17.お泊り会1日目は仲良し家族(後編)
そうして何度かゲームを変えながら勝負を繰り返していると夕飯の時間になった。
みんなで食卓を囲んでさあ食べようとしたところで、ゆっこのお父さんが帰って来た。
「ただいま~」
その声を聞いて良子おばさんが玄関まで迎えに行く。
「お帰りなさい。今日は早かったのね」
「ああ。優子が友達を連れてくるって言ってたからな。頑張って仕事を終わらせてきたんだ」
そう言いながらやって来たのはがっしりとした体格の公平おじさん。
「お邪魔してます」
「やあいらっしゃい。今日はここが自分の家だと思ってゆっくり寛ぐと良い」
「はい。ありがとうございます」
「ああ、ただ済まないが私が風呂が大好きでね。一番風呂は頂くよ」
「あ、はい」
公平おじさんは挨拶を済ませると自室でサッと着替えてお風呂に行ってしまった。
「さ、私達は先にご飯頂いてしまいましょう」
「はーい」
良子おばさんの声に改めて食卓を囲む私達。
人数が多いのと女の子同士なのもあって話も盛り上がります。
やっぱり団欒って言ったらこうですよね。
ご飯を食べ始めて10分ほどしたところで公平おじさんもお風呂から上がって来ました。
「って早くないですか?」
「ん?ああ、まあね」
「お父ちゃんは所謂カラスの行水って奴だから」
「そういう事さ。さ、母さんビールを頼むよ」
「はいはい」
おじさんが席に座るとおばさんが示し合わせたようにコップにビールを注ぐ。
多分風呂上りからビールを飲むのが毎日の習慣なのだろう。
「ふぅ~。風呂上がりにキンキンに冷えたビールは最高だ。
それで万里さんって言ったかな。我が家はどうかね。
うちの娘たちは元気があり余っているから大変じゃないかな」
「いえ、そんなことないです。むしろ賑やかで羨ましいくらいです」
「ふむ」
ほんと。あの人と囲む食卓とは大違い。
あの人の場合、最初に一言二言、話題を出した後は私の話に相槌を打つばかりだから。
ゆっこの家族はみんな明るくて優しくて。
だからかな。
思わず愚痴が出てしまった。
「うちの場合、あの人はほとんど喋らないですし、よくぼーっとしてますし」
「それは仕事で疲れているんじゃないのかい?」
「でもあの人、朝遅いですし、夜だって18時過ぎに帰ってくるんですよ?
仕事が大変だったら残業とかで遅くなるんじゃないでしょうか」
私がそう言うとおじさんは飲んでいたビールを置いて顎に手をやって考え込んでしまった。
そしてじっと私の事を見つめてきた。
「万里さんは普段、家で料理はしているのかな?」
「え、いえ」
「ならいつもインスタントやレトルト、もしくはコンビニ弁当を食べているのかい?」
「いえ。あの人が作ってます」
「掃除や洗濯は?」
「自分の部屋は自分で掃除しなさいって言われてます。けど、それ以外は多分あの人がしてるんだと思います。見た事ないですけど。
洗濯は、洗い物籠の中に入れておくと次の日の午後には洗濯されて綺麗に畳まれた状態になってます」
「それはつまり、その人は私と母さんの2人分を1人でやっているということか。
私には無理な芸当だな」
「そうねぇ。あなたってば家事はからっきしだものね」
「はははっ。母さんにはいつも感謝しているよ」
おじさんの肩に手を置く良子おばさんと、その腰に手を回して抱き寄せる公平おじさん。
そして見つめ合うふたり。
結婚15年を過ぎてもまだまだラブラブなんだね。
ゆっこと啓子ちゃんにとってはいつもの光景なのだろう。
ぱんぱんと手を叩きながら止めに入った。
「はいはい。お父ちゃんもお母ちゃんもそういうのはお客さんの居ない時にやってね」
「すまんすまん。それで何だっけ。
あぁそうだ。だから何が言いたかったかと言えば、君のおじさんがどんな仕事をしているかは聞いてはいないが、日中は仕事をして帰ってくれば炊事洗濯掃除を一手にこなすんだ。楽なはずがない。
しかもそれを君に悟らせないようにやっていたのは偏に君に心配を掛けさせない為だろう。
だから君のおじさんが君を大切に思っていないなんて絶対にないさ」
「……はい」
「ははっ。まだ納得しきれてない感じだね」
「すみません」
「いいさ。今は分からなくても。
きっと一人暮らしを始めて、もしかしたら結婚して子供が出来て、そうしてようやく親の気持ちが分かるものさ。
自分がこうして元気なまま大人になれたのは、どれほど親の愛情が自分を守ってくれたのか。
仕事でクタクタのボロボロになって帰って来た父親に『このクソオヤジ』なんて言った自分を過去に戻ってぶん殴ってやりたいよ。まったくさ……
おっと。年を取るとしめっぽくなっていかんな。
さあ、それより学校での優子の様子でも教えてくれないか?」
若干照れ臭そうに話題を変える公平おじさん。
その後は私とゆっこの話を中心に盛り上がった後、一足先に食べ終えた私達はゆっこの部屋に戻ってお泊りの準備を始めるのでした。
元々はゆっこのベッドで一緒に寝るという案もあったのですが、おばさん曰くゆっこの寝相は酷くて一緒になんて寝たら夜中に蹴り落されると言われたの予備の布団を出すことになりました。
ゆっこは文句を言いたそうでしたが、結果として一緒に寝ないで正解でした。
なにせその晩、私は悪夢にうなされて飛び起きることになるのですから。
ここ最近は夢に見ても朝にはほとんど記憶に残らないくらいだったのにどうしてでしょうか。




