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10 ~エピローグ~

「セルジュさん、こんにちは!」

「いらっしゃいませ。テレーズ様。マクシミリアン様がサロンでお待ちですよ。どうぞお入りください」


 今日は休日。マクシムの公爵邸で1日過ごす予定だ。料理長に公爵邸の味を教わって、ユニと遊んであげて、マクシムと……。なんて妄想していたら、一気に現実に引き戻された。


「お、王様!?」

「久しぶりだな、テレーズ。私は今、王ではないぞ? マクシムの兄オーレリアンだ。気楽にしてくれ」

「兄上には『一切』気を遣わなくていい。そうでしょう? 兄上?」

「それもちょっと言い過ぎではないか……。しかし、今日は本当に、ただの兄としてここに来ているのだ。だから、テレーズも私に気を遣う必要はないからな?」


 まあ、そこまで王様がおっしゃるのなら。でもこういう場合、弟の恋人って立ち位置で良いのかな? お兄さんって呼んで良いの? オーレリアン様? うーん。


「それでな、今日はテレーズに聞きたいことがあって来たのだ。この間の魔物討伐でテレーズがあげた功績に、褒賞を与えることが決まった。どうかな? テレーズは何が欲しいのだ?」

「褒賞? ですか……。ありがたき幸せにございますが、任務で行ったことですし、褒賞をいただくほどのことは致しておりません」

「王都に甚大な被害がなく済んだのは、報告からもテレーズの功績であることは間違いない。私の顔を立てて褒賞を受け取っては貰えないか?」

「テレーズ。思ったことを話して良い。その方が兄上も喜ぶ」


 遠慮なく言っちゃっても良いってことね? なら、あれしかないわ……。


「……。ありがとうございます。1つだけ欲しいものがあります」

「いいぞいいぞ。遠慮なく言ってみるといい」

「マクシムと一緒に生きることを許して欲しいです。身分が釣り合っていないのは理解しています。ただ……、せめて……、マクシムのお兄様であるオーレリアン様の許しが欲しいんです!」


「「……」」


 言い切った!! ……。2人共固まったわね。あーあ。やっぱり言っちゃダメだったよね……。結構、勇気を振り絞ってみたんだけどな……。だって、悩むくらい欲しいものって、これしかなかったんだもの……。


「「…………」」



「ふっ。――あーっはっはっはっは! お前たちは、似た者同士だなーっはっはっはっは!」

「兄上……。笑い過ぎですよ」

「すまん、すまん。つい、な? マクシム。きちんとテレーズに説明しなさい。大切な女性を不安にさせていてどうする?」


 それだけ言って、王様は思い出したかのように時々吹き出しながら、お城に帰って行った。不敬を承知で、後ろから拳を叩き込みたい……。

 一世一代のお願い事を大笑いされ項垂れる私に、マクシムが穏やかな声音で話かけてきた。


「聞いてほしいことがある。実はな、テレーズにはオレノ団長の、ジラール侯爵家の養女になってもらいたいんだ」

「そうなの? 忘れかけてたけど、団長は侯爵家の当主だもんね。まあ、うちは母が2年前に他界してからは、私も天涯孤独だし。家族が出来れば嬉しいけど。良いのかしら?」


「団長は、長男と次男が2人とも文官になったことを残念がっている。是非、優秀な女性騎士を娘に欲しいそうだ。そして、家族になるのは団長ともだが、俺ともだ」

「団長がお義父さんで、マクシムが――えっ!?」


「俺はテレーズの旦那になる。次の新人騎士が入って来たら話そうと考えていたんだが……。まさかテレーズに先を越されてプロポーズされるとはな……」


 あれってプロポーズ!! そうとられても仕方ないよね……。私ったらなんてことを王様に言ったんだ! 頭から湯気が出そう! 上気した頬は気になるが、おずおずとマクシムを見上げる。


「団長も了承済みだ。ジラール侯爵家の長女として、アインホルン公爵家に嫁いでくれ。もちろん兄上からの許しは前々から得ている」


 少しだけ垂れ気味の青い瞳が、ゆっくりと細められた。私がずっと悩んでいたことは、マクシムがとっくの前に解決していた!!



 *~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*



 ――サレイト王国騎士団の1番小さな訓練場――女性たちの勇ましい声が響いている――


 2つの班に分かれて模擬戦をする女性騎士たちを、大きくなったお腹に手を添えながら、テレーズが見つめている。アリス隊とコリアンヌ隊。どちらも両隊長に従って、男性騎士に劣らぬ身のこなしで戦いを繰り広げている。


 そのかたわらでは、コリアンヌのケット・シーが、空色の髪の男の子とコリアンヌに瓜二つの女の子と遊んでいた。ケット・シーの尻尾を先に掴んだ方が勝ちらしい。



「テレーズ団長。引き継ぎ事項の確認が完了しました」

「ミレーヌ副団長、半年間頼んだわよ」

「安心してお任せください。……。あの、お腹を触らせていただいてもよろしいでしょうか?」


 テレーズが騎士の顔から母の顔となり、柔らかく微笑み頷く。まだ目立たぬミレーヌのお腹にも、小さな命が宿っている。ミレーヌがそっと触れると、嬉しいのか小さな足がポコポコとテレーズのお腹を蹴る。いつも冷静なミレーヌも、目を瞬かせ感嘆の息を漏らしている。



「テレーズ! 明日から休みなんだろ? 荷物はあるのか? 屋敷まで持って行こうか?」

「歩くのも大変だろうな。私がテレーズを公爵邸まで抱えて行こう」

「こら! ミカエルとテオドール! お母様に近づくな!!」


 ケット・シーと遊んでいた男の子が、慌ててパタパタと駆け寄って来る。小さなナイトは髪色以外、どうも父親似らしい。


「うっわー。ミニ公爵が来たよー」

「テレーズに似れば可愛げがあったんですがねぇ。小憎たらしいですねぇ」

「うるさいぞ! エミール、ダミアン! お祖父様とお父様に言いつけてやるぞ!」


 幼い子どもと大人げなく言い合う師団長たちに、2つの影が忍び寄る。


「「お前ら……。俺の子(孫)に何をしている」」


「ゲっ。うるさいのが来たよー!」

「じゃあなテレーズ! 戻りを待ってるぞ!」

「次は女の子だと良いですねぇ」

「たまには団にも顔を出してくれ」


 元『テレーズを陰日向になって守る会』の面々は、相変わらず団長や公爵の目を盗んでは、密かに!? 様々な活動を続けている。


「ったくあいつら性懲りもなく。団長の指導力が足りないのでは?」

「義理の父に向かって随分だな、義息よ」

「お祖父様! 抱っこしてください!」

「おおそうかそうか~。ジイジの抱っこが好きなんだもんな~」


 テレーズの義弟となった2人はまだ結婚していない。初孫を得たオレノ団長の孫愛が半端ない。孫が来るとデレる団長という、騎士団の名物が1つ増えていた。


「テレーズも抱っこして帰るか?」

「遠慮する」

「テオドールがさっきしようとしていただろう?」

「あんなの冗談に決まってるでしょ!」



 模擬戦を終え、女性騎士たちが集まって来た。


「テレーズ団長が、無事に第二子を出産することを願って! 女性騎士団員一同による、安産きがーーん! せーの!!」


 ――ドォォーンドドーン――


 アリスの掛け声とともに、訓練場の上空に色とりどりの魔法が上がった。



「みんなありがとう! また半年後に会いましょう! しっかり身体を戻して、すぐ動けるようにして帰って来るから、覚悟しててね!」


 見送る義父と女性騎士たちに手を振り、マクシムと男の子に両側を守られるように挟まれ、手を繋がれたテレーズが公爵邸へと帰って行く。


 暮れ方の騎士団に、並んだ3つの影が伸びていた。数年後にはもう1つの小さな影が加わっているのだろう。

 落陽に赤く染まるサレイト王国騎士団には、仲睦まじく並んで伸びる4つの影。

 これもそのうち王国騎士団名物の1つになるのかもしれない――

ここまでお読みくださいました皆様。ありがとうございます。

誤字報告をいただいた方。感謝しております。

ブクマと評価をしていただいた方。励みになりました。

本当にありがとうございました。    めもぐあい


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