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蟻たちは程なくして帰還した。
そして獲物を意気揚々として掲げながらその戦果を主であるヨシヤとハナに一通り披露しては褒めてくれと言わんばかりに触覚をみょんみょんと動かすのだ。
彼らのルーティーンとも言えるその光景にすっかり虫嫌いのヨシヤも慣れたものであったが今日ばかりは少々、違った。
「えっ、ちょっ、まっ」
「ヨシヤさん、落ち着いて」
蟻たちが掲げるのはいつもの如くよくわからない(ということにヨシヤはしている)緑色の肉塊、それからどこぞの冒険者の忘れ形見的な何か、なんかよくわからないモンスターが数種、それに果物。
だが今回、数匹が口に咥えているのは、どう見ても鳥だ。
それから別の一匹が掲げるようにして卵まで持っているではないか。
しかも、鳥はまだ生きているらしく弱々しく動いたかと思うと潤んだ瞳でヨシヤを見るのだ。
これはヨシヤの良心にクリティカルヒットした。
「返して! らっしゃい!!」
ヨシヤが思わず全力でそう言えば蟻たちはエェーっと言わんばかりに大きなリアクションを見せたかと思うと、互いに顔を見合わせる。
どうやらヨシヤに喜んでもらえなかったようだと判断した彼らは仕方がないと言わんばかりの態度でしょげつつも、鳥と卵、その他の獲物を巣穴に持ち帰ろうとしていた。
「待って! 待って! ステイ! お願いします!!」
いつだって彼らの獲物のお裾分けをしてもらっているとはいえ、このままではあの鳥は緑の肉団子に仲間入りする未来しか見えない。
ヨシヤも可愛いペット(?)たちの行動を阻害するつもりはないが、それでもさすがに良心が咎めるものだけはどうしようもない。
思わず待ったをかければ蟻たちが一斉に振り返って、思わず彼も怯んでしまった。
だがここで好きにしていいなんて言えるはずもなく、今回だけだ、今回だけだと心の中で何回か念仏のように唱えてヨシヤは口を開いた。
「その鳥と、卵、お土産なんだろう……? ありがとう、やっぱり、くれる、かい……」
お肉をもらう、それはすなわち命を〝いただいて〟いると理解していても、生きているものに救いを求められてヨシヤはそれを知らんぷりできなかった。
こんなことじゃあいけないと理解していても、できなかったのだ。
自分の優柔不だんっぷりに彼は嫌気がさすが、そんなことは蟻たちには関係ないらしい。
ヨシヤの言葉を受けて蟻たちは顔を見合わせたかと思うと、目をキラキラさせてヨシヤに殺到したのである。
褒めてくれるのか、受け取ってくれるのか、そういう喜びの感情を露わにされてヨシヤはぐっと怯んで思わず涙が零れる。ついでに鼻水も出た。
「優柔不断な主でごめんねええぇぇえ!!」
お詫びに一生懸命撫でるから!
そう宣言して受け取るのもそこそこに撫でるヨシヤの袖が何故か緑色に染まるのを見て、その様子を見ていたハナはただ苦笑するしかない。
あの染みは落ちるのかしらねえ、そんな彼女の小さな呟きに応じる者は誰も居ないのであった。




