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ヨシヤは勿論、独断で行動はしなかった。
とはいえ前提としては領主の前に再度姿を見せるべきというのがヨシヤの意見だ。
偽物が現れる可能性、そのリスクを考えたら行動を起こすべきだという考えを妻に伝え、ハナの意見を求めた上でどう行動するかを決めるというものである。
妻として女神として、夫であり眷属であるヨシヤの意見をすべて聞いたハナも彼の意見に賛同した。
仮面を付けていけばヨシヤを兵士が害することはほぼ無理であるといえたし、最悪、何かあったとしても蟻たちを呼び出して解決(物理)することだって可能だ。
そう考えればこのまま事態を無視することは得策ではない。
とはいえ、ここで一つ、問題がある。
ハナの女神としてのレベルは、着実に上がっている。
大神の指令をこなした後も順調に信者が増えているし、穏やかながら右肩上がりのグラフを描いているのは間違いない。
が、例の仮面の改良にまでは至っていないのである。
造形美の問題ではなく、例の【祝いの仮面】を装着すると神域の外でははずせないこと、やはり言葉がすべて『ヘアッ』という独特なものになってしまうことに変化が見られなかったのだ。
どうやらそこに関してはまだレベルが及んでいないようだ。
女神の力もあれこれと複雑らしく、ハナはしょんぼりしていたがヨシヤは気にしないでいいと彼女を慰めることに全力を注いだ。
結局、仮面はそのまま装着して、領主がもし友好的態度であるならば筆談するという方向にした。
(大丈夫かなあ)
こっそりと、というかまたもや隠蔽能力を用いて領主の館に足を踏み入れる。
以前よりは物々しい雰囲気は和らいでいるものの、相変わらず厳つい兵士たちの姿にヨシヤは逃げ出したい気持ちになりつつ領主の部屋へと足を踏み入れた。
領主の部屋は、そう変わった様子もない。
ただ、あの時の手紙が壁に貼られていることに気がついてヨシヤは驚いた。
「へ……へぁぁ……」
そして弱々しく声をかければ、弾けるように領主が顔を上げる。
見開かれた目が怖くて思わずヨシヤは一歩後ろに下がったが、決して顔は背けなかった。
視線を合わせていたとは言わない。仮面様々である。
「……貴殿は……そうか、来てくれたのか」
「ヘアッ」
「尋ね書きを見たのか? あれにも記したが、わしに貴殿を害するつもりはない。少し話をしたいのだが、……会話は難しいか」
「ヘアアッ!」
「む?」
ヨシヤはこんなこともあろうかと先に用意して置いたスケッチブックを取り出して領主の前に突き出した。
「……筆談で、お願いします……?」
「ヘアッ!」
「ふむ、なるほど。ではそこに座ってくれい。飲み物は……その様子では必要ないかな」
思いの外、穏やかな声になって薄く笑みを浮かべた領主はどうやら友好的な存在らしい。
ヨシヤはそっと心の中で胸をなで下ろしつつ、勧められるままに椅子に座った。
まだ油断はできないと考えつつも、領主を見て思う。
(多分微笑んでくれているんだろうけど、顔が怖いんだよなあ……!!)
意外とヨシヤは失礼なおっさんであった。




