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07 護衛騎士の青年

いつもご覧いただき、ありがとうございます!

そしてまだま序盤ですがブックマークもいただき、多謝申し上げます!


「ほんとに、一晩であの量を選別するとはな! 見上げた根性だぜ!」


 ジュリアの寝不足な頭に、赤髪の商人――グルムントの快活な大声は余計にこたえた。


「……ありがとう、ございます」


 昨日、ジュリアはグルムントにひとつの提案を出した。


 それは、すべての積み荷を改めてブルムとマラトアの葉をすべて見分け、選別するという作業を自分が一人で引き受ける代わりに、翌朝向かうという王都へ一緒に連れていってくれないか、というものだった。


(十箱、全部終わって良かった……)


 結果。


 グルムントの徒弟であるフィルマインの手伝いもあって、無事に夜明け前までに十箱すべての内容を改め終わり、交渉通りにグルムントの馬車へ乗せてもらって、今に至る。


 グルムントの商会の馬車は、乗り合い組合ギルドの朝一の便と共に王都へ向けて出立していた。


 ジュリアと共に仕訳をしたフィルマインは、荷馬車の隅で爆睡している。

 王都への到着には半日を要するため、自分も仮眠を取らせてもらおうと口を開きかけた時。


「だがよ」


 御者台の隣に座るグルムントが、先に疑問を口にする。


「もし俺が〝お前を王都へつれていく約束なんてしなかった〞って約束を反故にしてたらどうしたんだ?」


 ジュリアは躊躇いなくそれに答えた。


「〝十箱のうちの一箱だけ、選別をせずにそのままにしました。その箱がどれかわかるのは私だけです〞と言ってましたね」


「なんだとっ!?」


 その言葉を聞いたグルムントが驚愕した声を上げ、後ろの積み荷に目をやる。


「冗談ですよ。全部選別済みです」


「脅かすなよ、ったく……」


 ジュリアは、グルムントが記憶の中のとある人物と重なって見えた。

 実際にはそれはカリエラの記憶だったが、その人物がグルムントと同じ赤髪だったこともあり、つい懐かしくなって彼の口癖を口にしてしまう。


「〝商人は信頼第一〞なんでしょう? だったら、口にした約束は果たさないと痛い目見ることになるって、あなたは知っているでしょうから。ね、グルムントさん」


「……良い性格してるな、嬢ちゃん」


「っ!?」


 ぼそりと呟かれた言葉に、ジュリアは先ほどまでの眠気はすべて吹っ飛び、目を見開いていた。

 仕草や声色、すべてに気を配っていたというのに、まさか、気付かれているなんて。


「おいおい。俺を商人って言ってた奴が何驚いてんだ。商人は人と人を繋ぐ商売。相手が男か女かわからんようじゃ、この仕事は勤まらんさ」


「グルムントさんの方がよっぽど良い性格してますよ……」


 男装している上に、王都へ急がなければならないという訳ありの少女。

 そんな少女のその言葉を信じて、グルムントは交渉に応じたのだ。


「……グルムントさん、絶対人生で損してきたでしょう?」


「何が損で得かなんて、後になってみないとわからんもんさ」


 裏表のない笑いが隣から聞こえる。


「それに、信頼されて裏切るよりも、信頼していて裏切られる方がずっと楽なもんだ」


「……そういうもんですかね」


 しかしジュリアは、その言葉を素直に受けとることが出来なかった。


 信じた相手に裏切られた時のあの絶望感。それが楽だったことなど、彼女の記憶の中にはありはしないのだ。


「なんのお話をされているんですか?」


 ふと、グルムントの隣から声が聞こえた。


「お、美男騎士殿。護衛、お疲れ様です」


 馬に跨がる青年。齢はジュリアよりも年上、二十代の前半ほどのように見受けられる。

 最低限な装備ではあるが、その出で立ちはまさに騎士だった。


「やめてください。王都より警護の増援で参りました。フェルナンド=スカイリーグと申します。以後、お見知りおきを」


 金髪碧眼の好青年は「馬上から失礼します」と続ける。彼は律儀な性格をしているらしい。


「いやね、こいつに商人の損得とはなんたるかを話していたところなんですよ」


「そちらは……」


「ジュ……ジュリアンです」


 どうも、とジュリアは昨日グルムントに名乗ったものと同じ名を口にし、軽く会釈を済ませた。


「それにしても、騎士の仕事も大変ですね。普段は王都の警備などをされているでしょうに、こんな田舎道の護衛などをされて」


 グルムントが、前を走る乗り合い組合ギルドの馬車を目で示し、青年騎士へ労いの言葉を述べる。


「いいえ。これも我ら騎士の立派な責務ですので。それに、もしあの中にいらっしゃる方の中から未来の聖女様が選ばれるのなら、その御方をお守りするのが私共の役目ですから」


 前方の馬車に視線を向けるフェルナンド。

 それは己に課せられた使命に、確かな誇りを持っていた眼差しだった。


「もうじき、休憩地点の丘に着くはずですので」


 そう言い残して、フェルナンドは離れていった。


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