プロローグ〜ろくでもない始まり〜
俺は一之瀬統哉、普通の高校生だ。
「とりあえず転生させるから待っててくんない?」
「······は?」
······こんなことになる前までは······。
何故自分がこのような変なことを聞かされていたのか、それは多分2時間ほど前の出来事が原因だろう。
────────────────────────
俺は日曜日の昼頃、新作のゲームを買うために出かけていた。
「欲しいもんは買えたし、さっさと帰って遊ぶかー」
そんなことを言いながら歩いていた。
途中で信号が赤になったので、立って青になるまで待っていた。
その時だった。
後ろから突き飛ばされたのは。
最後にこんな言葉が聞こえた。
「あなたが悪いのよ」と。
俺は慌てて戻ろうとするが、すぐに横からトラックが迫ってきて───
「───そのまま死んだ、ってことか······」
誰もいなくなった暗い空間で、俺はそう言う。
「誰が俺を突き飛ばしたのか······明らかにあいつだよなぁ······」
俺を突き飛ばした犯人。
それに思い当たる人物が一人だけいた。
そいつは俺に告白してきたやつなんだが、どうも変な宗教にどっぷり浸かっているようだった。
教室で机に座って何かを書いているかと思ったら、それは宗教の教えだったり······誰かに話しかけたと思ったら、それは布教だったり······。
とにかくヤバいやつとしか言えなかった。
そんなやつが俺の何に惚れたのか知らないが、突然教室で告白された。
勿論、丁重にお断りした。
理由は先程述べた通りだ。
フッてから時々死にかけることはあったが、全部あいつの所為だったんだと考えると全て納得いく。
「······でもなぁ······なんで殺そうとするんかねぇ······」
それだけがわからない。
納得はいく。
しかしそれでも殺そうとする理由だけはわからない。
そもそもあんなやつの考えていることをわかりたくない、というのが本音だ。
「······おっせぇな······あの自分のこと神とか言ってたやつ」
何が「待っててくんない?」だよ。
待たせんなら娯楽とか用意してくれよ。
3DSのゲームでもいいからさ、今からでも持ってきてくれよ。
そんなことを考えていると、上から紙とペンが落ちてくる。
「······?『転生許可証』······?」
その紙にはそんなことが書いてあり、その下には名前とその他諸々の住所と電話番号と郵便番号以外の情報を書く欄があった。
「めんどくせぇけど······書かない限りここから出られねぇよなぁ······」
俺は落ちてきたペンを持ち、必要なことを記入していく。
すると紙に、裏を見ろと言う文字が浮かび上がった。
紙を裏返して見る。
裏にはこんなことが書かれていた。
「『これから転生する世界は剣と魔法の世界です。とりあえず剣術と魔法の適性は全部上げとくのでガンバガンバ』······」
俺はそれを読み上げて、すぐに紙を丸めて思いっきり投げた。
「······はぁ······なんだあの巫山戯た文章はよ······」
俺はあぐらをかいてそう言う。
ガンバガンバってなんだよ。
剣と魔法の世界ってどんな世界だよ。
ドラクエか?
『ガンガンいこうぜ!』じゃどうにもなんねぇだろ現実なんだし。
······話がズレたか······。
とにかくどれだけ待てばいいんだよ。
かれこれ4時間は待ってるぞ?
そう思っていると、デジタル時計が近くに現れる。
······いやなんでだよ。
俺はそう思いながらも時計を見る。
「な······っ」
その時計には信じられないことが示されていた。
俺は4時間しか経ってないと思っていた。
しかしそれは間違いだった。
時計に示されていた時間、それは二〇六〇年────。
俺がここに来る前は確かに二〇二〇年だったはずだ。
体感では4時間しか経っていないのに、だ。
「······いや、死んだ俺がそんなこと気にしても意味ないか······」
そんなことを言って俺は横になる。
「······寝よ」
最後にそう言い、俺は目を閉じて眠った。
────────────────────────
現在時計には三〇二〇年と示されている。
4時間経ったと思った時点で四〇年経っていたということは、一〇〇時間、つまり4日と3時間この何も無い空間で過ごしたのだ。
腹が減ることは無いが、今すぐにでも食べ物が欲しかった。
「あー······っ、駄目だ······、まじで······キッつい······」
本当に気が狂いそうだ······。
たった4日何もできないだけでこんなになってしまうなんてな······。
そんなかなり限界な時だった。
「っ······なんだこれ······」
俺の下の床が突然光り始めた。
光で魔法陣?というものが描かれ始め、光はさらに強くなった。
「ああ、そうか。やっとか······」
こんなになるまでよく放置してくれたな、と俺は思う。
それと同時にやっと解放されるという安心感があった。
浮遊感を感じた俺は目を瞑り、転生が完了するのを待つ。
────────────────────────
浮遊感がなるなると同時に俺は目を開く。
そこは想像していた中世のような街並み······ではなかった。
「は、え、何これ」
そこは想像していたものと一八〇度違っていた。
周りを見れば高いビルが建ち並んでおり、空には飛行機が飛んでいる。
つまり───
「まさか······魔法、消えた······?」
───完全に日本より発展している世界だった。
これからよろしくお願いします




