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3 仕置きします。いえ、済んでいました

 ――ユニコーンに絡まれた日以降、何事もなく2週間が経ち、遠征期間の最終日となった――


 明日になれば王都へ戻り、明後日からは休みとなる。みんな浮かれながら、帰り支度を終えた。

 わーい! 今夜は酒盛りだー! 飲みまくって、コテンと眠るの最高―!!

 酒を飲まない騎士もいるし、手懐けた魔物ちゃん達はもちろん酒など飲まないので、何か起きればお願いしちゃえばいいのだ!!


 あら? 第4って、団の宴会の時にすごく重宝されるべき存在では? もっと、敬ってくれてもよろしくってよ! よしっ。さあ、飲むぞー!!


 マクシムは、なぜか夜になっても徹底して、黒い布を身につけたまま過ごしていた。

 せっかく、神様から良いものもらってんだから、取っちゃえばいいのに! って、思うのだが、私は個々の考えを出来る限り尊重する、懐深い師団長だ。

 もったいないとは思うが、お好きにどうぞー。



 遠征参加者40名で酒盛りをしていると、視界の端に、ナタンがマクシムに近づいて行くのを捕えた。

マクシムが、ナタンに気を取られているうちに、インプがマクシムの背後から忍び寄る。

 へぇ。インプねぇ。あのインプは、雑魚ナタンにテイムされたのか。こ狡い同士、お似合いの組み合わせじゃないの。


 どうせ、マクシムに何かしようと、悪巧みしているんだろうねー。どれどれ、泳がせてみますか……。



 ん? 今、インプが、マクシムの横に置いてある肉の塊に、何かをかけたぞ?

 あれは、テイムする能力もない奴が、魔物を手懐け易くするためのお薬、『マモノコロリン』じゃないか!!

 あんなのを人間に使ったら、致死薬だって! 本当にクズ雑魚阿呆だな! せっかく、良い感じに飲んでいたけど、見過ごすわけにもいくまい。


 そろそろ、師団長としてお仕置きしに行きますか。マクシムは、私に対しての態度のことも含め、雑魚ナタンを怒ってくれたんだしね。



「ププ。起きて」


 私のお腹のところで、いつも眠っているププを起こす。


「ちょっと、インプと雑魚新人を懲らしめに行くから、ププは、あそこにいるインプを押さえていて」

「ええー。僕、寝てたのにー」

「終わったら、またお腹に入って、寝ていていいから。10分だけよろしくね」

「はーい」


 実は、このププ。他の大陸の聖獣の子どもで、魔物ではない。

 見た目は小さいオフサネズミで可愛らしいが、強いし、話せるし、場所を取らないし、最高・最強の相棒だ。

 だから、私は基本ププだけを連れている。


 ズカズカと事件現場に向かいながら、途中で、1番近くにいたミカエルの腕を掴んで連行する。


「えっ。急にどうしたんだ、テレーズ?」

「いいから一緒に来て。で、適当に合わせておいて」

「ああ。分かった」



 雑魚ナタンタイプは、花形師団長様にきっとペコペコするんだろうし、丁度いいところにミカエルがいたよ。

 でも、第5のダミアンでも、きっと大丈夫だった。だって怖いから。跪かせているはず。

 ププにインプの方を任せ、ミカエルと一緒に、マクシムと雑魚ナタンの前にドカっと座る。


「ミカエル師団長に、ババ――テレーズ師団長……。どうかされましたか……?」

「私達も混ぜてよ。さ、無礼講だからどんどん飲むわよ?」


 そう言って、近くにあった樽ワインを、ミカエルの分も持って来て渡す。


「かんぱーい!」


 ミカエルも付き合ってくれて、取りあえず4人で飲みはじめた。


「あれ美味しそうねー。マクシムの隣にあるお肉をちょうだい」


 マクシムから肉を皿ごともらい、ミカエルに目配せしながら言う。


「ほら、ミカエル。食べなよ?」

「美味そうだな。どれ――」


「うわあぁぁぁあ! ダメです! ミカエル師団長!!」


 雑魚ナタンは、慌てて立ち上がり、ミカエルから肉を奪い取った。ヒヒヒ。もう、これじゃあ、言い逃れは出来ませんよ? 正直に吐けば、手荒にはしないからねー。


「ちょっとー。何でミカエルの肉を取り上げんのよー」

「い、いや……。あまりにも美味しそうだったもので……、つい……」

「じゃ、食べれば?」


 ナタン君、挙動不審になっていますよー。早く謝った方が良いんじゃないのー?


「あ、でもやっぱりいいです。お腹いっぱいかも……」

「なら、ミカエルに返しなさいよ」

「ああ、食いたいな。寄越せ」

「……」


 本当、機転も利かないし、ダメな男だな。騎士団に要らなくないか? 後々のためにも、ここで引導を渡しておこうか。


「師団長を殺したら、投獄間違いなしだろうから、渡せないよねー?」

「違うっ! 俺はただ、『マモノコロリン』を使っただけだ! 殺すつもりなんてない!」


 マクシムの表情は、うかがえないから分からないが、ミカエルの眉間に、深い皺が1本寄った。これ、いつもすかしてるミカエルが、本気で怒っている時の証拠。


「なぜそんなことをした? 入団して最初の全体講義で、人間が飲めば致死薬になると教わっただろうが!」

「すみません……。覚えていませんでした……」


 あーあ、ミカエルが怒鳴るから、他の師団長が集まって来ちゃったよ。なんか、第3のエミールと、第5のダミアンはニヤついてるし、第2のテオドールが、まんま鬼。

 ナタン君、君のお先は真っ暗だ。自業自得だね。


「面白そうな話、僕も聞きたいなー」

「是非、私にも聞かせてくれ」

「あぁ。また、君ですかぁ。ナタン君」

「せっかくの打ち上げだ。こいつを連れて、テントに移動するぞ」


 はい、出ました。ミカエルの仕切り。ま、ここは素直にお任せして、ミッチリみんなで絞りましょうか。あ、でも先に、インプを解放しないとね。あの子に罪は無いんだもの。


「私は、こいつのインプを森に返してから合流するわ。先にやっちゃってて」


 ププが私の爪よりも小さな足で、雑魚ナタンにテイムされたインプの羽を押さえつけている。

ひょいとインプをつまみ上げ、サッサと森に返しに行くことにした。


「夜だから気をつけてねー」

「ププがいるから大丈夫よー」

「なるべく早く来いよ。テレーズからも、聞くことあるんだし」

「はいはーい」



 **********



「ほら、お帰りなさい。次からは、ちゃんとご主人は選ばないとダメよ? え? 私? 無理無理。この子で充分よ。じゃあね。バイバーイ」


 ――ダメな主人に捕まったインプは解放され、パタパタ羽を広げて飛んでいった――




「テレーズ師団長――」

「ひっ!! マクシム!!」


 ちょっと!! その暗殺者みたいな恰好で、後ろから声をかけないでよ。と、言ってやりたかったが、マクシムは光がダメで、仕方なく、黒い布をまとっているの。そんなこと言っちゃダメ! って、良心が止めてくる。

 ……。いや、ちょっと待て。今は夜。これは、本気で苦情を申し立てても良いところだ!!


「あのね、マクシム。いきなり背後から、全身黒ずくめの男が声を掛けてきたら、誰だってびっくりするわけ。日中ならその恰好で仕方ないのは分かるけど、夜までしないでくれる? そんな奴、暗殺者か犯罪者しかいないから!」


「……」


 あれ? 言い過ぎたかな? もしもーし?


「申し訳ございませんでした。テレーズ師団長」

「分かってくれればいいのよ」

「明後日、お休みの日に申し訳ないのですが、王城広場に来ていただけませんか?」


 え!? なになに? それってデートのお誘いかしら? ……。違うね。騎士が王城でデートなぞするもんか。

 期待なんて、全くしていませんからね! はぁ。でも、休日に男性と会うなんて、何年振りだろうか。 デートじゃないって知ってても、何か浮かれちゃうんですけど。

 おっと。マズイマズイ。師団長として、毅然と返事をしないとね。


「今の件についての相談かしら? いいわよ。時間はどうする? 何時でもいいわよ?」

「ありがとうございます。それでは、13時に待ち合わせをお願いします」



 **********



 ――私が、他の師団長たちが集まっているテントに入って行くと――


「仕上がっているわね……。全部、話したんでしょう?」


 テントの端で膝を抱えて座り、呆然と口を開け、一点を見ているナタンがいた。


「あの、黒ずくめの新人を手懐けて、一緒に女の子を、ナンパしようと思ったんだってー。黒い新人、素顔が格好良いから、成功率が上がると思ったんだってさー」

「だからと言って、『マモノコロリン』を使う愚か者がいるとは信じがたかったが、ダミアン殿が吐かせたから間違いはない」


「間違いありませんねぇ。そして、ナタン君は今後、うちの第5で再教育することにしたんですよぉ」

「第5から逃げ出さなきゃ、これからも騎士団員だ。全部吐いたから、テレーズはもう戻ってもいいぞ」


 うん。すごく下らない理由だったな。蛇のダミアンに、ガッツリ再教育されればいいさ。あーあ、疲れた。寝よ。


「じゃあ、遠慮なく戻って休むね。みんなおやすみー」

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