮れないんだと思えるが、まぁいいか。

これくらいの恥は笑い飛ばせば終わりだからな。

それで大勢の人が肉体的、そして精神的な被害を受けずに済んだなら嬉しい限りだ。

そう思ってたら柊さんが指折り何かを数えだした。


「えっと先月主任がトイレに篭ったのが12回で、一番心にヒットしたのは北海道のC子さんからのお便りですよね。内容は確か……」

「はいストップ。それ以上はプライバシーの侵害ですよ」

「ふふ、大丈夫です。内容は公表しませんよ。ただ主任ってば3行目くらいで早くもトイレに向かってましたよね」

「くっ。そこまで分かるものですか」


はぁ。このメンツで飲みに行くと基本的に俺が弄られる。

壁の無い職場をと思って意図的にそうしたところもあるが、年齢的にも2年目の田中の1つ上で他のメンバーよりも年下なので弟みたいでイジリやすいんだろう。

ま、仲が悪いより断然良いから今のままで問題はない。


ダンダラダンダン♪ ドッ ダンダラダンダン♪


突然鳴りだす携帯。と、この着信音はあの人か。


「すまん。ちょっと席を外す」

「「は、はい!」」


俺がマジメモードに切り替わったのを見て、さっきまで俺を揶揄っていたメンバーが顔を引き締めて返事をした。

この切り替えの早さが彼らの強み。と、それよりも電話だ。あの人から掛かってくるなんて珍しい。


「もしもし」

『ハロハロ~。私だよ~。久しぶり。元気にしてたかい?』

「お久しぶりです。伯父さん。何かありましたか?」

『おっと、いきなり本題に入ろうとするなんてつれないなぁ。

こっちは今地中海に居るのさ。やっぱり夏はここだよね~』

「自慢をするために電話してきたんですか。

俺は日本のジメジメした夏も嫌いじゃないですよ」

『はっはっはぁ。井の中の蛙大海を知らずって奴だね。君もこっちに来てみれば分かるよ』


電話の相手は伯父、と言っても父の兄ではなくもっと遠い親戚だ。

祖父が他界した後、何度か世話になっているし今の会社を紹介してくれたのも彼だ。

だから色々と恩義はあるんだけど、破天荒な人でもあるのでまともに付き合うと疲れる。


『まぁ自慢はこれくらいにしてだ。1つ、いや正確には2つかな。頼まれごとを引き受けて欲しいのさ』

「なんでしょうか」

『先日私の親戚が事故で無くなってね。明日が告別式だそうだから私の代わりに出て来てくれ』

「は?」


伯父の親戚なら一応俺の親戚でもあるのだろう。

ただ生まれてこの方あった事も無い人の告別式に参加して何の意味があるのだろうか。

伯父も普段から『死んだ奴にしてやれることなんかない。だから生きてるうちにするのさ』と言っている人だ。そんな人が俺を代理に立ててまで告別式に参加するとは思えない。


『まぁこういっちゃなんだが式自体はどうでもいいのさ。

問題はその亡くなった親戚の子供が1人取り残されてるんだよ。

このままだとその子がどうなるか君なら分かるだろ?』

「はあ。まぁあのクズみたいな親戚連中ですから」


親戚連中には祖父が他界した時を含めて2回だけあった事があった。

どいつもこいつも金と権力とその他欲望に溺れたクズだった。

祖父が他界して8年経った今でもそれは変わらないだろう。

その子も引き取られないか、引き取られても下僕のような扱いを受けるかのどちらかなのは想像に難くない。


『という訳で君。ちょっと行ってその子を引き取ってやってくれ。

諸々の手続きはこっちでやっておくから』

「いや、犬猫の子供じゃないんですよ」

『大丈夫大丈夫。君なら出来るよ。じゃあ頼んだからね。詳細はメールで送るから』

ブツッ。ツーッツーッツーッ


切りやがった。

そしてすぐ後にメールが送られてくる。

坂本家?たしか先日ガス爆発か何かが起きたっていうあれか。

って、文末に『今なら仕事もひと段落して余裕があるだろ?』とか書いてある。

何で知ってるんだよ。まったく。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これは続きが気になりますね! 楽しみにしてます!
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