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始まったばかりの旅

俺は朝早くに目を覚ます。

時計がないので詳しい時間はわからないが、多分五時くらいだろう。


「さてと、さっさと行くか」


俺は残っていた果物を食べながらそう言う。

果物を食べ終え、身支度を整えてすぐに宿をでる。

宿代は前払いだ。

ちなみにこの時間なら日本では二四時間営業のスーパーやコンビニくらいしか開いてないが、この世界では皆早起きなので、この時間にはだいたい店は開いている。

なので、俺は八百屋に向かい、果物を買う。


「すみませーん、これくださーい」


「はいはーい······って君は!」


店の奥から出てきたのはなんと、アンリだった。


「アンリか、ここで働いてたんだな」


「うんそうだよ。君は食料を買いに?」


「ああ、この果物をあるだけ持ってきてくれ」


「なかなか無茶なこと言うね······」


アンリはそう言って苦笑いする。


「問題ない、金ならある」


「なら······あ、やっぱりお金はいいよ」


ん?場合によっては店が潰れかねない提案だぞそれ。


「この果物、全く売れないんだよね。だからこのまま腐らせておくくらいなら、全部持ってっちゃって」


「願ってもないことだけど······なんで売れないんだ?美味いのに」


「いやぁ······そうなんだけどね?皆甘すぎるってさ······」


確かに甘いが、そんなに言うほどか?

俺の味覚がバグってんのか?

······いや、美味いものは美味いんだ。

否定されようとそれは変わらん。


「それより、持ち運びはどうするの?かなり量あるけど」


「持ち運び······考えてなかったな······」


収納魔法とかないか移動中にレックスから訊いてみたが、ないと言われたよ。

都合よくいかないものだ。


「んー······よかったらうちの古い荷台持ってく?条件付きだけど」


そんなこともなかったようだ。


「そりゃありがたい提案だ。で、その条件って?」


俺がそう訊くと、アンリはとてもいい笑顔を浮かべる。

······あっ、碌でもないやつだこれ。


「条件は、私を旅に連れていくこと!」


······絶対に無理なやつじゃねぇか······。

正直昨日のあれを見てアンリを連れていきたいという人はいないだろう。

魔物相手に恐怖で座り込んでしまうようじゃ、とても無理だ。


「駄目······かな?」


アンリは俺を上目遣いで見る。

······断りづれぇ······。

断りでもすれば泣きだしそうだ。

夢見がちではあるが、頭は悪くないと信じて何が理由で駄目なのかキッチリ伝えて諦めてもらおう。


「残念だが、魔物の前で座り込んでしまうようじゃ着いて来れないぞ。俺だって目的があって旅をしている。アンリのような普通の人間を連れていく余裕はないんだ」


「駄目って、ことですか······」


俺の言葉を聞き、アンリは表情を暗くする。

やっぱりこうなるよな······。

俺だって仲間は欲しいと思ってる。

一人旅もいいが、何人かでワイワイするのもいいと思う。

でもアンリは駄目なんだ。

俺についてきたら確実に死ぬ。


「ああ······アンリには普通の暮らしてほしい」


なんだかキザったらしい言葉だが、そう言うしかない。


「わかり、ました。最後に名前だけでも······」


「それくらいなら。俺は一之瀬統哉だ。また、機会があれば、な」


俺はそう言い、果物を三〇個ほど袋に入れ、その分の代金を置いてその場から立ち去る。

二度と会うようなことはない方がいい。


───────────────────────


俺は村から出て、最初の目的である鉱石の街と呼ばれている『ミラーレ』に向かって歩いていた。


「おーい!」


そんな時、後ろから少し前に別れを告げた人の声がした。


「待って!」


俺が振り返ると、そこには沢山の果物を積んだ荷台を引っ張っているアンリがいた。


「はぁ······はぁ······私も行くよ!」


「俺は言ったはずだ。余裕はないって」


「でも······こうも言ったよね?機会があれば、って。今がその機会だよ!」


······なかなか頭が回るようだ。


「ははっ、これは一本取られたぜ。でも大丈夫なのか?家族とか」


「全部話してきた。行ってこいって言われちゃった」


アンリはそう言って顔を赤らめる。

······ん?なんで赤くなってんですか?


「······そうかい、なら好きにしてくれ。俺は旅の仲間が欲しくなってきたところだ」


俺がそう言うと、アンリの表情が明るくなる。


「じゃあついていくよ!荷物持ちは任せて!こう見えても力には自信があるんだ!」


「それはさっき見たから知ってる」


俺がそう言うと、アンリはきょとんとする。

いやさぁ、荷台に大量の果物乗せて走ってきたんだからさ、それくらい察しはつくよね。


「まぁとにかく······これからよろしくな、アンリ」


「うん!トウヤ!」


アンリはそう言い、満面の笑みを俺に見せた。

次回はある人の視点になります。

わかりますよねそうですよね。

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