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さて、八木と共に商業ギルドに赴いたヨシヤは色々衝撃を受けることが多く、彼にしては珍しく憤慨してそこを後にした。
「ヨ、ヨシヤ様」
「ごめん、ごめんな八木さん。差別的な人がいるってのは事前に知っていたはずなのに、俺のせいで……」
そう、商業ギルドに着いたまでは良かった。
以前ハナから、獣型に近しい姿の獣人は差別の対象になりやすいと聞いていたものの、王都に着いた際はそこまで否定的な人に出会わなかったのだ。
露店のおばちゃんも珍しがった程度で、親切に接してくれた。
商業ギルドの受付の人だって対応は丁寧だったし、蜂蜜の売り先になるであろうレストランなども教えてくれたから感謝もしていた。
だが、その後にやってきたどこぞの金持ちらしい人物と、その護衛らしき男が八木を見てあからさまに嫌な顔をして獣くさい、とっとと出て行けと小突く真似までしてきたのだ。
それに対してヨシヤも勿論苦情を申し立てたが、けんもほろろにあしらわれてしまった。
(俺が、ただの商人でもいい、のんびり暮らせたら……なんて思ってたから発言権が弱いままなんだ)
ヨシヤがもしあそこで蟻をけしかけたならそれで済んだだろうにと八木は思う。
ただすまないすまないと自分に頭を下げるヨシヤは、暴力で解決しようとはせず、自分の名誉を守るために立ち向かってくれたのだと思うと、八木は誇らしかった。
「あんなゲス共は放っておくのがよろしいですよ。むしろワタクシを見て差別的な態度を取る者はヨシヤ様が相手にする価値もない相手という、品定めのお役に立てていただければ幸いです」
「八木さぁん……!」
八木の言葉にヨシヤも感動する。
この主従、力関係はともかくお互いに信頼度が高まったようである。
(たしかに八木さんの言う通りだなあ、苦手意識とか、生理的嫌悪とかはあるんだろうけどあの人たちみたいな態度をとる人は、俺は苦手だから取引相手にしなくていいならしたくないし)
でもだからいって八木が罵られては気分が悪い。
(何か対策を考えなくちゃな……)
「しかし勇者が召喚されたと話題が上っているにもかかわらず、その正体が不明というのは不思議なものですねえ」
「え? あ、ああそうだね!」
今後について考えを巡らせていたヨシヤは『勇者』の話題に頷いた。
確かに、王都に来てからあちこちで勇者が現れたという話題が出ているのだ。
だがその容姿も出自も不明で、『勇者が召喚された』ということだけしかわからないからデマではないか、或いはもっと大きな事件が裏で起きていて市井には隠されているのではないかなどの陰謀説まで出回っているのだ。
実際ヨシヤも領主から以前その話を耳にしていたのでそれ自体は知っている。
勇者が誰なのか、どのような目的を持って行動しているのか、領主という立場の人ですらその存在が不確かなものであるということしかわかっていないことを知っている。
(……問題が起きなきゃいいけどなあ)
とりあえず、ヨシヤにとって他の人々と同じように、自分の生活と家族とペットが無事で過ごせればそれで良いのだ。
「ん? どうかしたかい」
ふと、ヨシヤの肩で蜂が羽を揺らして警戒音を鳴らした。
人混みの中でも警戒がしやすいように、蜂たちが今回は警戒網を広げていたのだ。
その音に周りを見渡すヨシヤだが、何もおかしなところはない。
道行く人々も、買い物に興ずる人々もいつも通りだ。
八木も辺りを見回したようだが、首を横に振っている。
「……とりあえず、この場を離れようか」
レストランはまた今度。
そうヨシヤが言えば、八木も反対はしなかった。




