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03 願ってしまったやり直し

ご覧いただきありがとうございます!

 

 瞼の奥に、焼き付く光景。


 消え行く意識の中で、独り孤独に遺され絶望に染まる彼の顔を見たとき、ハルミアは不意に願ってしまった。


 〝出来るのなら、もう一度、はじめからやり直したい〞と。


『うーん。ごめんね? それは出来ないんだ』


 意識をすべて手放した後に訪れた暗闇の中では、身体がふわりと宙に浮かぶような感覚がした。


 その中で聞こえた、聞き覚えのある少年と青年の間のような声。


 いつの間にか目の前には、その声の主である〝人から忘れ去られた神〞がいた。


 姿は以前会った時と同じ少年だったものの、その表情は万年の時を刻んだ樹齢のように、深い淀みを帯びている。


 彼の神は、苦笑しながら彼女へ告げた。


時間ときを巻き戻すには、その間に紡がれたすべての因果の糸を解く必要がある。

 けれど、既に君たちは多くの人間や種族と関わり、その糸は膨大な量となって未来へと繋がってしまった。


 今の僕では、それらの絡み合ってしまったすべての因果の糸を巻き戻すには神力ちからが足りない。……残念だけれどね』


 ――ならば、どうすればいいのですか。


『そりゃあ勿論、過去の因果が解けないのなら、未来の因果を紡げばいいだけの話だよ』


 ――未来の因果?


『魂というのは、死んだら一度狭間の世界へと渡り、そこで浄められて、次の生へと巡る。


 これはすべての魂において言えることなのだけれど、君の場合は少し特殊イレギュラーでね。

 君はこの世界の神々から愛されているから、恐らくは、また神々(かれら)の祝福を受けて生まれることだろう。


 そうなれば、君はまた人々から聖女として敬われ、愛されて生きることになる』


 ――それでは、私は生まれ変わったとしても、また聖女として生きるということですか?

  それでは、あの御方とは永遠に結ばれない運命なのですか?


『……そんな悲しい表情かおして言わないでよ。

 まあ、このまま、聖女として生まれ変わるなら、そうなるだろうね。


 そこで一つ、君に提案があるんだ。ハルミア』


 ――提案?


『君を聖女たらしめているのは、神々からの祝福の他に、君が生前に積んできた七つの徳にも一因がある。


 そこで、だ。その七つの徳を代償に、僕が君に転生のまじないを授けてあげよう』


 ――転生の呪い?


『先ほども言ったけれど、本来、魂が死んで次の生へと巡る時には、その魂が刻んだ記憶を洗い浄める必要がある。


 だって、これまでの魂の持ち主とは違う人生を歩むのだから、当然だよね。


 けれど、君はまた彼に会いたいのだろう? そのためには彼のことを……強いては〝彼と共に命を絶つまで想い合っていた〞ということ自体を憶えていなくてはならない』


 ――そんなことが、可能なのですか?


『ああ。神様にも序列ランクがあってね。それを行うことが出来る《巡りの神》とは多生の因縁があるから、君が歩んできた生の記憶を次の人生でも憶えていられるよう、取り計らってあげよう。


 その代わり、君がこれまで積んできた徳を引き換えに貰うよ。

 機会チャンスは七度。一度転生させる度に、君から一つずつ徳を貰い受けるからね』


 ――それで、またあの御方に出逢えるのなら。


『よろしい。これで《契約》は成立だ。努々(ゆめゆめ)頑張ってくれたまえ。

 もし、君が本当に彼にまた会うことが出来たのなら、その時は――』




 そこでジュリアは目を覚ました。


「……」


 なんて懐かしい光景を視たのだろう。

 先程の夢は、すべての始まりであるハルミアが転生を受ける直前の記憶だった。


 ハルミアは生前、とある神と賭け事をして、勝ったことがあった。


 その時、一つ願い事を叶えてやろうと神は彼女に言ったのだ。

 けれどハルミアは〝そんなことで得た願いなどいらない〞と、はじめは突っぱね、気にも止めていなかった。


 ()()()までは。


「……あれから、六度……」


 〝はじめからやり直したい〞という願いの代案で与えられた、七度の転生の機会チャンス


 そのうち既に五度、別人として人生を送り、転生を繰り返してきていた。


 転生の機会を与えると持ちかけられたあの時以来、あの神には会っていない。

 ただ、こうして転生が問題なく行われているということは、彼の神に約束を守る気はあるのだろう。


「……着いたよ。嬢ちゃん」


 荷馬車を引いていた初老の老人に声をかけられた。


 道はここから二股に別れ、老人は故郷へと続く右の道に行くという。

 ジュリアが用のあるのは、反対のの左へと続く道だった。


「ここから東に半刻ほど歩いた先の町に、王都行きの乗り合い馬車の組合ギルドがある」

「ありがとうございます」


 老人は丁寧にも、いくつかある中でも一番馬車を保有しているという組合ギルド名を教えてくれた。

 ジュリアはもう一度礼を言って、示された道を歩いていく。


 今は昼を僅かに過ぎたくらいの時刻だった。


 道の両脇には畑が広がってはいるものの、収穫を控えた秋だというのに大地の女神の恩恵を受けているようには思えない有り様だった。


「どこの村も同じなのね……」


 広がる田畑の状況を目の当たりにして、嘆くわけでもなく、ジュリアはただ呟く。


 この国の西方に位置するジュリアの故郷のミース村も、決して豊かとは言えない。

 大陸全土で近年不作が続いているのは、本当のようだった。


「今日中にはセンブリースに着けるわよね。そしたらあれとあれを売って……」


 道すがら、ジュリアは今後の行動を決めていた。

 彼女が今目指しているのは、国内に五つある大街道のうち、一番近い西方街道の手前の町センブリースである。


 老人の話では、センブリースまでは歩いてあと半刻の距離にあるらしい。

 そこまで辿り着くことが出来れば、あとは馬車で安全に次の目的地まで移動することが見込めていた。


 六度目の人生(ジュリアスティア)としては初となる旅も、これまでの経験のお陰でなんとかなりそうだ。


 センブリースに着いた後に目指す次の目的地は、この国の王都――アンゼイルである。


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