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8 テレーズは自分の想いに気づく

 ――マクシムと師団長3人の闘いから早1ヶ月――


「おはようございます! テレーズ団長! マクシミリアン副団長!」

「今日も2人一緒で仲がよろしいですね!」


 マクシムは、毎朝私の家に迎えに来る。2人で登城するのが騎士団の名物となり、すっかり騎士団の中で、私達の恋人認定が定着した。

 否定しても、恥ずかしがっているだけと思われるのか、みんなニヤニヤ生暖かい目で見て来るだけで、否定することにも疲れて来たところ。でも、私は団長! 任務はしっかりこなすのだ!



 **********



 女性騎士団全員で王城内警護のポイントを、第2師団長テオドールから教わっている時だった。


「マクシミリアン様」


 しずしずとおしとやかに、可憐などこぞのお姫様が近づいて来た。蜂蜜色の髪と瞳に、色白で華奢な身体。私と同じ女とは思えない。まるで妖精みたいなお姫様だな。


「クリステル王女。ご無沙汰しておりました」

「本当にご無沙汰よ? マクシミリアン。 どうして私のことを放っておくの? とても寂しかったわ」

「ははは。落ち着いてください。今は任務中なのです。また後で顔を出しますので――」

「そう言ってまた、お逃げになるのかしら?」

「何をおっしゃいます。分かりました。さあ、私がお部屋までお送りしましょう。テオドール、後で合流する。引き続き頼んだぞ。団長、申し訳ございませんが少し失礼いたします」


 そう他人行儀に言って、マクシムはクリステル王女と消えていった……。


 私とマクシムは、みんなが思っているような関係ではない! そんな憐れみの目で見ないで! コリアンヌ、なぜ貴女がプルプル震えているの? テオドール、鬼の形相で怒りを堪えるな! アリス、あんた面白がっているわね! ミレーヌ? 貴女だけよ? こんな時頼りになるのは――


「隣国のクリステル王女といえば、昔からマクシミリアン様に熱を上げていたという噂ですよ? 団長、お気をつけくださいね」


 貴族社会のいらん情報を言うな! みんな何なのよ……。放埒王子が、外国で誰と何をしてどんなだっただろうが、私に関係ないんだからね……。なによ。マクシムも、こんな時ばかり『団長』だなんてさ……。


「テオドール! 早く続きを教えて!」



 **********



 テオドールから、大事な警護の説明を受けているのに、全然頭に入って来ない。どうしてこんな気持ちにならなきゃいけないんだろう……。モヤモヤするよ……。


「テレーズ。まだ怒っているの? 顔が怖いよ?」

「いつも寝ているくせに、余計なこと言わないでよ!」


 ……。もう嫌だ……。ププにまで当たるなんて。それもこれも全部マクシムのせいなんだから。

 上を向いて、目に滲むものを堪えながら、警護のポイントを最後まで教わった。テオドールの指導が終わっても、マクシムはまだ合流して来ない。もう知らない。戻って来なくていいんだから。


「ちょうど良い時間だし、今日はここで任務終了。解散にするわね」


 これ以上顔を見られたくないからそう言って、みんなを置いて逃げるように城から出た。



 **********



「ちょっと貴女? 先ほどマクシミリアン様と一緒にいた方よね?」


 ああ、クリステル王女。会いたくないし、対応もしたくはないが、外交問題にされても面倒よね。笑顔で返事をしとこう。


「クリステル様ですね。そろそろ晩餐のお時間になるのでは? 誰か呼んで参りましょうか?」

「いいえ。それにはおよばないわ。それより貴女とお話したいのだけれど、よろしいかしら?」


 よろしくないよ。でも、ダメって言える訳ないでしょうが……。早く帰りたいのに。お腹も減ったし、気分は最悪だし……。


「私、マクシミリアン様にお会いするために、サレイト王国に参りましたの。だってあの方ったら、好きな人がいるから私の気持ちに答えることは出来ないって、一方的に手紙で私との縁談を断って来たのですよ?」


 左様でございますか。んなこた知らんがな。それを私に言ってどうするのよ。


「自慢じゃないけれど、私、殿方には大変人気がございまして、引く手あまたですの」


 はあ。ますます知らんわ。お願いだからこれ以上、私に絡んでこないでほしい。


「ですから、マクシミリアン様が、この私との縁談を断ることが信じられませんの。どうも、マクシミリアン様に、空色の変な虫がひっついているようですしね。だから、こうしてその害虫と直接会って、害虫駆除をしようと思いましたの」


 妖精みたいに可憐だった王女が、いびつに顔を歪めて笑いかけてくる。こっわ! 良いんですか? 闇に支配されちゃいましたって顔してますよ?


「あなた平民よね? 品はないし、女のクセに騎士なんかして、恥ずかしくはないの? 自分がマクシミリアン様に釣り合うとでもお思いかしら?」


 我慢我慢。外交問題、笑顔で耐えろ。闇堕ち王女が言っているのは事実だ。腹が立っても受け止めろ。


「マクシミリアン様が美しい女だって言うから、どれ程かと思えば……。図体のでかい年増女じゃない? さっさと身を引いたらどうかしら?」


 この人、今、自分がどんなに不っ細工な顔で喋っているのか分かってないんだろうな。まあ、マクシムと私が恋人だっていうのは周囲の誤解で、身を引くも何もないんだから、そのことを説明してみるしかないよね。


「クリステル様は、何か誤解しているようですが――」


「クリステル王女。また侍女も連れずに、何をしておいでかな? ご自慢のお顔が随分と醜悪に歪んでいますよ? 彼女にそんな醜い顔を向けないでいただきたい」

「マクシミリアン様! どうしてそのように嫌なことばかりを言うの? こんな女のどこが良いのか、私には理解できませんわ!」


 ご心配なく。私自身がそう思っていますから。でも闇堕ち王女よ。マクシムの顔を良く見た方がいいですよ? 毛虫でも見るような冷ややかな視線、刺さって来ませんか?


「貴女のせいで、私は女性が嫌いになったようなものです。私が他の女性と話していれば必ず飛んで来て、無理やりその女性達たちを追いやるわ、陰でその女性たちをいびるわ――」

「女の可愛い嫉妬ではないですか!」


 ……。どこぞの師団長方みたいですね。


「貴女の侍女に、私の行動を監視させているわ、私の使ったナプキンを回収してこっそり口づけしているわ――」

「貴方のことをもっと知りたかっただけですし、少しでも貴方の温もりに触れたかったのよ!」


 ……。気持ち悪いご趣味をお持ちですね。


「極めつけは、いただいた刺繍の花びらが王女の髪の毛だったことでしょうか。あれにはどん引きましたよ。呪いでもかけられるのかと思いましたね」

「私の髪をお守りとして、ずっと貴方の側に置いて欲しかったのよ!」


 いや、マジ呪いの域ですから。この人本当にヤバイ人なんだな。マクシム可哀想。同情するわ。


「クリステル王女のように、『私はか弱く他者に害意はないです』って顔しているくせに、本当は誰よりも図太く、人を貶めようとする陰険な人間は大嫌いです! 繰り返します! 私は貴女みたいなタイプの女性が死ぬほど嫌いです!」


「いやああぁぁ。やめてぇぇー!!」


「裏表なく、真っ直ぐで快活な彼女が私は好きです。日々鍛錬を重ねた彼女の、瑞々しい美しさに心底惚れています。彼女と同じ歳になった時、我儘勝手し放題の自堕落な貴女では、彼女のように若く美しくあることは、到底無理でしょうね」


「……」

「マクシム……」


「先ほどサレイト王経由で、お父上に連絡を入れておきました。明日にはこの城を出ていただきます。どうぞ国境で迎えと落ち合ってください。では失礼します。――テレーズ、行くぞ」


 口元に手を添え、白目を剥いたままで固まったクリステル王女を放置し、私はマクシムに手を引かれて城を出た。


 どうして手なんか繋ぐのよ! マクシムのせいで変な王女に絡まれたんだからね! 何て言葉は出て来ない……。私、今、すごくほっとしてる……。繋いだ手を放したくない……。



 **********



「セルジュ! 今日はテレーズも一緒だ。すぐ部屋に行く。しばらく声はかけるな」

「はい。かしこまりました」


 ユニやセルジュさんに挨拶する間もなかったな。でも、きっと微妙な顔をしているはずだし、まともに話せそうもなかったから良かったのかも……。


「テレーズ……。もう、泣かないでくれ……」


 マクシムに頬を拭われ、涙で頬が濡れていたことに気づいた。私、あのなんたら王女に嫉妬した……。不安になって、怒って……。でも、マクシムが私を好きだ、惚れてるって言ってくれたことが、泣くほど嬉しくて……。


 私の方が勝手だよ。マクシムの気持ちを知っていたのに、公爵様の戯れだって、きちんと答えることもしないで逃げていた……。マクシムは私に対して誠実で、私のことをずっと想ってくれていたのに……。涙が溢れて止まらない……。


「ごめんね。ごめんね、マクシム」

「何でテレーズが謝る? 俺の方こそごめんな。あんなのに巻き込んで悪かった」


 マクシムは、ソファに掛けさせられていた私の隣に座り、優しく背中を撫でてなだめてくれた。

 困ったように眉を下げ、心配そうに私の顔を覗き込みながら微笑むマクシムを見て、もう気持ちに蓋をすることが出来なくなった。私は完全にマクシムに落とされている。


「違うの……。どうしよう。私、公爵様を好きになっちゃった……。私みたいな平民が抱いて良い想いじゃないのに……。今まで逃げててごめんなさい。私もマクシムのことが好きなの……」

「なら、尚更謝る必要はないな。なあ、テレーズ? 身分なんてどうにでもなるんだ。今は俺たちがお互いを想っていれば良い。まずは2人の時間を過ごして行こうな?」


 マクシムは、もう1度私の涙を拭ってくれた後、そっと優しくキスを落としてくれた。

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