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最終的に料理を作って持ってくる、市販の蜂蜜を買ってくるなどあれこれと試行錯誤で使用人たちが試した結果、本当にその薬が入っている物に関して蜂蜜が有効であると証明がなされた。
特にヨシヤが持っていた蜂蜜はその反応が顕著で、八木が『女神の加護の賜物ですね! 今あるだけでもお売りしましょうか? 少々値が張りますが』なんて売り込みをしたおかげでレストランに寄らずとも完売である。
しかもギルドでの蜂蜜適正価格の倍以上吹っかけた八木に対してヨシヤは背中がびしゃびしゃになるほど汗をかいてしまった。
いや、品質が良い分だけ値を上げてくれる人もいるだろうとギルド職員も言っていたし、必要な人が買うのだから無問題なのだろうが、それでも彼らは〝美味しい蜂蜜〟がほしいわけではないのだ。
(八木さんの方がよっぽど商人っぽいなあ)
やっぱり自分は押しが弱いのだろうか、そんなことを思うヨシヤだが蜂蜜が売れたのは事実だ。
ただはっちゃんのことを考えると美味しい蜂蜜を作って貰ったのに申し訳ないという気持ちになるのだが……おそらく蜂たちはヨシヤとハナが食べる以外だったら特に気にしないと思われる。
今回も売っていいかと問われたので二人に捧げる蜂蜜以外で自分たちが用意した分からお裾分けしてくれただけなので。
需要があるようなら売り物用の蜂蜜も用意するかなと蜂たちが準備を始めていることをヨシヤはまだ知らない。知っているのはあっちゃんである。
「……して、対策はできるとしても呪いはどうしたものかの」
「あの、不躾ながら信仰する神にお願いしては?」
「それは考えたが、妾が信奉するは戦ごとの神。荒事にはお力添えしてくださるとは思うが」
「ああ、武神様ですか。でしたらブロッサム様にお祈りしてみては」
「何?」
「以前、辺境伯から武神様は大変寛容な教えで、他の神を同時に信仰しても許してくださると伺いました」
正確には自分が一番だったら他によそ見するくらい許してやるといったようなものらしいのだが、要はそれをどう捉えるかの問題だ。
妊娠がしたいというならば、その神に呪いに打ち勝って身ごもりますようにと願ってもそれが専門だから仕方がないよねで言い訳は十分だろうとヨシヤは思う。
彼のその言葉に、女性は顎に手を当てて少し考え頷いた。
「そうだな。試してみよう」
「ではこちらを」
以前のように石を持ち歩いているわけではないので、ヨシヤはここでも結び紐を取り出して女性の前に置いた。
赤と白で作られたそれは見た目も可愛らしいため、マーサなどは小物につけて大切にしているらしい。
ナタリーはアクセサリーとしてスカーフ止めにしたり、ブローチのようにして身につけているそうだ。
ちなみにヨシヤも鞄に一つつけているが、ハナがヨシヤのためにとこれでもかと神力を込めた逸品だったりするが、今のところその効果は不明である。
「これに祈れば良いのか。随分と質素な物だな」
「我が女神は華美を好みませんので」
それでも割と中流から上流階級にいたるまで、この飾り紐のデザインはかなり好評だとナタリーから聞いたことのあるヨシヤは内心首を捻った。
勿論、今市井にあるナタリーたちが建てた神殿で売られている飾り紐は、ヨシヤが彼女に渡した物を模倣して作ったものだ。ハナの手製ではない。
だがそれが上流階級にまで人気となっているのに、目の前にいる女性はそれを質素な物と呼び物珍しそうにした。
(つまり、相当身分が高いってことかな……)
まあ夫との間に子ができないから他の女性を紹介……なんて普通に考えれば一般家庭でないことは丸わかりだ。
勿論、やんごとなき御方であるという説明は事前に貰っていたのだからヨシヤとしてもそのつもりではいるのだが、もしかして飾り紐が気に入らなくて祈れないのだろうかと少し心配になってしまった。
だが女性はしげしげと飾り紐を眺めた後にそれを握ったかと思うと立ち上がり、窓の方へと体を向けて膝をついた。
それは、まるで神官が祈りを捧げるのと同じく荘厳な光景だった。
祈ることに慣れているのか、或いはそれほどまでに子を欲しているのか……それはヨシヤにはわからない。
だが、その女性の周りをキラキラとした輝きが包んだことで、ハナが彼女の『願い』を聞き届けたのだということがヨシヤにははっきりとわかったのだった。




