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18.お泊り会2日目は両親不在

お泊り会2日目は千歳の家です。


「お邪魔しま~す」


千歳の家は2階建ての一軒家で、庭まで付いていて以前の私の家よりも何もかもが豪勢な感じです。

ただ家の中はしんと静まり返っていてあまり生活感がないような気がします。


「どうぞ。といっても誰も居ないけどね」

「そっか。千歳のところは両親共働きなんだっけ」

「そうよ。今日もふたりとも帰りは22時過ぎるって。

だから夕飯は何か出前でも取りましょう」


そう言いながら2階の千歳の部屋に通されました。

千歳の部屋は女の子らしさって言ったら首を傾げるんだけど、本棚やクローゼットがこの部屋の為にデザインされたんじゃないかって言いたくなる程ピッタリ嵌ってます。

色合いもすごく落ち着いた感じで纏まっているし小物ひとつとっても考えて配置してるんだと思う。


「あんまり面白みのない部屋でしょう」

「そう?千歳らしいって感じがするけど。

ゆっこの部屋はおもちゃ箱みたいな感じだったけど、千歳の部屋は知的っていうかスタイリッシュっていうのかな」

「ふふっ。ありがと。あ、お茶を入れてくるからちょっと待ってて」

「あ、ケーキ持ってきたから一緒に食べよう」

「あらそんな気を遣わなくてもよかったのに」


気を遣ったというか、家の冷蔵庫から持ってきただけなんですけどね。

ケーキボックスを開けてみれば中にはショートケーキが4つ。

イチゴのショートにチョコレート、モンブラン、あと1つは抹茶かな。


「どれがいい?」

「そうねぇ、私はモンブランかな」

「じゃあ私はチョコ」

「オッケー。お茶と一緒にお皿に盛ってくるわ」

「うん。あ、棚にある本見てていい?」

「どうぞ~」


千歳に許可をもらったので本棚を眺めていく。

本のレパートリーは漫画や小説に始まり参考書なども多くて知的な千歳らしい。

その中から小説を取り出してみると、なんとファンタジー小説だった。

てっきりミステリー系かもしくは恋愛ものかなって思っていたから意外でした。


「おまたせ~」

「あ、おかえりなさい。千歳もファンタジー小説とか読むんだね」

「あぁそれ?ファンタジーというか、その人の作品が好きなのよ。

特別大きな山場は少ないんだけど、その分安心して読んでいられるの。

それでいてやっていることは普通じゃあり得ない事ばかりだから面白いし。

今持っているそれは、ひょんなことから水中で活動できるようになった主人公が海底で農業を始めてしまうお話ね」

「海底で農業って。漁業じゃないんだ。確かにそれは聞かないね」

「こっちのはある日突然女神様から死ぬ時間と理由を宣告されるんだけど、それを主人公がはちゃめちゃやって回避していくの」


そう言いながら何冊かの小説を取り出して紹介していく。

ただ作者の名前は聞いたことが無いから多分それほど有名でもないんだろう。


「良かったら貸すわよ」

「うん。じゃあこの海底農業のと、女神様のを借りていくね」

「どうぞ。読んだら感想を聞かせてね」

「うん」


応えながら小説のページをパラパラとめくっていく。

ふぅん。確かに難しい言い回しとかも無いし、文も短くて読みやすいかも。

そんな私を千歳はケーキにフォークを刺しながら眺めていた。


「それでどう?思い付きで始めたお泊り会だけど」


そう千歳が聞いてきたのは出前で頼んだ夕飯を食べている時だった。


「うん。ゆっこも千歳も学校で話してるだけじゃ分からなかった趣味とか知れて良かったよ。

あと家によって全然違うんだなって思った」

「そうね。うちはこんなだし」


こんなって言うのは広い家の中に私達しか居なくて両親はほとんど帰ってこない事を指しているんだろう。

確かにゆっこの家とは大違いで私達とテレビの音しかしないのは、私だったら凄く寂しくなって色々考え込んでしまうかもしれない。


「千歳は寂しかったりしない?」

「もう慣れちゃったわ。小学校低学年の頃はなにかと我儘言ってたこともあるけどね。

万里の方はどうなの?親戚の人たちとは上手くやれてるの?」

「どうなんだろう。喧嘩とかはしてないんだけどね」

「今回のお泊り会の事はなんて?」

「あ、それなんだけど……」


今日学校終わりに一度帰った時も当然あの人は家に居なかったし結局書置きも残してない。

その事を千歳に言うと思いっきり驚かれてしまった。


「はぁ!?言ってないの?え、じゃあもしかして無断外泊!?」

「そういうことになる、かな。やっぱり怒られるよね」

「そりゃ怒るでしょう。折角引き取った親戚の子がたった2週間で無断外泊なんて世間に知られたら何て言われるか分かったものじゃないし、恩を仇で返されたと言われても仕方ないわよ」

「う"。だよね」


あの人からしたら本当は私を引き取る義理なんてほとんど無かったはず。

あの事故が起きる以前にあの人の話なんて1度として聞いたことが無かったし、親戚と言ってもほとんど赤の他人と変わらないはずなのよね。


「ただ今から連絡すると今すぐ帰って来いって言われそうだし、このお泊り会を開いてくれた3人にも迷惑が掛かるよね」

「いや私らのことは良いんだけどさ」

「どうせ怒られるなら今日でも明日でも変わらないと思うし、明日の恵里香ちゃんの所のお泊りまで黙っててもらっても良いかな?」

「……その後はちゃんと帰るのよ。もし親戚の人の怒りが収まらないようなら私達も一緒に謝りに行くからさ」

「うん、ありがとう」


あの人が怒ったところってまだ見た事ないけど、どうなんだろう。

普段怒らない人ほど怒ると怖いって言う話もあるけど。

昨日は公平おじさんから色々言ってもらったけど、やっぱりまだ私はあの人の事を全然分かってないからこういう時どうなるのか不安で仕方ないのよね。

そんな感じで親戚の家はどうかとか、当たり障りのない範囲で話をしたり、ちょっぴりあの人の愚痴を言ってみたりしながら時間は過ぎていき、夜の22時になった頃に千歳のお母さんが、その30分くらい後にお父さんが帰って来ました。

どちらも1言2言挨拶するだけでした。

ゆっこの家が賑やかだった分、淡泊なのが印象的です。

千歳の話を聞く限り仲が悪い訳ではないので、これも一つの家族の在り方、という事なんでしょう。

でももし私があの家であの人と毎日会話もなくご飯も別々でコンビニ弁当だったりしたら……きっとストレスで寝込んでしまいます。

その前に人生に絶望して首を吊っていたかもしれませんね。



~~ 千歳の父Side ~~


夜の22時を過ぎて帰宅すると珍しく娘の部屋から賑やかな声が聞こえてきた。

あ、そう言えば今日は友達が泊りに来ているという話だったか。

なら一応挨拶くらいはしておくか。


「ただいま」

「あ、お父さん。お帰りなさい」

「お邪魔してます」


娘の友達は、つい先日事故で両親を亡くしたというのに元気そうだ。

強い娘なんだな。


「大した持て成しは出来ないがゆっくりしていくと良い」

「はい、ありがとうございます」

「あ、そうそう。お父さん、万里がお土産にケーキ持ってきてくれたのよ。冷蔵庫に入れてあるから」

「そうか。なら折角だから頂くとしよう」


余り邪魔するのも良くないので早々に娘の部屋を後にする。

ついでに私は甘いものが大好物なのだ。

キッチンに向かうと先に帰ってきていたらしい妻の姿があった。

その目の前にはケーキボックス。とお皿。

彼女も私と同じ甘いもの好きだからな。

お皿は既に空になっていて、今は何か手紙っぽいものを読んでいた。


「それは?」

「ケーキボックスの中に入ってたの。私達宛ての手紙ね」


差し出されたその手紙を受け取り中を確認すると、確かに私達宛てだった。

送り主は娘の友達の保護者か。


『まず初めにこのような形でのご挨拶となることをお許しください』


そんな言葉で始まった手紙は、それほど長い内容ではなかったけれど、自分の娘を想う気持ちが良く伝わって来た。


「今時手書きの手紙も珍しい」

「筆跡から為人が伝わるとも言うけど、きっと良い人ね」

「ああ、そのようだ。この手紙は私の方で保管しておくよ」


私は手紙をポケットにしまいながら自分の分のケーキを取り出し……あれ?からっぽ?


「私の分のケーキは?」

「あぁごめんなさい。美味しかったからつい全部食べてしまったわ」

「なんだって~~」


期待させて落とすとは何ていう事だ。


原案ではもっと冷めきった家族の予定でした。

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