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あれから。
帰り着いたヨシヤから勇者について話を聞いたハナも首を傾げていたが、よその神が何かをしていても彼女にはわからないということで自分たちは堅実に頑張ろうということで落ち着いた。
まあ、つまるところ今までと同じでいいね! ってことである。
ヨシヤは眷属として着実に力を付けて、今では生まれてくる命……つまり妊娠からの出産にまで派生してその関係者に発生した〝お知らせ〟を見ることができるようになっていた。
何に使うんだよと思われるかもしれないが、先日の領主がそうであったように、いち早く新生児に会える可能性が出てくるのである意味人によってはありがたい能力なのだ!
……といっても、ヨシヤがそこにいなければ意味がないのだが。
しかし幸いにもその恩恵に預かった領主がいたく感激し、彼もまたハナ……もとい女神ブロッサムを信仰してくれるようになったのだ。
なんでも軍神を信仰しているが、あちらの神は複数の神を信仰しても許してくれる心の広い神様なんだとか。
おかげで領主の親族もそれに倣ってくれたらしく、とてもありがたい話である。
ハナも神としてのレベルがあがり、神域の改造に勤しんでいる。
とはいえ、今の庭(?)つき一戸建てで彼女としても満足なので増築などは考えておらず、ヨシヤと相談の上、新たなるものを作り出したのだ。
「おお……おおお! すごい、すごいよハナ!!」
「ふふふ、どうかしら。ヨシヤさんとデートした湖を思い出して作ってみたの! ボートも用意したから、これでいいと思うのだけれど……」
「最高!!」
ヨシヤとハナには、前の世界で夢があった。
庭付き一戸建てを手に入れて、可愛いペットを飼って、二人で家庭菜園よりは少し大きいくらいの畑でスローライフをしたいというものだ。
ちょっとくらいキャンプなんかもいいかもね! なんて夫婦でテレビを見ながら語り合ったのは、もうなんだか昔の話のようである。
とはいえ、庭付き一戸建て、ペット、家庭菜園と着実に二人は夢を叶えている。
そして今度はキャンプをしようと決めたのだ!
お前んち、すぐそこじゃねえか。家の周り原っぱだからもうキャンプと変わらないって言うかこの異世界に来てすぐはキャンプ生活だったじゃねえか、なんていう無粋なツッコミをするものなどここには存在しないのだ!
「これで釣りもできるね!」
「ええと……お魚はなんとかして湖に放ってもらわないといけないけど……」
「うんうん。それは頑張るよ。ほら、川の魚を釣ってくるからさ!」
ヨシヤは、釣り堀でならば釣ったことがある。その程度の実力であった。
とはいえ、折角キャンプのようなものをするならば、仲良く二人でボートに乗ってキャッキャウフフしたいし、魚をかっこよく釣って妻に良いところを見せたい男心ってやつなのだ。
そして釣りたての魚に串を刺して焚き火で炙り、妻と仲良く食したいのである!
上手くいくとは限らない。
その辺は本人だってわかっている。
でも楽しいならばいいじゃないか!
そんな彼の願いに応じて湖を作り出す妻も大概である。
「よかったわねえ、ヨシヤさん。夢が叶ったわね!」
「全部ハナのおかげだよ。俺たちのスローライフ生活が充実しているのは、きみのおかげじゃあないか」
「そんなことないわ、ヨシヤさんが頑張ってくれるから……」
湖の前でそっと肩を寄せ合いイチャイチャする夫婦の後ろで、湖の出現に喜ぶ蟻たちの目をそっとあっちゃんが隠す。
エイトも働き蜂たちに、あの二人の世界を壊さないよう、飛ばないように指示を出していた。
アーピスさまだって空気を読んで黙って草を食んでいる。
今日も神域は、平和なのであった。




