彼女の心情
私は勇者の生まれ変わり。
いつからそんなことを言い始めたのだろうか。
忘れたことなどない。
それは私がまだまだ幼かった頃、嫌なことがあって死んだ白くて長い神が綺麗だった、本当のお母さんに慰めてもらってた時のこと。
「ぐすっ······ママぁ······」
「よしよし、大丈夫よ。アンリは強い子」
私は小さい頃、お母さんと同じこの白い髪のせいでいじめられていた。
化け物、なんて呼ばれ、石を投げられ泥を被り······そんな生活だった。
そんな私の唯一の味方、それがお母さんだった。
でも、そんなお母さんは病にかかり、寝込んでしまった。
日に日に激しくなる私への罵詈雑言。
私はついに耐えきれなくなり、村から出ていった。
日が暮れ、帰るに帰れなくなった私は、木にもたれかかって座っていた。
そんな時だった、私の名前を呼ぶ声が聞こえたのは。
しかもその声は寝込んでいたお母さんのものだった。
私はその声がした方に走った。
その先にはお母さんがいた。
「アンリ······!」
「ママぁ······!ママぁ!」
私が泣きながら近づくと、お母さんは私を優しく抱きしめてくれた。
「アンリ······!無事でよかった······!」
「ごめんなさい······!ママに······ぐすっ······無理させちゃって······!」
「大丈夫よ······ゴホッ······私は、強いのよ」
その時の私はそれを聞いて安心していたが、今思えばかなり無理をしていたのだとわかる。
「アンリ······勇者のお話、覚えてる?」
「うんっ」
勇者のお話、それはお母さんが寝る前に私に話してくれた物語。
勇者は勇敢に魔王に立ち向かい、勝利し、世界に平和をもたらした。
それが私にしてくれていたお話。
「アンリ······あなたは強い。勇者なんかより、ずっと、強くなれる」
「本当?」
「ええ、本当よ。······だってアンリは、勇者の生まれ変わりだもの」
私はそれを黙って聞いていた。
そうしなきゃいけないと、直感で理解できていた。
「皆がそれを、否定するかもしれない······ゴホッ······でも、私は······アンリのお母さんは信じているわ······」
「ママ······」
「だから、アンリ?負けないで、勝てなくても、アンリが諦めない限り、負けることだけはないわ······」
「うんっ······わかったよ、ママ」
「ハァ······ハァ······帰り、ましょうか、アンリ······」
「うん······」
その日以来、私は何をされても、何を言われても、勇者の生まれ変わりだと言って耐えてきた。
勇者は最後まで、凶悪な存在である魔王に立ち向かった。
それに比べれば、私がされていることなんて屁でもない。
そう思えば、泣かずにいられた。
勇者の生まれ変わりを名乗り始めて数年、私は立派になった。
お母さんは死んでしまい、本当のお父さんは村を出ていったが、八百屋の老夫婦が私を引き取ってくれた。
それから私は、村のためになろうといろんなことをした。
店の手伝いや他の街へのお使い······とにかくいろんなことをやった。
私も周りに認められ始めたけど、まだそうではない人もいた。
当たり前だよね。
この白い髪は、皆の黒い髪とは全く違うし、そう思うのも仕方ないよね。
そんなことを思いながらも、私は村のためにいろんなことをしていた。
そんな時だった。
魔物が現れたのは。
それを聞いた私は、すぐに準備をして、魔物が現れた畑に向かった。
その途中に彼に出会った。
食料を売ってる場所を訊いてきたけど、魔物が現れたから無理だと伝えると、面倒くさそうな顔をした。
面白いと思いながらも、私は自分で魔物を追い払うと言った。
すると彼の顔が驚いたような表情になった。
面白くてもっと話したいと思っていたが、走って畑に向かった。
そして私は後悔した。
魔物がとても恐ろしいということを知らなかった自分を恨んだ。
一度引っ掻かれただけで、恐怖で動けなくなってしまった。
そんな時、私を助けに来たのが彼だった。
彼は慣れたような動きで、次々と魔物を倒していった。
帰りに私を運んでくれたけど······あ、あれってお、お姫様抱っこっていうやつなんじゃ······。
······次の日には、彼が店にやってきた。
彼は『ドゥースュレ』という果物を大量に買うと言った。
持ち運びに困るだろうと、条件付きで荷台をあげると言った。
なんであんな条件を出したんだろう······顔が熱くなるよ······。
結局、連れていってくれなかった。
だけど私は諦められなかった。
諦められるはずがない。
私は今のお父さんとお母さんに、私の彼への想いを全て伝えた。
「私は彼について行きたい」
そう言ったのだけど······思いだすとなんだか恥ずかしくなってくる。
言った直後、二人は私を見て微笑んでいた。
ああもう!恥ずかしいよ······!
最終的に連れていってくれたけど······顔が熱い。
赤くなってないよね?
······私、彼への気持ちを自覚してるはずなのに、それを伝えられない。
どうしてだろう。
······でも、いつでも時間はある。
伝えられると思った時に、伝えられればいいな。
「おーい、休憩は終わりだ。さっさと行くぞー」
「あっ、うん!」
彼が呼んでいる。
早く行こう。
彼についていけるだけで、私は幸せ······な気がする。
「ここからミラーレまではあと四日ほどでいけるか······?」
「私、頑張るよ!」
「おーなら休憩をもっと少なくしてくれ。それだけで変わるからな」
「うっ······善処するよ······」
うぅ······足を引っ張るのだけは嫌だなぁ······。
「とりあえず······できるだけ休憩はなくして行くぞ。わかったか?」
「わかったよ!ほらほら早く行こう!」
私はそう言って荷台を引きながら走る。
「あーもう······足元気をつけろよー」
「わかってるって!」
いろんなことを考えて整理したけど、これだけは絶対に言える。
私は、トウヤが好きだ。
トウヤに注意された後、すぐにこけてしまったのは内緒で······。
セリフが少ない気が······




