01 出逢えるチャンスは、あと一度……?
『別に、誰が誰と恋に落ちても言いと思う』。そんな発想から突発的に生まれた物語なので、ガバガバな設定が多々存在しますが、悪しからず。
もう何度浴びたのかわからない朝日を浴びて、彼女は目を覚ました。
――また、あの日の夢を視た。
大切な人に〝共に死のう〞と言っておきながら、自分だけ死んでしまった日の夢を。
『むかしむかし。
道ならぬ恋――いえ、愛に落ちた者たちがおりました。
一方は聖女、また一方は魔王という関係でした。
二人は互いの立場から、想いを伝え合うことはしませんでしたが、それでも世界が平和であるようにと、人間と魔族が互いに争い合わない選択をし続けました。
けれど、とある些細なことがきっかけで、二つの種族は戦争を始めてしまいました。
戦争で多くの生命が失われることを憂いた聖女は、魔王に共に滅ぼうと持ち掛けます。
魔王は苦しむ聖女を放っては置けず、その提案にのりました。
二人が心中に用いたのは、魔族の秘境にのみ存在する〝永の別れ〞と呼ばれる花の蜜。
不老不死として生きる魔族すらも、その毒には敵わないという猛毒でした。
二人は永遠の愛と別れを告げて、口付けを交わし、その毒を呷りました。
けれど、運命は残酷でした。
魔族の秘境に咲くその花の毒は、魔族の長である魔王にはなぜか効かなかったのです。
魔王は冷たくなった聖女の遺体を人間の世界へと運び、争いの終わりを告げました。
『聖女はその命を賭して、争いを止めた』
以来、かの聖女が我が国で〝救世の聖女〞と呼ばれる由縁はここにあります。
そして魔王は、配下の魔族たちを率いて北の山脈を越え、遥か北の地に移り住みました。
今日に至るまで、人間の世界と魔族が関わりを持ったという話は聞いておりません。
不老不死という魔族の王は、今も独りで亡き聖女が愛した世界を見守っているのです。
めでたしめでたし』
「何もめでたくないわ! こんなバッドエンドなお伽噺!!」
何度読んでも腹が立つ。
最後のページを叩きつつ、ジュリアスティア――ジュリアは思っていたことを口に出して叫んでいた。
(でも、この話を後生に遺せって言ったのは〝前の〞私だし、文句は言えないけど……)
せめて、この最後の〝めでたしめでたし〞はどうにかならなかったのだろうかと、意味ないことと知りつつも、恨めしく本の文末ページを睨む。
今では『救世の聖女と魔王』という題名で有名になったこのお伽噺は、子供向けの絵本にまでなって国中に伝わっていた。
(アーシスったら、何でこの最後にしたのよ……)
この話を伝えた、かつての自分の一人息子の名前を心の中で紡ぐ。
(――だって)
実はこのお伽噺には、続きがあるのだから。
後の世に〝救世の聖女〞と呼ばれることになる少女・ハルミアはその死の間際、かつて賭け事をして勝った相手である古の神より、特別な力を得ていた。
それは、転生の呪い。
彼女が生前に積んできた七つの徳に免じて、七度のチャンスが与えられるという。
一度目は、深い思慮を。
二度目は、屈さぬ勇気を。
三度目は、慎ましい節制を。
四度目は、折れぬ正義を。
五度目は、厚く敬虔な信仰を。
六度目は、潰えぬ希望を。
七度目は、いと深き愛を。
一度転生する度に、積んできた徳が一つ失われていくという呪いだったが、それでもまた一目魔王に逢いたかった彼女は、二つ返事でその力を手に入れたのだった。
けれど、何度生まれ変わっても、救世の聖女は魔王と再会することは叶わなかった。
一度目は、目の前まで行ったのに。
二度目は、遥か彼方の異国の地に生まれ、志半ばにして。
三度目は、病に倒れて。
四度目は、信じた人に裏切られて。
五度目は、己の想いを忘れかけて。
そして、この度――ジュリアスティアとして六度目の転生を果たした時。
彼女は気付いてしまったのだ。
自分に残された転生の機会はあと一度であり、最後の徳である愛を失ってしまえば、魔王への愛も失ってしまうのではないかと。
「もうっ! ほんとにこの世界に神様が残っているのなら、加護ってものをみせなさいよ!」
六度の転生を経て、元〝救世の聖女〞の心はすっかりやさぐれてしまっていた。
これは、かつて悲恋で終わってしまったお伽噺を、六度目の今世こそ〝めでたしめでたし〞で成就させようと決意する、とある元聖女の物語。