『火球』を『はみ出る毛』と詠唱しないといけない世界で転生したムダ毛フェチが妄想力で英雄になる話
ギャグです。
エロ(言葉だけ)です。
下らない事、大好きです。
【詠唱~前編~】
●セイジョウ学園/魔法訓練場
「いくぞ! 『はみ出る毛』ッ!!」
――また、この日が来てしまった。
「はい、いいでしょう。次の人」
「はい! ふ~……いきます! 出よ! 『はみ出る毛』ッ!!」
「君、意気込みはわかりますが……出よなんて言葉はいりません。マナを感じ、火球をイメージすればいいんです」
「わかりました、先生」
「よろしい。では次の人、前へ」
「――はい、先生」
と、小さな肩を落とす少年。
渋々ながらも教師の前に進む。
妙に元気がないその男子生徒。
横にいた教師が、手元の成績表から目を離す。
「えっと……キヨシ君だったかな? どうしたのかね? 体調でも悪いのかね?」
「え、あ、いえ……大丈夫です先生……お気遣いありがとうございます……」
正直、体調よりも気分が重くて仕方ない。
それもそのはずだ。
過去に現実逃避で1度は憧れた、異世界転生。
前の世界では平々凡々な彼が訪れたのは、魔法が存在する世界。
他人の――しかもなぜか子供の身体を依り代に転生してしまう結果にはなったが、今のところ、なんとか生き抜いている。
そんな最中、この異世界へ転生してきて早1週間。
彼は――この世界ではキヨシ――ある悩みを抱えていた。
「まさか……手から火球を飛ばせないのですか? 貴方は入学テストでもしっかりと飛ばしていたと思いますが……?」
「……いえ、出せます。少し気後れしていただけです……」
それなら問題ないですね、と教師が促す。
半ば、嫌々ながらに白線まで進むキヨシ。
数メートル先に佇む的。
それに細い右手をかざす。
「……『はみ出る毛』……」
――キヨシの悩みとはコレの事である。
いくら魔法が飛び交う世界を憧れたとしても、まさか初級呪文でコレはないだろう。
案の定、集中力が欠けている状態では呪文は成立しない。
手の平からマナが霧散し、呪文が失敗に終わる。
「んー、もう1度いけますか?」
と、教師がペンで頭をかく。
火球が飛ばなければ、採点しようがないと判断したからだ。
――また変な呪文を唱えるのか。
心の中で愚痴を漏らすキヨシ。
「キヨシ君。まずは周辺に漂うマナを感じなさい。それを手の先に集めるイメ―ジ。そして集めたマナが、燃える火の玉に変わるイメージを起こすのです。これは火球に限らず、呪文の初歩中の初歩なのですよ」
「はい、先生」
どの世界に、こんなイカれた呪文があるのだろうか。
この世界では、当たり前の事でも。
キヨシが暮らしていた元の世界では、下ネタのような言葉だ。
いくらムダ毛フェチのキヨシでも、限度はある。
彼にとって、妄想する事と単なる言葉では雲泥の差なのだ。
こんな情緒もない『はみ出る毛』という単語に、誰が興奮するものか。
「………………」
――はみ出る毛。
そういえば、とキヨシは連想する。
元の世界に置いてきたエロ漫画の1ページ。
陰毛を忠実に描くと評判の、キヨシの中でイチオシの漫画だ。
登場する女性キャラクターの脇毛が、頭をよぎる。
自称、ムダ毛フェチ研究家として捨て置けない1ページだ。
――あれは最高の、ムダ毛だったな。
と、鼻の下を伸ばしながら呪文を唱える。
「むふ、『はみ出る毛』」
途端、肌を焦がす熱風と轟音。
教師の髪が熱風で逆立ち、ペンが勢いよく飛んでいく。
青々しい芝生は直線に消え、的の辺りで途切れている。
だが、向こうの的は跡形もない。
燃えカスとなって消えてしまったようだ。
唖然と。
ただただ唖然と、剥げた芝生を見つめる教師と同級生。
「……あ、でもやっぱり『はみ毛』っていえばアンダーヘアーも捨てがたいな、水着や下着から出てる時なんかもう……むふっ」
刹那、キヨシの右手に集まり始めるマナ。
それも高密度、凝縮に凝縮を重ねた上級魔法に匹敵する力だ。
キヨシ自身、ムフフな妄想をしている。
だが、どんな妄想をしているか、その範疇はお任せする。
暴力的な光の塊が、炎の姿を模していく。
その火の粉は、教師の目を焼きそうになる。
次第にマナは、太陽のような姿に変わった。
「キ、キヨシ君ッ!? その呪文を止めたまえッ!!」
「……へ?」
素っ頓狂な、声変わりもしていない声。
詠唱者の気が反れたのもあり、太陽の塊が弾ける。
芝生に燃え移る前に、マナとして霧散する。
「き、ききき、君は何をしたのか理解しているのかね!?」
「え……何かいけない事でもしました、ボク……?」
「突然、中級クラスの火球が出てきたと思えば……神聖な呪文を略しそれ以上の呪文を出そうとしていたのだよ君はっ!?」
「え、そうなんですか?」
妙に疲労感があるのはそのせいだろうか。
「いわれた通りにしただけなんですが……」
確かに『はみ出た毛』という火球を飛ばす呪文を出したつもりだ。
だが、お気に入りだったエロ漫画の妄想のせいもあり威力が底上げされたようだった。
加えて、その呪文をいわゆる『はみ毛』という略したおかげでさらに威力が上がったらしい。
興奮する教師いわく――
今まで見てきた上級呪文よりも、強大な力の行使だったそうだ。
類を見ないほどのその力は、国の中でも指折りのそれらしい。
「……はぁ……」
と、教師の力説を聞いた後にはそんな返事しか出なかった。
とにかくキヨシとしては――
「ただエロい妄想をして、ただ略しただけなんだけどな……」
この世界の道理は、よくわからない。
そう思うキヨシだった。
【絶望~後編~】
●セイジョウ学園/魔法訓練場
火球を生み出す呪文がある。
他にも水や風を生み出す呪文も存在する。
「『つややかな毛』」
キヨシ、右手を天に掲げて唱える。
他の生徒では、拳ほどの透明な水が形成される。
そして手の平で、水の塊が浮いている程度。
――だが、ご存知の通り。
キヨシの呪文はその域を凌駕している。
「すげーッ! 出てきた水が滝のように上ってく!? こんなの見た事もないよッ!?」
「キヨシ君ってまさか魔法の才能があるんじゃないの!?」
沸き立つ、生徒たち。
「まぁこんな感じかな」
と、教師に薦められ、水の呪文の手本を見せつける。
「ねぇどうしたらそんな水の量が出せるの?」
「んー、まぁイメージの力かな。皆も練習すればできるようになるよ」
言葉を濁すキヨシ。
イメージの力と例えたが、実のところ、妄想力に他ならないからだ。
彼がいた、元の世界で培ったエロい妄想。
それが彼の呪文の原動力となっている。
ちなみに水を生み出す呪文の際。
ローションで濡れ羽色に輝くアンダーヘアーが、キヨシの頭の中を占めていた。
本当に、エロ本サマサマである。
さらに過激な妄想を展開すれば、もっと呪文の規模や威力が上がる。
自らの呪文ゆえに、すえ恐ろしくなるキヨシ。
全ては彼の妄想力が物語っているのだから。
「よし、オレもやってみるぞー!」
「あ、待ってよ。私も頑張るんだからぁー!!」
他の同級生たちが練習をし始める。
だが、上手くいかない。
それも道理だろう。
彼らはまだ小学生ほどの、年端もいかない少年少女。
想像力は豊かでも、エロい妄想力は皆無だ。
口で説明しようにも、ほとんど見た事ない事ばかり。
親のそれを見た事があっても、欲情などするはずもない。
したがって、呪文を強化する方法。
妄想力を駆使して威力を上げる方法は、キヨシだけのオリジナルともいえる。
「キヨシ君。次は風を起こす呪文を皆に見せてくれないかな?」
教師の指示通り、次は風の呪文を唱えるキヨシ。
こんなチートともいうべき、裏技を知ってしまった彼はあれ以来、学園の教師や生徒から一目置かれるほどになっている。
今もそうだ。
下級呪文にそぐわない、常識はずれな呪文に皆が歓声を上げる。
訓練場だけではない。
この魔法の授業になると、校舎の至る所からキヨシを眺める人間が増える。
それを見越して教師を矢面に立たせてくるため、目立つ事、この上ない。
「『縮れて伸びた毛』もとい『縮れ毛』」
おお、という黄色い反響。
この世界では、呪文の簡易詠唱は問題外らしい。
呪文は神聖な、創世神から授かり物。
そういった概念のため、省力した言葉は好まれない。
だが、今の現状。
キヨシの妄想力や略語によって、呪文の常識を覆しているのだ。
「…………はぁ……まだ終わらないのか……」
辟易するキヨシ。
でも、と反芻する。
「この授業が終われば……うふッ」
今日は、高等部の健康診断の日だ。
隣の校舎では、順次、若い女学生たちが絹のような肌をさらしている。
前もって、高等部の更衣室へ忍び込む道のりは下調べが済んでいる。
更衣室のロッカーに入り、こっそりと隙間からその柔肌を覗こうというのだ。
どうせ見つかっても、今は子供の身体。
大の大人ならともかく、なんとでも言い逃れができる。
「むふ……久々にムダ毛フェチの血が騒ぐぜ……」
――しかしこの後、彼は絶望する。
この国の女子は、皆、パイ〇ンである事に。
宗教上の都合により、生えてくるムダ毛は神に捧げる物。
脇も、乳首も、胸も、ヘソも、スネも、陰毛も。
キヨシが求める、ムダ毛とは無縁。
キヨシが求める、ロマンとは無縁。
キヨシが求める、興奮とは無縁。
そう、彼はこの世界では英雄の気質はあれど――
ムダ毛フェチである彼にとって、地獄のような世界でもあったのだ。
読了、ありがとうございました。
中二病、思春期などが相まってる感じが伝わっていただけていると幸いです。
個人的にはムダ毛フェチを、もっとケレンミ出せればよかったと後悔しています(汗)
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