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08 遭遇

いつもご覧いただき、誠にありがとうございます!

ブックマーク、感謝です!


次回は別人物の視点になります。


 西の街道への道中の休憩地点は、森を抜けた先の小さな丘の上だった。その丘を下った先に、街道との合流地点が見える。


 ここは街道との合流地点前でもあり、近くには小川や草木もあることから、馬たちへの補給はいつもここで行われているのだとグルムントが教えてくれた。


 ジュリアたちも一団の最後尾として丘の上に到着すると、ひとときの休憩を取るために各々が準備を始める。


「まあ、今日は順調なもんだな」


 起こした火にあたりながら、グルムントがそんな安堵の溜め息を漏らした。


「そうなんですか?」


 グルムントから渡されたスープに口をつけながら、ジュリアは首を傾げる。

 午前中とはいえ、風避けのない御者台は彼女の身体には些か堪えていたからありがたい。


「最近では、昼夜問わず街道付近にまで魔獣が出没するようになったんだよと」


「……物騒ですね」


 ジュリアは村からの出立前に、耳にしたことを思い出した。


(そう言えば、前に村長が隣村まで呼び出されたのも〝魔獣が出没するから、入山時は気を付けろ〞って勧告を受けたからだったような……)


 大きな街道にまで出没するとなると、魔獣たちは人間に慣れているのかもしれない。

 もしその中の一体でも人を襲った経験があれば、人里や街道での被害は尋常ではないはずだ。


 続くグルムントの話では、依頼を受けた傭兵や組合ギルドの人間が、魔獣の討伐に当たっていることから、今はそこまで大きい被害は出ていないという。


「だから、今回あんなに護衛がついているんですね」


 遠巻きからジュリアたちの会話を聞いていたのか、フィルマインが小川から水を汲んで戻って来るとそう納得の声を上げた。


 肩まである落ち着いた色合いの金髪を後ろで結んでいる彼は、今年で十二になると言っていた。しかしまだ声変わりをしていない彼は、伸びていない身長も合間って、一見して女の子のようにも見える。


 ジュリアはフィルマインから水を一杯だけもらい、マラトアの葉を入れた手持ちの小鍋へと移して火にかけた。


「ああ。何てったって、あの中に次期聖女様がいらっしゃるかも知れないんだからな」


 グルムントが乗り合い馬車へ目を向ける。

 乗り合い組合ギルドの馬車は全部で三台。その合計の乗車人数は、ざっと数えて五十名弱というところだった。そしてそのうちの半数以上が、ジュリアと同年代の少女たちだ。


 今は彼女たちも馬車から出て身体を伸ばしたり、談笑している姿が伺える。


 ジュリアと同じように、彼女たちへ視線を向けていたフィルマインがグルムントへ訊ねた。


「聖女さまの子孫って、そんなにたくさんいるものなんですか?」


「詳しい話は俺も知らんが、当代の聖女さまで五十代目というのだから、引退された方々の子孫は相当いるだろうな」


 「すごい数ですね」と驚くような声がフィルマインから上がる。


「今回は優秀な騎士殿たちがいるんだし、道中は大丈夫だろうがな」


「……」


 ジュリアはスープを口に含み、二人の会話を黙って聞きながら、あることを考えていた。




 異変が起きたのは、そろそろ出発しようかという時。


 片付けをしていたジュリアたちから程近い――背後の森の入口から少女たちの甲高い悲鳴が聞こえた。続けて、男の大きな声が上がる。


「きゃー!」


「魔獣だ! 魔獣が出たぞーっ!」


 それにいち早く反応したのは、騎士団員たちだった。


「魔獣!? 何体だ!」


「馬車の乗客、ならびに人命の護衛を最優先にしろ!」


 中でも率先して指揮を執るのは、移動の際にジュリアたちへ声をかけてきた青年――フェルナンドだ。


「カトルとベールナは馬車の護衛に残れ! それ以外は私に続いて魔獣を打つぞ!」


 フェルナンドは淀みなく命令を告げ、魔獣が出た方向へ抜剣して向かう。


「えらいことになったな……」


 グルムントが馬車の用意をしながら頭を掻いた。

 出発が遅れる分はまだいい。しかしここで負傷者が出たら一大事だ。


(……確かめるなら、〝今〞しかないか)


 ジュリアは乗り合いの馬車の方を僅かに見やる。馬車の乗客は、ほぼ全員が揃ったようだった。


「……グルムントさんたちは、先に馬車へ乗っていてください!」


「おいっ! あんたは――」


「直ぐに戻りますから!」


 ジュリアはグルムントたちの制止を聞かず、最初に魔獣の出現を告げた声の方へと走っていった。


(あれか……っ)


 森の入口よりも少し開けた場所で、騎士団数名が一体の魔獣を取り囲んでいたのがその目に映る。


 魔獣は一見すると、猪のような姿をしていた。

 けれど、全身がまるで黒い染料で染められたような不自然に黒い毛で覆われていた。


 そして――


(……やっぱり、私には()()()()()()()()は無いわね)


 わかっていても、やはり少し悔しかった。


 ――もし自分にも聖女ハルミアと同じ〝世界〞が視えていたら……


 心に浮かんだ僅かな後悔を、ジュリアは押し止める。


(今はそんなこと言っている場合じゃないわ……)


 ジュリアは首を振って雑念を払うと、魔獣と対峙していた一人の青年騎士――フェルナンドへ向かって声を掛けた。


「フェルナンド様っ」


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