鉱石の街①
「はぁ······いきなり走り出すとは何事だ。待てと言ったら待て」
「うぅ······ごめん······」
俺が言うと、アンリは頭を下げて謝る。
「もういいよ、ミラーレには着いたし」
そう、追いかけても追いつけないと思った俺は結局、中級強化魔法『ラピド』という対象の素早さを上げるというものを自分に使ったのだ。
そしてやっと追いついたと思ったら、そこは既にミラーレだったのだ。
何を言っているかわからねーと思うが、俺も何を言っているかわからねー······。
まさにそんな状況なのだ。
「さ、早く宿に部屋とりに行こうぜ」
俺がそう言い、二人で宿に向かって歩く。
「あ、そういえばなんだけど、なんでトウヤはミラーレを目指してたの?」
やっと訊かれたぜ······。
旅の途中に訊いてほしかったぜ。
「そうだな、ここで鉱石買って、次の街で武器を作る」
「武器ってことは、次の街はファリケですか?」
「正解だ」
俺がそう言うと、アンリは腕を上げてガッツポーズをする。
製造・製作の街『ファリケ』。
武器の製作や、その他いろいろなものの製造というように、何かを『つくる』ことに関してはプロフェッショナルが集まる街だ。
だから頼めばスマホとか作ってくれるかもしれない。
無理だろうけどな。
「ここでは上質な鉱石を手に入れるために来た。お前も武器とかいるか?」
「あー······私は······」
そういや戦えないの忘れてた。
「すまん、忘れてくれ。まぁ鉱石は買ってやるさ。アクセサリーとか作ればいいだろ」
うん、それなら問題ないだろう。
「あ、ありがとう、ございます······」
あれ?なんで顔赤くしてんの?
というかこいつ絶対俺に惚れてるよな。
自意識過剰とか言われるかもしれんが、いつも距離が近い気がする。
好きでもないやつにそんなに近づかんだろ、知らんけどさ。
「おっ、ここが一番でかい宿か······部屋どうする?同室にするか?別にするか?」
「ええっ!?えーっと······わ、私は······どっちでもいい、よ?」
この反応、これを見てアンリの気持ちに気づかないやつはいないだろう。
気づかないやつは鈍感とかいう次元じゃない。
「なら別でいいか」
俺はそう言い宿に入って受付に向かう。
「あっ······うん······」
アンリは悲しそうな声を出す。
さすがに同年代だと思う女と同室はヤバい。
俺の判断は間違ってないはずだ。
······と思っていたのだが······。
「何故こうなっているんだ······」
なんと一人用の部屋がなかった。
そして二人用の部屋が一つだけあったのだ。
そうなればそこから先は自然な流れだ。
俺とアンリは同じ部屋となってしまった。
俺は荷物を机の上に置き、ベッドに座る。
······というか、ベッドは一つしかねぇんだな······。
ちなみに荷台は宿の大型荷物スペースというところに置いてきてた。
その名の通り、部屋に持ち込めない大きい荷物を置く場所だ。
「え、えっと······鉱石!鉱石買いに行こうよ!」
少し慌てたような様子でアンリが言う。
「······おう、そうするか······」
俺は立ち上がり、アンリと共に部屋を出る。
「アンリー、お前ってさー、髪伸ばさないのか?」
アンリの髪型はショートヘアだ。
学校では髪を伸ばしてる方が多かったから、ショートヘアは珍しかったのだ。
だから単純に伸ばさないのか気になった。
「うーん······私には似合わないよ」
「そんなことないと思うけどなぁ」
アンリはどこか抜けてる性格以外、だいたいいい感じなのだ。
だから普通に似合うと思うのだが······。
俺は髪を伸ばしたアンリの姿を想像する。
「············うん、いい」
「えっ、と······何言ってるの?」
おっと、口に出ていたようだ。
「いや、なんでもない」
「そ、そう?それよりさっきのはどういう······」
「さっさと行くぞー」
「あっ、待ってよー!」
アンリが何か言っているのを無視して、俺達は鉱石を売っている店を目指して宿を出た。
新しい街に来ましたね。
しばらくはここで話が進みます




