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元救世の聖女は、かつて愛した魔王と再び逢うため六度人生を巡る  作者: 都辻空


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21 落ちこぼれ


「落ちこぼれ?」


 ジュリアは眉を顰めてシエナに聞き返す。


「……はい。私は東の国境近くのウィンデル出身なのですが、十歳になる年に五歳の妹が原因不明の高熱を出して寝込んでしまったんです。街の神殿からも神官様がいらして祈りを捧げてくれたのですが、それでも一向に良くならなくて。


 神官様が帰った後、妹は何日も生死の境を彷徨って、ついに“今日が峠だ”とお医者様から言われてしまいました。

 その時の私は心労で倒れた母の代わりにただ妹の手を握って、神様に祈ることしか出来なかったんです。ですがその翌日、不思議と妹の病状がよくなっていて……」


 自身の掌に視線を落としながら、彼女は後を続けた。


「それで両親は、私が聖女の神通力を発現したと思ったみたいです。


 私自身、小さい時から両親に『聖女に選ばれるような人間になりなさい』、『聖女の輩出は我が一族パートフェルムの悲願なのだから』と言われ続けていたこともあって、嬉しかったのは本当です。


 でも……それは最初だけでした。それ以降、いくら試してみても治癒の奇跡を使うことが出来なくて。

 本当のことを言うと、私はもう両親から期待されていないんです」


 今では、その妹の方へ期待が向けられてるという。


「じゃあ、どうしてあなたが聖女選抜この試験に?」


「試験の参加条件は満十四歳以上の聖女家系出身の女子のみで、パートフェルム家(うち)でそれに当てはまるのは私しかいなかったから。


 それに二代目の聖女ルシアナの直系ということもあって、特別な理由もなく条件を満たしているのに参加を拒否するのは体面が悪いと両親から……」


 ルシアナのことはよく覚えている。ハルミアが最後に立ち寄った街で仲良くなった少女の名前だ。


 各地を巡っているというハルミアに対して、自身も平和な世界を旅してまわることが夢だと語った少女は、ハルミアの死後に神の声を聴いて神通力ちからを授かり、救世の勇者を支え、平和への足掛かりをつくった聖女となった。


「そう……」


 くだらない。

 そう口から出かけて、ジュリアは言葉を飲み込んだ。


 どれだけジュリアがくだらないと思っていても、今隣にいる少女や彼女の人生を否定していいわけがない。

 それに世の中、綺麗事だけでは語れないということもジュリアは嫌というほど理解していた。


 だから、再び家名の者を聖女の座に就かせる、というシエナの両親や一族の願いを一概に悪だと思いはしない。

 ただ一族の悲願だからと言って当人へ過度な期待を寄せることや、そのあとに当人へ降りかかる重圧や重責について何一つ考慮していないのは、腹立たしいを通り越して呆れてしまう。


 そしておそらく、他の候補者たちもシエナと同様の経緯でここに来ているはずだ。


 一体、どれだけの重苦、重圧、重責なのだろうか。


 それは一重に、ただ一席の聖女という存在のため。

 そのために、自身の人生を捧げてもよいと考える少女たちがあんなにたくさんいるのだ。


 しかしどれだけ一心に願って、必死にもがいても、叶わないことだってある。

 生まれや視座が異なるからなのか、はたまた世界に対して見切りをつけているからなのか。それは挫折してしまった人間だからこそわかる一種の諦観であり、真実だった。


(そんなにいいものじゃない、って私が言っても説得力ないわよね……)


 ただの村娘の生まれであるジュリアには、立場の異なる彼女たちの心境を完全に理解することはできなかった。

 彼女たちの気持ちがわかる者がいるとすれば、それは間違いなく初代聖女ハルミアだろう。


 後の世で〈救世の聖女〉と謳われている偉大な初代聖女。神に愛され、与えられた神通力ちからで遍く人々に希望と愛を伝えた聖女。


 しかし実際の彼女は、そんな称賛を向けられるに値する人物ではなかった。

 終わらない旅の果てに心が折れ、すべてから逃げてしまった卑怯者。


 そんな自分かのじょが、どうして後世の人々に聖女として崇められているのか。


 きっとこれは罰なのだ。

 世界からも、弟からも、愛する人からも逃げてしまった自分への罰であり、償い。


 何度かの転生を経て、彼女はそう受け入れていた。


 相反する人物像にされてしまったのは、後の人々の精神的支柱になるため。そのためなら、甘んじてこの罰を受け入れよう。


「でも、いいんです。どうせ、私なんかが次代聖女に選ばれるなんてあるわけないですし」


「シエナ……」


 しかしだからこそ、ジュリアは気付いてしまった。

 そう苦笑交じりに卑下するシエナの姿が、かつての自分と同じだということに。


『だって、みんなのためだもの』


 隣にいる彼女はあくまで一人の少女。

 だのに、背負うもの背負わさせるものが大きく、またその背中がとても小さいということに。


 しかし償うべき罪があるハルミアと違って、背負うべきではない物を背負っている彼女に一体何の罪があるというのか。


 そう思った途端、腹の底から何かが沸き起こるような感覚があった。


 それは暗く、淀んでいる感情ものではあったが、確かな熱を帯びていた。


 きっとこれは――。


「ジュリアさん?」


 歩みを止めたジュリアに、振り向いたシエナがその名前を呼んだ。


「ねえ、シエナ。聖女になる条件って、なんだか何かわかる?」


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