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06 商人との交渉

いつもご覧いただき、ありがとうございます!


ブックマークも感謝です!

 

「ねえ、お爺さん。このポーションは、いくら?」


「それは最高級品の〈神殿製〉のハイポーションだからね。一瓶、金貨一枚だよ」


「……そう。そうだよね。ありがとう。これだけで良いよ」


 特に男装だと気付かれることのないまま、ジュリアは薬屋を後にした。


(やっぱり、どこも封緘シーリングはされているわよね)


 買い物がてら、店に並べられた数種類のポーションを横目で観察していた。


 別名を回復薬として世に出回るポーションは、それを生成する場所とその効能によって、値段が数倍に跳ね上がるものも存在していた。


 そしてどのポーションの蓋にも、国から許可を受けて製造している製造元を判別するための封緘シーリングが施されていた。それを確認することで、ポーションの性能レベルを判別出来るようになっているのだ。


 それは同時に、いくらポーションの生成方法を知っていて、実際に作ったとしても、封緘シーリングがなければ〝違法製造〞として神殿や教会へ報告されてしまうということでもあった。


 いつの時代も、甘い蜜をすするのは、特権階級の者たちという訳だ。


(これの出番は、当分は無さそうね……)


 ジュリアは鞄に潜ませていた三つの瓶をちらりと見る。

 封緘シーリングを偽造したとなれば、それはそれで重罪だ。


 その時。

 不意に、目の前を通りすぎるひとつの馬車に目が釘付けになった。


 それは商人の馬車と思われ、幌車の中の積み荷の木箱には特殊な印が施されていた。


(あの〝印〞って――)


 ジュリアの記憶ではない記憶が甦る。

 それは、医者の娘として生まれたカルエラの記憶だった。


(確か、あの時は随分と人が犠牲になったのよね……)


 薬が毒となった事件。


 それは、今から遡ること約六百年前に起こった、とある事件だった。


 カルエラは結果的に何十万人もの命を救うことに貢献したのだが、それを知る者は、今やこの世界には存在しない。


「おい! どうなってんだ! これは!」


 ジュリアは、突然聞こえた怒号に肩を震わせた。


 どうやら、今さっき見た積み荷を載せた馬車の方から放たれた声らしい。


(……まさか)


 ジュリアの胸が僅かに騒いだ。


「こんな混ざりもんがある状態で、明日出荷出来るわけないだろう!?」


 声をあらげていたのは、身綺麗な服装で長身、がたいの良い赤髪をした異国の男だった。


 一方その男に絞られているのはその徒弟と思われる少年で、外見から年齢はジュリアよりも二三年下のようだった。


「ちゃんと確認しなかったのか!? フィルマイン」


「し、しましたっ」


「じゃあ、何でこんな混ざりもんがあるんだ? 前に教えたよな!?」


「うぅ、すみません……」


 きっと師の正論に押し潰されそうであろうその少年の姿がいたたまれなくなり、ジュリアはつい声をかけてしまった。


 その少年が、どこか〝あの子〞に似ていたからなのかもしれない。


「あの……すみません」


「ああ?」


「もしかして、その積み荷の中身、ブルムの葉とマラトアの葉が混ざっていたのではありませんか?」


 ジュリアの言葉に、赤髪の男は一瞬だけ眉をひそめた。


「……なんで、それを」


「前に聞いたことがあるんです。一般的にポーションの生成で用いられるブルムの葉の中に、麻酔などの生成で用いられるはずのマラトアの葉が謝って混入して起こってしまった事故のことを」


 積み荷に記されていたのは、カルエラの記憶の中にあった、とある教会の〝印〞と同じものだった。


 つまりその積み荷の行き先は教会で、かつ大量の用途ともなれば、自ずと候補は絞られてくる。


「……」


「……」


 二人とも、口をつぐんでジュリアの言葉を聞いていた。


「葉の見分け方は先端が丸い方がブルム、僅かに尖って二股に別れている方がマラトア……ですよね」


「あんた、薬師かその見習いかなんかか?」


「はい。ベスク村のマーゼンを師にしております」


 つい先月まで手伝いをしていた師の名前を口にする。

 マーゼンという人物はあまり弟子を取るような人ではなかったが、ジュリアには何かと教えてくれていた。


 カルエラの生きた時代よりも先の薬学の知識は、彼から与えられたと言ってもいい。


 とは言え、この見分けの知識は前世の記憶がある云々の前に、薬学を納めるものにとって初歩中の初歩だった。


「どこから下ろした荷かは存じませんが、この二つの薬草の見分けは初歩中の初歩です。依頼した組合ギルドに抗議した方がいいですよ」


 男に許可をもらって積み荷を確認すると、確かに二種類の葉が混在していた。そんな内容の積み荷が、木箱で十箱。多すぎる。


 こんな雑な仕事をする者は、この薬学に携わってほしくない、というのが本音だった。


「……ああ。そうしよう」


 男は頷いたものの、深い溜め息を吐いていた。


「……何か問題でもあるのですか?」


「実は、これを明日の朝イチで王都へ向けて出荷する予定なんだが、このままじゃあな……」


 確かに、薬草は鮮度が命だ。ポーションの効果にも影響があれば、賠償問題だけでは済まされないだろう。


(……ん? 今、〝王都〞って……)


 ジュリアの脳裏に、ひとつの案が浮かんでいた。


 リミットは今日一晩。寝ずにやれば、間に合うはずだ。


 そしてジュリアは赤髪の男に向けて、手を上げた。


「あのう……ひとつ、交渉したいのですが……」


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