67
王都での生活はとてもとても充実していた。
といってもなんとなく、元いた世界の暮らしに似ているとヨシヤは思う。
玄関を開けたらそこはだだっ広い草原……という神域ではなく、ドアを開けると行き交う人たちの姿があるというだけの違いなのだけれども。
といっても神域での暮らしに不満があったのかと問われれば否だ。
彼にとって、いいや、妻と一緒に考えていた、将来の夢的なもの全てがあの神域には詰まっているのだ。
庭付き一軒家、ボート、菜園、それに可愛いペットたち(?)……愛する妻と二人で将来は余生をそんなところで過ごしたいという、吉田ヨシヤという男にとっての夢があの神域には詰まっている。
若干、庭付き一戸建てというか周囲は全部庭というか草原で、川もあるし湖もあるしで『庭付きとは?』という疑問にぶち当たりそうではあるが大は小を兼ねるのだ。
菜園に関してもヨシヤがやっているのはじょうろで水をやる程度、それも布教活動の合間なので大半は蟻たちによるもの。
契約した虫たちをペットと呼ぶことについては今のところそれが正しいのか、ヨシヤにもハナにもわからない。
ただまあ、虫たちが彼ら夫婦を慕ってくれていることはわかっているので、おそらくペット枠でも問題ないはずだ。
コカトリスとハシビロコウ、それから異界の神であるアーピス様については扱いが微妙であるが、まあ前者はペット、後者はお客様という区切りでおそらく間違いはないであろう。
「今日は神殿巡りしてから戻ってくるよ。大丈夫、八木さんも一緒だからね!」
「ええ、あなたの訪問をきっと皆さん待ちかねているから……本当はあっちゃんとエイトも行きたかったみたいだけれど、あの子たちはサイズを変えられないから仕方ないわよね」
「そうだねえ、さすがにあっちゃんたちを連れて行ったらきっとパニックだよ……」
その光景を想像してヨシヤは苦笑する。
王都で暮らすにあたって、多くの神殿が建立されていると聞いたヨシヤとハナは神殿にご挨拶に行くことにしたのだ。
勿論、ハナはこの家から出られないし他の神々からすれば観測されている若い神程度には認識されていることだろう。
だからこそ、新参者としてご近所付き合いは大切なのだ!
ご挨拶抜きには語れない!!
「……それに、勇者の話題もどこかで聞けるようなら聞いてくるよ」
「ええ……無理はしないでね」
勇者ダイア・ソトギについては噂ではチラホラとあちこちにあがってはいるというものの、その実態はよくわかっていないという話だ。
幸いなことにこの国の要人である王太子妃、辺境伯、大商人といったツテがなんとなくできてしまったヨシヤとしては少しでもいいから妻の不安を払拭するためにもかのストーカー少女の行動を把握しておきたい。
(そもそも、この世界に『勇者』って必要なのかな?)
確かに厳しいところも多い世界だとは思うし、神様は信仰を失えば消えるしかないなどなかなかにブラックではあるが……それほど人々が生きるに絶望するような世界ではないし、戦争などといった物騒な話もそうそうなさそうだ。
それでありながら何故、勇者は異界から召喚されたのか。
信仰を競う神々の意図はなにか違うものを感じて、ヨシヤは面倒なことになって妻と自分が巻き込まれませんように、とそれもお願いしてみようかななんて思うのであった。
いや、そもそもオマエの妻が女神だろうが。
そう他の先輩神々から突っ込まれそうであるが。




