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さて、鳥たちを回収したのは良いものの、ヨシヤは途方に暮れていた。
なぜならば、鳥だと思っていたそれは確かに鳥だ。
くちばしがあり、翼を持ち、……尾っぽが長い蛇であった。ぐんにゃりしている。
「とり……?」
人間、己の理解力を越えたものを目の前にすると思考が停止してしまうものである。
ヨシヤも例外ではなく、目の前の鳥が鳥であるが己の知る鳥とは違うことに困惑していたのである!
「ハ、ハナ」
とりあえず、最愛の妻に意見を求めるように彼が仰ぎ見れば、彼女は異世界ガイドブックに視線を落としていた。
そしておもむろに本を閉じると、にっこりと笑った。
「それ、コカトリスっていう種類らしいわ!」
「こかとりす」
ヨシヤは思わず復唱した。
そして彼はラノベやゲームで培った知識から、それがモンスターの名称であることを導き出して盛大に慄いた。
とはいえ、救うと決めた命である。
「どうしたらいいかな!」
とりあえず手当らしきものはした。
綺麗な布で体を清め、それっぽく止血をしたが鳥本体も尻尾の蛇もぐんにゃりしたままだ。
ヨシヤは動物を飼った経験はない。
コカトリスなんてもっとない。
ハナもそれは同様である。
「そうねえ……私も女神としての力がまだ弱いから治癒は……あっ!」
「ど、どうしたんだいハナ!」
「アーピス様の近くにこの子たちを連れて行きましょう!!」
いそいそと夫婦揃って鳥……もといコカトリス三羽を抱え、家の裏手で今日も寛ぐ牛に歩み寄る。
変わらず神々しい牛は彼ら夫婦がやってきても動じることはなく、ただ視線をちらりと寄越しただけでのんびりとしているではないか。さすが異界の神である。
そんなアーピス様を中心にして三羽のコカトリスを配置すれば、じんわりと彼らの体が金色に輝き始める。
それを目の当たりにして、ヨシヤはほうっとため息を吐いた。
「奇跡ってやつ?」
「そうねえ、最近よく目にしている気がするわ」
妻のもっともな発言にそれもそうかとヨシヤは笑った。
もう何が何だかわからないくらい、そういえば奇跡のような出来事に彼らは日々ぶち当たっているのである。
感覚の麻痺とはこのことだろうか。
「アーピス様のお力はよくわからないけれど、生命の持つ根源的な力を高めてくださっているようだから……きっと、この子たちも助かるわ!」
「ならいんだけど……」
「といっても劇的に即回復ってわけにはいかないから、様子を見守りましょうね」
「うん」
細めのコップに水をなみなみと注いでそれぞれの口元に置いておく。
何を食べるのかイマイチわからなかったのでそこはなにもしなかったが気がつけば蟻たちが緑色の団子をちぎって置いてあげていた。
主が救うと決めた命である。蟻たちも協力を惜しまない!
ただし、その団子の主原料が何であるかは秘密である。
「そういや、こっちの卵はなんだろう」
「それはハシビロコウみたいよ」
「ハシビロコウ」
「ええ、ハシビロコウ」
またもやヨシヤは目を丸くする。
ハシビロコウ、それは世界でも稀な動かない鳥。そう謳っているのをテレビで見た記憶がある。
あれは教育チャンネルだっただろうか、動物バラエティ番組だっただろうか。
今となっては懐かしい記憶だが、それはもしかしなくても彼らが元いた世界の話である。
「ハシビロコウってアフリカにいるやつ?」
「そのハシビロコウね」
「……アフリカは、異世界だった……?」
「やあね、そんなことあるわけないじゃない!」
「だ、だよねー!!」
ハナの言葉に思いっきりホッとしたヨシヤだったが、ならば何故と首を傾げた。
そんな夫に彼女も首を傾げつつ「たまに、異世界から漂流物が流れ着くみたいねえ」なんて暢気に言っているではないか。
「そんな、海とか川じゃないんだから……」
「とりあえず、ねえ、ヨシヤさん」
「うん?」
ハナが笑顔で抱いてくれている卵。
だがよく見れば、ハナの笑顔が引きつっている。
しかも若干、顔色が悪い気もするではないか。
そのことに気がついたヨシヤが小首を傾げれば、彼女は卵を抱いたまま言葉を続けた。
「卵が動いてるんだけど、これってもしかしてもう生まれるのかしら……?」




