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元救世の聖女は、かつて愛した魔王と再び逢うため六度人生を巡る  作者: 都辻空


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20 試験内容

 聖女選抜試験の試験会場となる〈世界樹の森〉は、神殿の裏手に広がる広大な森で、試験内容は、一見してとても簡単に思えるものだった。


『禁足区域〈世界樹の森〉にて、精霊から祝福を受けること』


 試験官である神官が、改めて試験内容について説明する。


「先ほど呼び出した際にお渡しした花の蕾を、精霊の加護を受けて開花させてください」


「……」


 ジュリアは少女たちの最後尾で静かに続きを聞いていた。


「蕾が開花した方は、近くにいる試験官に速やかにご自身の名前と共に報告してください。


 精霊の加護以外の方法で蕾を開花させた場合は、こちらで判別が付きますので、そう判断された場合は失格となります。また、不要な神通力ちからの行使を確認した場合にも失格とさせていただきますので、ご注意ください」


(……まあ、妥当って感じね)


 聖女に求められる条件は大きく分けて三つ。


 ひとつは神通力ちからを行使できること。とは言っても、神通力にはいくつか種類がある。

 聖女が持つその大半は主に癒しや回復といったものが多いが、生命を慈しみ育むものも存在するのだ。


 二つ目は、精霊を知覚し、対話が可能であること。

 この世界を守護する数多の精霊たちに日々感謝と祈りを捧げ、その恩恵を受け続けられるようにする。それも聖女の役割の一つだった。


 今回の試験内容としては、神通力の強さや種類よりも、こちらの方が重要視されているということだろう。


 そして最後の三つ目は――


「あら? どなたかと思えば、由緒正しき二代目ルシアナ様が直系のシエナさん。まだいらっしゃったのね」


 その言葉で、ジュリアは我に返った。

 気付けば、周囲にいた神官や少女たちが聖域へと先に入っていく後ろ姿が遠巻きに見える。


 今この場に残っているのは、片手で数えられる人数だ。


(……誰?)


 ジュリアが振り向くと、長い金髪を優雅に靡かせた少女がこちらへと歩いてきていた。

 その冷たい視線の先には、この場に残るシエナと呼ばれた一人の少女が立っている。


「リーサンネさん……」


 歩いてくる少女に見据えられながら、シエナがその名前を口にした。半歩後ずさったことで、肩口までの茶髪が僅かに揺れる。


「でもそうよね。わざわざ試験にいらしたんだもの。あなた、やっと〝奇跡〞を使いこなせるようになったのでしょう? せっかくなのだし、ぜひこの場でご披露いただきたいものだわ」


「それは……」


 あからさまな敵意。

 どうして、彼女にそれが向けられなければならないのか。


「先ほどの神官さまの説明を聞いていなかったのですか? 試験以外での不要な神通力を使うことは、失格対象になりますよ」


 思わず、ジュリアは二人の会話に割って入っていた。

 当然、二人の視線が彼女へと向けられる。


「……あなたもよ。お情けで試験を受けている一般人風情が」


 リーサンネの鋭い視線からは、明らかな憤怒と侮蔑が読み取れた。


「先ほどはヴィオレーヌ様の顔を立てて何も言わなかったけれど、本来あなたのような身分の人間が、聖域に入ること自体おかしいのよ。


 少しは身の程をわきまえたらどうなの? ああそれとも、偉大なる初代様や勇者様の名前を騙るなんて不遜な方には、身の程なんてわからないのかしら?」


「……」


 それは正論だ。返す言葉もない。


「私たちはね、この国の、いいえ、この世界のために身を賭す覚悟でこの試験に来ているの。

 あなたたちのように能力の伴わない者や、身の程知らずな人間にその覚悟を邪魔してほしくないわ」


 去り際に、彼女は次の言葉を残していった。


「覚悟もないのなら、潔く棄権してはどうかしら?」


 リーサンネが森に入っていく姿を横目に、ジュリアは一人肩を竦めた。


(……酷い言われ様ね)


 返す言葉が見つからなかったものの、あんな敵意をむき出しにされるとは。


 二人きりで森の入口に残され、ジュリアは先ほどからずっと固まっている少女シエナへ声を掛けることにした。


「ねえ、あなた」


「は、はいっ!」


 肩をびくんとさせて、シエナが声を上げる。


「そんなに畏まらないで。同じ試験を受ける者同士、仲良くしましょう。私はジュリアスティア。ジュリアでいいわ」


「わ、私は……シエナリス=パートフェルムです。みんなからはシエナって呼ばれています」


 ここにいても何も始まらない。

 ひとまず歩き出すことを決めた二人は、陽光を受けて樹々の葉が煌めく森の中へと足を踏み入れた。


 二人で並んで歩きながら、ジュリアは思っていた疑問を口にする。


「それで、シエナ。どうしてさっきはあのリーサンネ? って人にあんな風に言われていたの?」


 先程のリーサンネの視線は、まるで親の仇でも見るような目だった。


 実際問題、聖女の血が一滴も流れていない自分ならまだしも、聖女の家系であるはずのシエナがあそこまで言われる筋合いはないと思うのだが。


 それに、取るに足らない相手なのであれば、あそこまでの敵意を向ける必要もない。そもそも認識すらしないだろう。しかし食って掛かってきたということは、彼女へ何かしらの感情が向けられているということだ。


「それは……私が、落ちこぼれだからです」


 俯きながら、シエナが口を開いた。


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